第9話 料理好きの魔法使いと一日だけの旅
~山菜と笑顔、そしてちょっとの魔法~
森の小道をのんびり歩いていた七海は、ふわりと香るハーブと、どこか楽しげな笑い声に気づいた。
「……あれ、誰かいる?」
茂みを抜けると、帽子の先がくるくると揺れる魔法使いの女性が、木の枝をかき分けながら楽しそうに野草を摘んでいた。
「こんにちは! あ、あなたも食材探し?」
「ええ、まあ……ちょっとつまみ食い用に山菜でも」
七海は軽く笑う。
彼女の名はリリィ。魔法も料理も大好きという、なんとも元気な魔法使いだった。
「せっかくだから、今日一日、一緒に旅しませんか?」
「うん、それ面白そうね。ちょっとだけ付き合います」
◆
森の中、二人は山菜採りを始める。
「これは……ちょっと珍しいキノコかも!」
「こっちにはタラの芽。天ぷらにしたら最高ね」
七海の万能道具箱からは、調理器具や携帯鍋がぽんぽん出てくる。
昼になると、二人はその食材を使った即席料理対決に挑戦。
「負けませんよ!」
「ふふ、じゃあ負けないわよ~」
七海は道具箱から「自動かき混ぜ鍋」を取り出し、リリィは魔法で食材をちょこちょこ浮かせながら炒める。
香ばしい匂いが森の中に広がり、鳥も思わず立ち止まるほど。
味見の瞬間、二人は顔を見合わせて大笑い。
「これ、どっちが勝ちか決められないね!」
「うん、料理は楽しむのが一番!」
◆
夕暮れ時、焚き火のそばで座りながら、旅の話をする。
「私はね、気ままに旅して、あちこちの人や景色に会うのが好きで」
「私は……魔法の腕を磨きながら、料理の腕も上げたいの」
静かに夜が更け、星がぽつぽつと光り始める。
焚き火の火と、二人の笑顔が小さな温もりを作る。
そして朝。山の稜線から光が差し込む頃、二人は旅立ちの時を迎える。
「またどこかで会えるといいね」
「ええ、その時はもっとおいしい料理で勝負しましょう!」
笑顔で手を振り合い、それぞれの道を歩き出す七海とリリィ。
森にはまだ、昨日の香りと笑い声がほんのり残っていた。