第87話 大きな卵と見守りの日
~沈黙の中に、ちょっとした予感~
苔の森を抜けた先、七海はぽつんと開けた草地に出た。
そこには、ひとつだけ――人の背丈ほどもある、大きな卵が静かに佇んでいた。
「……え、なにこれ。でか……でも、なんか“生きてる”って感じはしないな」
卵は、白くて少しだけ透けていて、表面には細かな模様が浮かんでいる。
風が吹くと、模様がほんの少しだけ光る。
七海は、マグを片手に卵の前に腰を下ろす。
「……割れる気配もないし、動かないし……でも、なんか“待ってる”感じがする」
道具箱をポン。
“気配読みの布”を取り出して、卵にそっとかける。
布は、触れたものの“感情の残り香”を読み取るアイテム。
すると、布がふわりと揺れて、静かな声が響いた。
「まだ、目覚めない。でも、誰かが見てくれているなら、それだけでいい」
七海は、マグを傾けてぽつり。
「……世界は救えないけど、見守るだけなら、できるかも」
卵は、何も言わず、何も動かず。
でも、風が吹くたび、模様が少しずつ変化していた。
夕方。空が淡く染まり、卵の影が長く伸びる。
七海は、宿屋をポンと建てて、縁側で静かに座る。
「……これ、いつか割れるのかな。誰かが来たとき? それとも、誰かが去ったあと?」
風は、卵の表面をなぞるように吹き抜けていった。




