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第80話 港町と、潮風の午後

~波の音と、ちょっとした見送り~

七海は、移動式の宿屋をポンと建てて、港町の桟橋を歩いていた。

潮の香り、カモメの声、遠くで船の鐘が鳴る。


「……海って、見てるだけで“どこかへ行きたくなる”気分になるなぁ」


七海は港の小さな喫茶店に立ち寄る。

店主は、旅人の話を集めるのが趣味らしく、壁には世界中の地図と、手紙が貼られていた。


「この町はね、出発と到着が混ざってる場所なんだよ。誰かが行って、誰かが帰ってくる」


七海は、道具箱をポン。

“風読みの旗”を取り出して、店の屋根にそっと掲げる。


「これ、風の向きで“出発に向いてる日”がわかるんです。ちょっとだけ、役に立つかも」


その日、港ではひとりの少女が船を見送っていた。

旅立った兄に、言えなかった言葉があるらしい。


七海は、道具箱から“言葉の貝殻”をポン。

貝殻にそっと声を吹き込むと、風に乗って船へ届く。


「……世界は救えないけど、言えなかった言葉くらいなら、届けられるかも」


少女は、七海に深くお辞儀して、笑顔で手を振った。

「ありがとう、おねーさん。きっと、届いたと思う」


夕方。港の空がオレンジに染まり、船の影が遠ざかっていく。

七海は、宿屋の縁側でマグを傾けてぽつり。


「……港って、誰かの“はじまり”が見える場所なんだなぁ」


風が吹き、風読みの旗がふわりと揺れる。

七海の旅も、また次の場所へ向かっていく。

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