第8話 星降る夜の即席宿屋
~寒い夜こそ、ぬくもりはごちそう~
高原の道は、昼間こそ陽射しが心地いいけれど、日が落ちると急に冷える。
「うぅ……空気が冷たすぎる……」
七海はマフラーをきゅっと巻き直し、白い息を吐いた。
そんな時だった。道の先に、焚き火を囲む数人の旅人たちの姿が見えた。
毛布にくるまってはいるものの、肩を寄せ合い、明らかに寒そうだ。
「こんばんは、旅の方ですか?」
「……ああ、そうです。今日は町までたどり着けそうになくて……」
彼らの吐く息も白く、指先はかじかんでいる。
――これは、ほっとけないやつだ。
「よし、ちょっと待っててくださいね」
七海は腰の万能の道具箱に手を突っ込み、にやりと笑った。
「スキル発動――即席宿屋、建てちゃいます!」
ぱあっと地面が光り、目の前に木の香り漂うログハウス風の建物が現れた。
壁は厚く、窓からはあたたかな光が漏れ、煙突からは白い煙が立ちのぼっている。
「……す、すごい……!」
「どうぞどうぞ、中へ」
◆
中はふかふかのベッドが並び、暖炉にはぱちぱちと薪が燃えている。
テーブルにはポットとマグカップを用意し、温かいハーブティーを注いだ。
「わぁ……こんなぬくもり、久しぶりだ」
「助かったよ……ありがとう」
旅人たちはほっと息をつき、冷え切った手をマグカップで温める。
七海もベッドに腰掛け、暖炉の火を眺めた。
薪がはぜる音と、湯気の立つハーブティーの香り。窓の外には満天の星空。
「こういう夜って、ちょっと特別感ありますよね」
「ええ、寒かったけど……今は最高です」
誰かの笑い声が静かに響き、部屋の空気がゆるりと和らいでいく。
暖炉の火と、人のぬくもりが混ざり合う――そんな夜だった。