第7話 お祭りと、使い切れない屋台道具
~祭りは準備からが一番楽しい説~
川沿いの道を歩いていた七海は、聞き慣れない賑やかな音に足を止めた。
「ん? あれは……お祭り?」
橋の向こうに見える町は、色とりどりの提灯で飾られ、あちこちから太鼓や笛の音が響いてくる。人々が浴衣姿で行き交い、屋台からは香ばしい匂いが漂ってきた。
――いいなぁ、こういう雰囲気。この世界にも浴衣ってあるのね……
ちょっと寄り道のつもりで足を踏み入れたその時。
「お嬢さん! 助けてくれ!」
声をかけてきたのは、額に汗を浮かべた町の青年。
「えっと、何かあったんですか?」
「屋台の道具が足りなくて、せっかくの祭りが始まらないんだ! お嬢さん、もし旅人なら……道具、持ってたりしない?」
七海は一瞬だけ迷った。いや、正直に言えば、逃げようかと思った。
でも、周囲には準備に追われる人たちの姿。
――あの笑顔が消えるのは嫌だなぁ。
「わかりました、私に任せてください」
腰の万能の道具箱を軽く叩く。
「……タコ焼き機、出ろ!」
ごとん、と音を立てて現れたのは、鉄板に丸いくぼみがずらっと並んだタコ焼き機。
「次、風船ヨーヨー用のポンプと水槽!」
ぽんぽんと次々に机や鉄板、鉄串、ジュースクーラーまで出現する。
「うおお……なんでも出てくる!」
「これで屋台、全部間に合いそうだ!」
◆
夕方になると、通りはすっかり祭りの舞台に変わっていた。
七海は焼きそば屋の手伝いをして、鉄板の上でジュウジュウと音を立てる麺をほぐす。ソースの甘辛い香りが鼻をくすぐり、思わず自分用の小皿を作ってしまう。
「ほら、ヨーヨー釣りも大盛況だよ!」
「タコ焼き、あと3舟追加!」
あっという間に日が暮れ、頭上では大輪の花火が夜空を彩った。
七海は屋台の片隅で焼きそばを頬張りながら、川面に映る花火を眺める。
「こういうのって……準備から関わると、楽しさが倍増するのよね」
ふと隣を見ると、昼間助けを求めてきた青年が、同じように花火を見上げていた。
「本当にありがとうな。おかげで町中が笑ってる」
「いえいえ、私も楽しませてもらいましたから」
花火の光が七海の横顔を照らし、一瞬だけ川風が頬を撫でた。
夜空にはまだ、次の大輪が咲く音が響いている。