第6話 雨の日の読書と、ふわもこの老猫
~静かな午後と、ふわふわの温もり~
その日は朝から曇っていたが、昼過ぎには本降りの雨になった。
街道を歩いていた七海は、傘代わりのマントを羽織っていたものの、じわじわ服が濡れてくる。
「……これはやばいな。どこか雨宿りできる場所、ないかな」
しばらく進むと、道端に苔むした小屋が見えた。
壁はところどころ板が歪み、窓も半分割れている。けれど、屋根はしっかり残っていそうだ。
「おじゃまします……っと」
扉を押し開けると、中はほこりっぽいが乾いていた。
七海は隅に毛布を広げ、万能の道具箱からマグカップとティーバッグを取り出す。
――今日はここで、雨がやむまでのんびりしよう。
◆
本を開いたそのとき。
背後から「すっ」と気配がして、ふわっと何かが足元に触れた。
「……猫?」
白毛に灰色が混じり、耳が少し欠けた老猫が、まるで自分の家に帰ってきたかのように小屋へ入ってきた。
そして迷いもなく七海の膝に乗り、丸くなった。
「お、おきさき……って呼んでもいい? なんか品があるから」
◆
外では雨音がぽつぽつからざぁざぁに変わり、屋根を叩く音が心地よいリズムになる。
七海は片手で本をめくり、もう片方で猫の背をゆっくりなでた。
老猫はゴロゴロと喉を鳴らし、その振動が毛布越しに伝わってくる。
「どこから来たんだろうね。……でも、雨の日はぬくぬくしてるのが正解だよ」
万能道具箱から小さなパンを取り出し、ちぎって老猫に差し出す。
猫はゆっくりと、それを食べた。
◆
やがて雨は少しずつ弱まり、雲の切れ間から淡い夕陽が差し込む。
老猫はのそりと立ち上がり、出入口へ向かう。
「また会えるといいね、おきさき」
振り返らずに去っていく背中を見送り、七海は本を閉じた。
小屋の中にはまだ猫の体温が残っていて、雨上がりの空気と混ざって心地よい。
チートの宿屋では味わえない素敵な時間。
――こんな一日も、悪くない。