第55話 勇者と魔王、喫茶店で鉢合わせ
~戦わず、でもちょっと気まずい午後~
七海はいつもの喫茶店で、ふわふわのハーブティーをすすっていた。窓からは祭りの余韻でまだざわめく街並みが見える。
先に店に入ったのは、少し疲れた顔の勇者。連日の称賛でげんなりしつつ、静かに紅茶でひと息つこうとしている。
「……ふぅ、やっと落ち着ける」
七海は心の中で微笑む。
「今日は誰にも巻き込まれず、ゆるゆるできそうね」
ところが、ドアが再び開いた。黒マントの魔王が、紙袋を手にのんびり入ってくる。目当てはもちろん、喫茶店の季節限定スイーツ。
「……あれ? ここに誰かいるような……」
勇者と魔王、視線がぶつかる瞬間。お互いが微妙に気まずく固まる。周囲の客はちらりと見て、目を丸くする。
七海は小さくため息をつきつつ、心の中でつぶやく。
「……戦わない二人が、こんなに気まずくなるなんて……」
魔王は紙袋からスイーツを取り出し、勇者の前にそっと置いた。
「……あの、食べますか? 争いませんし」
勇者は少し戸惑いながらも、手を伸ばす。
「……ええ、いただきます。戦わずにお菓子を分け合うのも悪くないな」
七海は微笑みながら、窓際の席に戻る。
「戦わないし、争わないし、ちょっと気まずいけど平和……これぞゆるゆる異世界ライフ」
勇者と魔王は小さく頷き合い、互いにそっと紅茶をすする。店内にはほのかな笑い声とティーカップの音だけが響く。
王都の午後は、戦わない勇者、戦いたくない魔王、そして七海の平和なティータイムで、ゆるやかに過ぎていった。




