第4話 道具屋カフェ、一日限定オープン
~のんびりごはんと夕日タイム~
温泉村を後にした七海は、山を下りて次の街へ向かっていた。
相変わらず特に予定はない。おいしいものと、ゆっくりできる場所があればそれでいい、というゆるゆる旅だ。
「……あ~、お腹すいたなぁ。次の街まで何時間くらいだろ」
そんなことをぼんやり考えていると、道の先で数人の旅人たちが腰を下ろしているのが見えた。
荷物は大きく、顔には疲れと空腹の色。
「どうしたんですか?」
「いやぁ……途中で食料が尽きちゃって。街まではあと半日、持たないかもなぁって」
七海は腕を組んだ。
――本来は私の旅路と関係ない。でも……こういう顔は、放っておけないんだよね。
「じゃあ、食事でも作りますか」
旅人たちは目を丸くした。七海はにっこり笑って、万能の道具箱を取り出す。
「えっ、それ……そんなに大きい荷物、持ってなかったですよね?」
「そこは企業秘密ってことで」
◆
まずはテーブルと椅子をぽん、と設置。
次にミニ焙煎機、ミル、コーヒーポット、そして袋からコーヒー豆が登場。
「うわ、いい香り……」と旅人たちの目がさらに輝く。
「せっかくだから、コーヒー淹れますね。あと……あ、焼き立てパンもある」
袋からは、湯気の立つ丸パンやバゲット、自家製ジャムまで出てくる。
一人の旅人が「なんでも出てくる魔法の箱か……」と感嘆した。
焙煎した豆を挽く音が心地よく響き、やがて濃く甘い香りがあたりを包む。
七海はコーヒーを丁寧にドリップし、パンにはたっぷりとバターを塗る。
「はい、お待たせしました。カフェ成瀬、本日限定オープンです」
◆
旅人たちはパンにかぶりつき、コーヒーをすする。
「はぁ~、生き返る……」「これ、街の店でも飲めない味だよ」
七海は「出世払いでお願いします」と笑って、自分もコーヒーをひと口。
空はオレンジ色に染まり、遠くの丘が金色に輝く。
みんなでただ黙って夕日を眺める時間が流れる。
「……こういうのも、悪くないですね」
「ええ、また会ったら、ぜひ開店してください」
片付けを終え、七海は「さて、今日もよく働いた」と伸びをした。
次の街まではまだ少し歩くけれど、心はほっこりと温かい。
夕日の中、一日店長ののんびり旅は続く――。