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第32話 語りたがりの暖炉
~火花よりおしゃべりが飛びCill~
山間の道を一日歩き、七海は「今日はここで宿だな」と草原の中にぽんと宿を建てた。
内装はログハウス風。木の壁と柔らかなランプの光が、なんとも落ち着く。
「ふぅ……やっぱり夜は暖炉で炎を眺めながら、のんびり紅茶だよね」
道具箱からティーカップと茶葉を取り出し、湯をわかす。
七海は炎を焚きつけ、暖炉に薪をくべた。ぱちぱちと音が鳴り、部屋はあたたかい光に包まれる。
――その瞬間。
「おぉぉ~! 今日も最高に燃えてるぜ!」
「……え? 今、誰の声?」
七海はカップを落としそうになった。
「こっちだこっち! わたしだよ、暖炉だよ! あんたのおかげで久々に燃えるチャンスが来たんだ!」
「……いや、暖炉がしゃべるのはおかしいでしょ」
「火は命! 命あるものは語る! さあ聞け! わたしが燃やしてきた丸太たちの歴史を!」
七海は頭を抱えた。
炎は美しいが、暖炉の声が止まらない。湿った薪の愚痴、よく燃える枝の自慢、過去に見た家族団らんの思い出話。
「……いや、私、静かに過ごしたいだけなんだけど……」
「静かに? 人生そんなもんじゃつまらんだろう! 炎のごとく語らにゃ!」
その夜。七海は結局、紅茶を飲みながら暖炉の「炎トークショー」に延々付き合うことになった。
……だが、不思議と心は温まっていた。




