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第31話 ティーポットは語りたい

~その話、村人にも聞かせたいんですけど~

昼下がりの草原の真ん中。

七海は「今日はここに泊まろう」と決め、万能チートを発動させた。


「よし、出ろ! 期間限定マイ宿~」


ぽこん、と目の前に現れるのは、小さな木造の宿。

中に入れば、ふかふかのソファに、紅茶が似合う落ち着いた空間が広がる。

旅の途中、気分次第でどこでもマイ宿。これが七海のチル系異世界ライフだ。


「さて、今日は誰にも会わず、ひとりでゆったり紅茶だな」


万能の道具箱からティーポットを取り出し、湯を注ぐ。

立ちのぼる香りにうっとりした瞬間――


「ふぅ~、今日の茶葉はダージリンですな! 深いコクと上品な香り!」


七海は一瞬固まった。

……ポットの取っ手が震えている。


「いやいや、しゃべった!? あんた、ただの道具箱のアイテムでしょ!」

「ただの? 失敬な! わたしは紅茶の魂を宿したティーポットですぞ!」



しばらく「紅茶講座」を聞かされていたところ、宿の扉をノックする音がした。

外に出ると、近くの村から来たらしい青年が立っていた。


「あの……旅人さん? 草原にいきなり宿が建ったから、びっくりして」

「あ、えっと……一泊限定のマイ宿です。怪しいものじゃないです」


困り笑いする七海の背後から、ポットが元気よく叫んだ。


「そこの青年! 紅茶はお好きか! 今日は歴史から味わいまで、フルコースでお届けしますぞ!」


青年はぽかんとし、やがて吹き出した。

「ははっ! 変わった旅人さんだなあ。でも、なんか楽しそうだ」



結局その日、七海は予定通り「ひとり静かな紅茶タイム」を過ごすことはできなかった。

代わりに村の青年と一緒に、ティーポットの“おしゃべり講座”を延々聞かされる羽目に。


……でも、ふたりで飲む紅茶は思っていたより温かく、笑いも多かった。


「まあ、こんな旅の寄り道も悪くないか」


カップを置いて、七海は窓から草原の夕焼けを眺めた。

旅はまだまだ続く。世界は救わないけれど、今日もちょっとだけ人とつながった。


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