表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/92

第18話 迷子と風船

~市場パトロール、臨時子守係やります!~


昼下がりの市場。

香辛料の香りと、焼き立てパンの匂いがふわりと混じって、もうここに住みたい……と思っていた矢先。


「……ひっく……うえぇぇん……」


泣き声。小さい子供が道の真ん中で大泣きしていた。

通りすがる人は「あらら」「親はどこだ?」とひそひそ声をかけるだけで、誰も近づかない。


……はい、これ完全に「関わりたくないけど、放置したら後味悪いやつ」ですよね。


「えっと……大丈夫?」

恐る恐る声をかけると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔がこちらを見上げてきた。


「……おかあさんが、いなくなっちゃったの……」


あー、なるほど。迷子ですね。

こういう時、総務部仕込みの“困ってる人のとりあえず対応”スキルがうずく。


「よし、任せて!」


――こういうのはまず泣き止ませるのが先。

私はすっと手をかざし、万能の道具箱からアイテムを取り出した。


「じゃーん!風船!」


ぷしゅっと膨らむカラフルな風船を子供に差し出すと、泣き声が一瞬止まる。

その隙に、さらに出す。


「お菓子!……と、絵本!」


両手いっぱいに抱えさせたら、さっきまで泣いてたのが嘘みたいに「わぁ……!」と目を輝かせている。

よし、子供は単純でありがたい。


「じゃあお姉さんと一緒にお母さん探そうか」


子供の手を引いて市場を歩き出す。

近くの店に声をかけてみたり、衛兵さんに聞いてみたり。

そして、案外あっさり「うちの子――!」と母親が駆け寄ってきた。


「お母さーん!」

子供は風船をぶんぶん振りながら飛びつき、母親は涙目で抱きしめている。


よかったよかった。任務完了。

私はほっと息をつき、そっと立ち去ろうとした。


……のに。


「お姉さん、すごいなぁ!さすが冒険者だ」

「子供を泣き止ませるなんて、魔法使いか?」

「いや、もしかして聖女様かも……!」


周囲の人々がわらわらと集まってきて、口々に持ち上げてくる。


え、ちょっと待って。

私、ただのOLですけど。異世界で人助けしたら“聖女疑惑”が浮上ってどういうこと。


「あ、あの、私はただ通りすがりの者で……」

必死で否定しながら、私はそそくさと市場を後にした。


――まあでも。

泣き虫ちゃんが笑顔になってくれたなら、悪くないかな。


ポケットから取り出した風船が、ふわりと風に揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ