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第16話 森の小道ときのこの夕暮れ

~お腹がすいたら、宿を出す。旅の基本です~

昼下がりの森の小道を、私はのんびり歩いていた。

頭上からは木漏れ日が斑模様に差し込み、足元ではふかふかの落ち葉がカサカサと音を立てる。小鳥の声がリズムを添えて、なんだか癒しのBGM。


「……あー、空気がおいしい」


深呼吸した瞬間、ふと視界の端に入ったのは、やたら大きなきのこ。

傘は人の頭ほどあって、赤茶色に白い斑点までついている。


「……いや、絶対食べちゃダメなやつでしょ。ファンタジーの毒きのこ感がすごい」


思わず後ずさりしながら道を進むと、前方でしゃがみ込む人影が見えた。


「こんにちは。森歩きですか?」


声をかけると、顔を上げたのは旅芸人風の少女だった。小さな袋に木の実を入れていて、どこか困ったように笑う。


「村に帰る途中なんですけど……日が暮れる前に抜けられるかなあって」


なるほど。確かに森の中は思ったより広い。地図を広げるまでもなく、彼女が心配する理由はよくわかった。


「まあ、のんびり歩けば大丈夫……だと思う。たぶん」

「えええ、不安になる言い方……!」


私たちは顔を見合わせて、つい笑ってしまった。


そんな和やかな空気の直後。


ガサッ、と茂みが揺れ、野犬が数匹姿を現した。

牙をむき、こちらをじっと見つめる。


「……え、待って。戦う系イベントですか? 私、戦い担当じゃないんですけど!」


少女は青ざめて私の袖をつかむ。

私はとっさに辺りを見渡し、比較的登りやすそうな木を指さした。


「のぼろっ!」


二人で必死に木の枝へ。枝にしがみついて息を潜めると、野犬たちは下でうろつきながら吠え立てる。


「ひぃ……」

「……こういうとき勇者なら華麗に撃退するんだろうけど、私は全力で回避派だからね!」


思わず小声で弁解してしまう。


そのとき、頭上からボトリと落ちてきたのは、さっきの巨大きのこ。

地面に転がるや否や、野犬たちは夢中でかじりつき、やがて満足そうに去っていった。


「……た、助かった?」

「きのこに命救われたの初めてかも……」


木から下りて、二人でほっと息をつく。


「お腹すきません?」

「……言われてみれば」


私はそっと万能道具箱を開け、こっそりと取り出したパンと果物を差し出す。

少女の目が丸くなり、そして輝いた。


「すごい! こんなにふかふかのパン、初めてです!」


大げさに喜ばれて、こちらがむしろ照れてしまう。

ほんのちょっと余った果物は、帰り道で歌の練習をしていた彼女に差し入れ。


「今度の公演で、優しい旅人さんの歌を作りますね!」

「いやいや、そんな大げさに……! 本当にただのお裾分けだから!」


私は慌てて両手を振った。


やがて森を抜ける道にたどり着き、少女は村へ駆けていった。


「またどこかで!」

「はい、ありがとう!」


夕陽を浴びながら手を振り合う。


私は再び一人になり、そっと息を吐いた。

戦ったわけじゃない。すごいことをしたわけでもない。

でも、少しだけ誰かの役に立てたなら……まあ、いいか。


「さて。今日の寝床は……宿を出しちゃおうかな」


人目のない場所に移動してから、私だけの快適宿を召喚。湯船に浸かって伸びをしながら、ぼそりとつぶやく。


「きのこ鍋は……やめとこう」


湯気とため息に包まれながら、森の一日は静かに終わっていった。

続きをゆるゆると書いていきますー

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