第14話 静かな湖畔で、ただ釣るだけの休日
~魚が釣れなくても、心は満たされる~
今日は旅の予定も用事もない。
「よし、今日は湖で一日中のんびりしよう」
七海は万能の道具箱から釣り竿を取り出し、湖畔のほとりへ。
水面は鏡のように静かで、時折小さな波紋が広がる。
近くの木陰には、鳥が一羽、じっと様子を見ている。
「ふふ、今日は誰とも話さず、ひたすら釣り……贅沢だなあ」
糸を垂らし、湖面を眺める。
……数分後。
「……釣れない」
いや、焦らない。今日は“釣る”よりも“ぼーっとする”のが目的だ。
風が頬をなで、水音がさらさら耳に心地いい。
七海は竿を持ったまま、うとうと……
――パシャッ!
「え、今のアタリ!? …あ、葉っぱか」
◆
昼頃。おにぎりを頬張りながら、七海は湖を眺める。
「釣れないけど、おにぎりは裏切らないなあ」
足元には、どこからともなくやってきたアヒルが二羽。
「え、君たち魚じゃなくておにぎり狙い? だめだよ、これは私のランチ」
アヒルたちは諦めず、七海の横でずっと座り込み。
結局、おにぎりの端っこをちょっとだけ分けてあげた。
◆
夕方。
「……結局、一匹も釣れなかったなあ」
でも、なぜだろう。胸のあたりはふんわり満たされている。
湖面に夕日が映り、風が少し冷たくなる。
アヒルたちは羽をばたつかせながら湖へ戻っていった。
「まあ、釣果ゼロでも心は大漁ってことで」
七海はそうつぶやき、釣り竿を道具箱にしまった。
湖畔には再び、風と水音だけが残った。