第13話 猫耳の町と、なぜか飼われかけた話
~私はペットじゃありません~
旅の途中、七海はふと道端の案内板を見上げた。
『猫耳族の町 ようこそ』
「へぇ~、耳がチャームポイントの人たちが暮らす町かあ。かわいい響きだなあ」
ワクワクしながら門をくぐった瞬間――
「お姉ちゃんっ!」
勢いよく駆け寄ってきた猫耳の少女に手をぎゅっと握られた。
金色の瞳がきらきらしている。
「やっと見つけた! ずっと探してたんだよ、迷子の飼い主さん!」
「えっ……飼い主? 迷子? 待って待って、私は人間だし、飼われる側の経験ゼロですけど!?」
町の人たちが「ああ、あの子、またやってるのね」と生温かい目で見守っている。
気づけば七海は、そのまま少女に腕を引かれ、路地裏の小さな家へ。
◆
「はい、座っててね。すぐお茶とお菓子持ってくるから!」
「いやいや、だから私は飼い主じゃないってば!」
「……もしかして、お腹すいて機嫌悪い?」
「え、そういう解釈になるの!?」
出されたのは、香ばしい魚の干物と温かいミルク。
「猫耳族ってやっぱりお魚好きなんだね」
「うん! お姉ちゃんも好きでしょ?」
「いやまあ嫌いじゃないけど……」
その後も、少女は毛布をかけてくれたり、髪をブラッシングしようとしたり、完全に“お世話モード”。
七海は苦笑しながらも、「まあ、一日くらいなら……」と観念して受け入れた。
◆
夕暮れ。
町の広場で、少女の母親が慌てて駆け寄ってきた。
「あらまぁ、ごめんなさい! この子、ずっと行方不明になった昔の飼い主さんを探してて……」
事情を聞いて、七海は「あー、そういうことね」と納得。
「ごめんね、お姉ちゃん。でもまた帰ってきてね!」
名残惜しそうに手を振る少女に、七海も笑って手を振り返す。
「今度来るときは、魚の干物くらいは持ってくるよ」
そう言って町を出ると、夕暮れの風がふわっと耳の形をなぞるように吹いた。
「……でもやっぱり、私はペットじゃありませんからね!」
誰もいない道でそう呟き、七海はまた気ままな旅路へと戻っていった。