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第12話 花咲く渓谷と、旅商人の秘密

~のんびり修理屋(仮)、本日も営業中~

山道をのんびり歩いていた七海は、ふと足を止めた。

眼下には、春の花が一面に咲き乱れる渓谷。川のせせらぎと鳥の声が心地よい。


「わぁ……花のじゅうたんって、こういうのを言うんだなあ」


そんな絵になる景色の中、道端で「うーん」と唸っている人物がいた。

大きな荷車のそばで立ち往生している、背中の曲がった老旅商人だ。


「おや、旅の娘さん。ちょっと助けてもらえんかねえ」


見ると、荷車の車輪が片方ぐらぐら。完全に外れかけている。

「こりゃあ……動かしたら車輪が逃亡しますね」

七海は苦笑いしながら万能の道具箱を取り出す。


「こう見えて私、ちょっとした修理ならお手のもんなんですよ」


道具箱をがさごそ……出てきたのは、まるで模型用みたいな小さな木製パーツから、なぜか最新式ボルトセットまで。

「えっと、商人さんの荷車は……こっちのサイズかな?」



作業中、商人はのんびり世間話をはじめた。

「娘さん、旅は長いのかい?」

「まあ、気まぐれで歩いてるだけです。美味しいものとか、景色がきれいな所とか」

「はは、それは贅沢な旅だ」


途中で花びらがひらりと舞い、鼻先をかすめる。

「おっと……くしゃみ出そう……へっくし!」

「あーあ、ボルトに花粉ついた」

「まあ、花粉まみれの車輪も風情ってことで」

そんなやり取りをしながらも、修理は順調に進んでいく。



数分後。

「はい、完成! これでもう逃亡はしません」

七海が手を払うと、商人はぱちぱちと拍手。


「助かったよ。……君のような旅人には、昔なじみの香りがする」


「えっ、私っておでんの匂いします?」

「いやいや、そういう意味じゃ……まあいいか」

商人はにやりと笑って、荷車を押して去っていった。


残された七海は、渓谷を渡る風にふんわりと花の香りを感じる。

「……昔なじみの香り、か。なんだろう。花粉じゃないといいな」


そうつぶやいて、七海もまた花咲く道をのんびり歩き出した。

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