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第11話 風車の丘と、歌う羊飼い

~丘の上は、のんびり風まかせ~

旅の途中、七海は草の香りいっぱいの丘にやってきた。

見上げれば、青空の下で何基もの風車がのんびり並んでいる。


「おー、なんか絵本みたい……って、あれ?」


一つの風車の前で、小さな声が歌を口ずさんでいた。


「♪ラララ、ラララ……あれぇ? 回らない……」


声の主は、羊飼いの少女。足元では羊たちがむしゃむしゃと草を食べ、平和そのもの。

ただ、風車はぴくりとも動いていない。


「こんにちは。風車、壊れちゃったの?」

七海が近づくと、少女はうなだれた。


「はい……歌いながら風を受けると、すっごく気持ちいいのに……今日はぜんぜん回らなくて」


七海は腕を組み、丘の風を感じながら考える。

――本来は私に関係ない。でも、この光景、動いてた方が絶対いいよね。


「よーし、任せて。こう見えて、道具いじりはちょっと得意なんですよ」


万能の道具箱から取り出したのは、ちょっと大きめの工具セット。

金槌やレンチを持って風車の支柱に向かうと――


「メェェェ!」

「ひゃっ!? ちょっと待って、工具はオヤツじゃない!」


羊たちが興味津々で工具をつんつん。

七海は慌てて羊をなでながら、安全地帯へ誘導。


「はい、君たちは見学席ね~。…食べ物じゃないよ?」



数分後――七海基準だと「ほんの数分で」――風車がくるくる回り始めた。

羽が回るたびに丘をやさしい風が渡り、少女の髪とスカートをそっと揺らす。


「わぁ……風も音も、歌うのにぴったりです!」

少女は両手を広げてくるくる回り、羊たちも真似するように首をぶんぶん振っていた。


七海はちょっと笑って、「歌と風車って相性いいんですね。…私は歌は専門外ですけど」


そのとき、羊がまたひょこひょこ近寄ってくる。

「え、もう修理終わったから! はい解散! …って、なでてほしいの? もう、甘えん坊だなあ」


少女はくすくす笑い、七海もつられて笑顔になる。



帰ろうとした七海に、少女がぽつり。

「また歌いに来てもいいですか?」


「もちろん。風車も羊も、私も楽しみにしてます」


丘の上では、風車の羽が音を立て、羊がのんびり草を食む。

七海は風に吹かれながら、なんだか少し口ずさみたい気分になったけど――


「……いや、やっぱりやめとこ。羊が変な顔しそうだし」


こうして、丘の一日は、風と笑い声に包まれてゆっくりと過ぎていった。

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