第11話 風車の丘と、歌う羊飼い
~丘の上は、のんびり風まかせ~
旅の途中、七海は草の香りいっぱいの丘にやってきた。
見上げれば、青空の下で何基もの風車がのんびり並んでいる。
「おー、なんか絵本みたい……って、あれ?」
一つの風車の前で、小さな声が歌を口ずさんでいた。
「♪ラララ、ラララ……あれぇ? 回らない……」
声の主は、羊飼いの少女。足元では羊たちがむしゃむしゃと草を食べ、平和そのもの。
ただ、風車はぴくりとも動いていない。
「こんにちは。風車、壊れちゃったの?」
七海が近づくと、少女はうなだれた。
「はい……歌いながら風を受けると、すっごく気持ちいいのに……今日はぜんぜん回らなくて」
七海は腕を組み、丘の風を感じながら考える。
――本来は私に関係ない。でも、この光景、動いてた方が絶対いいよね。
「よーし、任せて。こう見えて、道具いじりはちょっと得意なんですよ」
万能の道具箱から取り出したのは、ちょっと大きめの工具セット。
金槌やレンチを持って風車の支柱に向かうと――
「メェェェ!」
「ひゃっ!? ちょっと待って、工具はオヤツじゃない!」
羊たちが興味津々で工具をつんつん。
七海は慌てて羊をなでながら、安全地帯へ誘導。
「はい、君たちは見学席ね~。…食べ物じゃないよ?」
◆
数分後――七海基準だと「ほんの数分で」――風車がくるくる回り始めた。
羽が回るたびに丘をやさしい風が渡り、少女の髪とスカートをそっと揺らす。
「わぁ……風も音も、歌うのにぴったりです!」
少女は両手を広げてくるくる回り、羊たちも真似するように首をぶんぶん振っていた。
七海はちょっと笑って、「歌と風車って相性いいんですね。…私は歌は専門外ですけど」
そのとき、羊がまたひょこひょこ近寄ってくる。
「え、もう修理終わったから! はい解散! …って、なでてほしいの? もう、甘えん坊だなあ」
少女はくすくす笑い、七海もつられて笑顔になる。
◆
帰ろうとした七海に、少女がぽつり。
「また歌いに来てもいいですか?」
「もちろん。風車も羊も、私も楽しみにしてます」
丘の上では、風車の羽が音を立て、羊がのんびり草を食む。
七海は風に吹かれながら、なんだか少し口ずさみたい気分になったけど――
「……いや、やっぱりやめとこ。羊が変な顔しそうだし」
こうして、丘の一日は、風と笑い声に包まれてゆっくりと過ぎていった。