懐かしのバッティングセンター
(バシュ!!……ブンッ!!ドスン!!!)
帰省した私は、数十年ぶりに実家からほど近いバッティングセンターを訪れていた。
当時と全く変わらない店構え。
店内に足を踏み入れた瞬間、懐かしい景色と少し埃っぽい匂いがブワッと広がる……。
「まさかタイムスリップしていないよな?」
そう感じる程に、全てが当時のままであった。
歳を重ねる毎に、『変化』という物に恐怖を感じるようになってきた私にとって、心が安らいでいくのがわかった。
通路脇にはレトロなゲーム機が規則的に並んでいる。
具体的なタイトルは伏せるが、私と同年代であれば、誰しもがプレイした事があるはずの名作だ。
ん?ヒントが欲しい?
……よしわかった。
『爆弾』『魔界』『龍と虎』 とだけ明かすとしよう。
さて、懐かしむのはこの辺にして、本来の目的のバッティングを始める。
昔ながらの緑色の網で出来たゲートを右手で払いつつ、くぐる。
「1人なんですけど、空いてますか?」
おいおい、居酒屋の暖簾じゃないだろう。
すまない。1人でボケてしまった。
……ツッコミがいない。
まぁ、バッティングでは体が突っ込まない様に気をつけよう。
(チャリン!)百円玉を料金箱に入れた。
ほぼ同時に、網の奥に佇むマシンの目に
赤い光が灯った。
(ヴーン……)という作動音はさながら、マウンド上で深呼吸をしているピッチャーの吐息の様である。
こちらも、深く息を吐き出しつつ、
ややリラックスした状態でバットを構えて球を待つ。
(バシュ!)
『きたっ!』
(ブンッ!!ドスン!!!)
(バシュ!カキーン!!!)
空気を7割と球を3割あたりの確率で捉えていく。要するに空振りが多めである。
酎ハイであればベストな割合なのだが……。
頭の中のイメージと身体の動きの乖離がひどい。
ただのブランクとは違う何かを本能的に理解した。
「そうか、もうすっかり中年になったんだな。」
と、しみじみと思い知らされた1日となった。
tomocha928
作中のレトロゲームのタイトルは、ボンバーマン、魔界村、龍虎の拳です。