入学初日 一條志の場合
入学式。自宅から15分程度の遠くもなく近くもない距離。
校門前の桜並木から、入学のお祝いとしての花吹雪を受けつつ、俺は校門を潜る。
中学生になったからといって、俺、「一條志」の生活自体は大して変わることは無い。小学校時代の友人もほとんどがこの中学校に入学しているし、既に入る部活も決めていた。
3年という小学校に比べ短い期間で、部活や受験など人生に関わるイベントをこなさなければならないということは少し不安ではある。しかし怠けることがなければなるようになるだろう。とか考えながらボーッとする頭でクラス分けを眺めていた。
特別仲の良かった、「親友」なんて気恥しい呼び名で評される奴は同クラスで安心したものの、小学校からの友人のほとんどは別のクラスに配置されていた。
「おっす志。また同クラじゃーん?」
「...祐。今どき同クラなんて言い方するか?」
そんな俺の心を知ってか知らずか、後ろから声をかけてきた調子の良い親友、「神木 祐」。小学校からの遊び相手で悪友、時には良き相談役になってくれる奴だ。
正直慣れない環境の新生活に、こいつの明るさはかなりありがたい。
「とりあえず一年間よろしく。正直お前がいてくれて助かったわ。」
「なーに今更改まって。お前外面はいいんだから別に大丈夫だろ?」
「褒めてねえよそれ。」
長年続けてきた他愛のない会話をしながらクラス分けを流し見する。男女共に小学校からの知り合いが殆どであったが、当然知らない名前もちらほらと見かけられる。
「当然と言えば当然だが、やっぱり他の小学校から来てるやつもいるわけだよな。」
「そりゃな。新しい友達が出来るかーとか、可愛い女の子いるかなーとかわくわくするな。」
「可愛い女の子って...。中学生にはまだ早くねえかその考え。」
「なーに言ってんの。恋に早いも遅いもないって。気がついたら落ちてるもんだっての。」
正直こういうことをサラッと言ってのける親友は、同年代の中でも精神的に成熟している印象を受ける。俺たちくらいの歳なら、男女が話しているだけで囃し立てたりふざけて噂にしたりするようなものだ。
そんな雰囲気に流されない自己を持っている親友のことを、俺は誇らしく思う。
「...そんなもんかね。わかんねえや。」
「お前みたいなやつが、恋したら一直線になるんだよ。多分な。」
「どこ情報だよそれ。」
「長年お前と一緒にいる俺情報?好きな物には意外と熱いやつだし?」
確かにゲームや好きな音楽には時間を忘れて熱中することも多いが、それが恋愛にも言えるかといえばそうではないだろう。
親友の軽口として流しておくことにする。
その後、指定された教室に向かい、自分の席に着く。
分かっていたことだが、自分の出席番号の周辺に祐以外の顔馴染みはおらず、少し肩身が狭く感じてしまう。
元々積極的に話しかけていくことが得意ではないので、自分から動こうとはせず、そういうことが得意な親友の元へ向かうことした。
祐は既に男女問わず周辺の同級生と親しげに話しており、近づいてきた俺に対して気付くと「おーいこっちこっち!」と手招きしてきた。
こいつの社交性にはずっと救われている。クラス替えの度、仲良くなった人を紹介して交友関係を広げようとしてくれているのだ。
甘えすぎるのも良くないと感じつつ、そう簡単に人は変えられないもので、今回も世話になってしまった。
自嘲気味に困ったような笑みを浮かべながら、親友の好意に甘んじるべく教室の後方へと移動しようとした時。
目の前に、天使が現れた。