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勝者はおれだ

先に手を出した方が負けだ。

 消し去ってしまえば愛娘との関係は最悪に。

 真崎、とオカリナはシャルルの背後から前に歩みだしていた。

「今夜は楽しみましょう? 私のシャルも混ざって皆でハロウィン♪ 素敵だわ」 

 オカリナは左手を背後にいるシャルルに見えるように親指を立ててみせた。

 主の援護を受けて、シャルルは両手を握った。こんな余裕の無い無様を晒してしまった。

このままでは済ませられない。

 決意を新たにしたシャルル。

 一方真崎は群衆を引きつれて屋敷にはいっていく。

後に続くオカリナとシャルル。

 終始後手に回っていると感じるシャルルは、マウントを取るために夜会で真崎の正体を暴こうと決意を新たにした。



 真崎の話術は欧州の現地人や、エスタブリッシュメントな群衆をも魅了するそれがあった。

 流暢な言葉づかい・時々ウェットに富む話題・心地よさ誘うユーモア。

 ほんとに世界の果ての極東出身者で、田舎育ちの人物なのか。大勢の人々は認識が書き換えられていくことに驚愕と好奇心をかきたてられた。

 この男はクレイジーだ、と。

 夜会はやがて屋敷のホスト、ケルトが司会進行をはじめた。そこでも真崎はケルトの相槌を打ちながら失礼のない会話を展開した。

 エキゾチックな感覚を覚える女性陣が増えていた。そこまで真崎の話術や醸し出すオーラ、人を魅了する顔立ちがあった。

 シャルルはそれらを見て取った。

 これでは何の免疫が無い大事な血族までもが心奪われるわけだ、と。

 西洋にも東洋の血は必要だろうか?

 混合種を作って新たな風をつくる。

 それがかつて中東を発祥の地として確立したキリスト教のごとく、この西洋で誕生する瞬間なのだろうか?

 現状把握をしいたシャルルの眼前に、思索のテーマの男が迫った。

 何してる? とシャルル。

「執事殿には俺はどんな風に見えてるのかな、と? せっかくのべっぴんさんがもったいないぜ?」

 シャルルは赤面した。

 口説かれてる。

 私が?

 若輩者ごときに?

 そして男装が無視されて女子だと?

 色魔め・・・

 可愛い、と真崎が騒ぐ。

 頭に血が上りかけたが、情動で対応したらシャルルの負け確定だ。

 シャルルは努めて冷静に自分を眺めた。

 第三者の視点は重要だ。

 ミスター真崎、とシャルル。

「俺のことは真崎でいいよ」と真崎。

 咳払いをして氣を取り直し、シャルルは真崎と対峙した。

 真崎、とシャルル。

 満面の笑みを浮かべる真崎に、シャルルは真崎の肩に手を伸ばして触れた。

「図に乗るなよ、この泥棒猫」

 眼を見開く真崎。

 舌を出してシャルルは真崎から離れた。

「私の愛娘を傷物にしてくれたね? その責任を果たす覚悟はあるんだろうね?」

 左右非対称の表情を真崎はつくった。

 己の試練に立ち向かうだけの腹はあるようだ。では——

「——オカリナの特技は知っているね?」とシャルルは問うた。

「使用人いじめと超常の存在との邂逅かな?」

 ほー、とシャルル。

「それはどのような境遇で知りえたのかな? 君だってそれ相応の素養がなければそれは知りえなかったのでは?」

「シャル、君こそが魔の根源。そして今もオカリナ嬢は目の前に超常のそれと戯れている。すべてシャル、君が彼女にそう仕向けたからさ」

 今度はシャルルが眼を見開いた。

 お前、何者だ? ・・・

 笑みを浮かべた真崎。

 この底知れぬ何かをシャルルは感じ取った。 真崎はただチャラ男をしているのではない。

 明確に人を、場面を選んである一定の条件を整えて導き出している。

 そんな思案していたシャルルに、真崎はオカリナが今の様子を差し示した。

 男性諸侯と談笑している。

 しかし、手元では相手に見えないように小細工を施している。鬼神が見えているのか?

「俺が彼女に近づいたのは家柄じゃないです。単に可能性を見出したんです。それは一日や一週間で身につくモノではない。向上心ですよ」

 この男には魅力や魔力がある。

 人を魅了するだけの何かがある。

 食べきれないくらい装飾された食材を前で、小皿に盛り付けて食べていたオカリナ。またはすぐ男性陣達の中に混ざってさえずる様子。

 それをしり目に、厄介な存在が西洋に進出してきたなとシャルルはため息をついた。

 遠目に真崎と取り巻が歓談していた。

 オカリナも加え合わっている。

 力のある者が世界を手に入れる。

 主催者でホストのケルトは真崎の話術の前にモブに成り下がっていた。

 不快感を顔に出していないが、手元で二つのクルミを握りつぶしている。

 真崎の話術は東洋の武士の長・大名の城や

合戦の壮烈なシーンを視覚やその他の五感で想起しやすくするモノだった。西洋人なら誰もが国の数パーセントが統治したサムライについてエキゾチックな印象を抱く。極東出身者の、それも先祖が続けてきた国の成り立ちから生な話が聞けたら興奮するだろう。

 もののふの血筋。

 それもありか、とシャルルは考えた。

 真崎の語りは故郷極東の島国の話題、そして武士の合戦のくだりを話していた。日々退屈で格式だけ高めてきた、極楽貴族たちにはこれ以上ない非日常体験だった。

 シャルルには戦争など人が骸になる場は日常だった。対して興味はなかったが、それ以上に愛娘のオカリナが話を傾聴しつつ、置かれた料理を抜け目なく食している食い意地には感服した。

 パンパン、とケルトは拍手をした。

 敵意むき出しの、それだった。

 ミスター真崎、とケルト。

 真崎は笑顔を向ける。余裕綽々、と。

「君の母国の歴史はここ穏やかな地では想像もつかない戦乱の連続と聞いている。そんな先祖を持つ君の腕はどんなものか、手合わせ願いたい。いいかな?」

「自信があるなら、挑んできてきても歓迎するよ」

 ケルトは顔を引きつらせて、頷いた。

 ケルトはフェンシングを心得ていた。

 しかし真崎には得意な種目でも良いと言ったが、真崎もそれで決着を決めようと伝えた。

 ハロウィンで集ったパーティーは、紆余曲折あって群衆の興奮をくすぐる決闘の場と変わった。

 ケルトは専属執事に。

 真崎はなぜかシャルルがフェンシングの用意と世話を任せられた。

「君は断れたよね? それだけの話術も、非言語コミュニケーションも持っていたはずなのに」とシャルルはぼやいた。

 真崎はシャルルに笑いかけた。

「シャルル、君もまだ俺という人間を理解していないね。男の子には、闘わなければならない時もあるんだよ」

 男、って、とシャルル。

 フェンシングの剣を手で弄んでから、真崎に手渡した。

 君という人間がわからないよ、とシャルル。

「俺の一端が今夜わかるよ。見ててくれたらそれも、すぐにね」

 エペマスクを片手に、ケルトは真崎に決闘を宣言した。

「この決闘では互いに名誉をかけて闘う。そして互いに掛け合おうじゃないか。私はオカリナ公への婚約をかける。ミスター真崎はは何をかける?」

「俺も同じで良いよ。俺らでオカリナへの愛をかけよう」

 歯を嚙みしめて、ケルトはクルミの殻で痛めた右手を一瞬目にすると、エペマスクをかぶり、執事に合図を出した。

「じゃあ行ってくる。シャル」と真崎。

 私らそんなに仲良かったけ? とシャルルはツッコミを想起した。

 いいさ、お前の雄姿を見届けてやろう。

 そしてお前の全てを知ってやろう、とシャルル。

 名門王家の出身者が立ち合い人になってと、シャルルが立会人になった。

 ケルトと真崎はエペマスク越しに睨みを利かせて向かい合う。

 シャルルの合図とともに二人は距離を詰めて、剣で激しくつばぜり合いをした。どちらも勝ちにいく事しか考えていない。本場の選手にはない、気迫と勝利への姿勢があった。

 しかし、最初にポイントを取ったのはケルトだった。

 真崎の胸へ一撃。

 ケルトはエペマスクを外して観衆に白い歯をみせた。

 審判のシャルルも技あり、と判定を出す。

 真崎はエペマスクを外さず、ケルトに背を向けて、一端椅子に座る。

 その様子を眺めながら、オカリナは小皿に盛り付けたウインナーを齧った。

 さらにその様子を眺めるシャルル。

 デリカシーを育む事を忘れていたのは自分。

 胸に手を当てて、シャルルは反省した。

 己が決闘の景品になっているのになんて緊張感がないのか...

 また、0-1と一敗。

 追い詰められていおり、床に腰を下ろしてやる氣がみられない真崎の様子を群衆はもう負けが決まったのでは、と印象が出ていた。

 シャルルが号令をかけて、ケルトと真崎の試合を促した。

 対峙する二人。

 合図をシャルルが出す。

 再び激しくつばぜり合いが始まった。

 冷めやすく熱しやすい、そして流されやすくて飽きやすい群衆も激しく歓声を上げる。

 よく観察していた人なら理解できた。

 真崎の剣がケルトの剣を3、4往復円をまとって宙に放り投げた。

 ケルトは理解できず、思考停止した瞬間、ケルトの胸もとに真崎の剣が貫いた。

 1-1。

 観衆はもう東洋の神秘を口々に発して回っていた。お互いもう後がない状況。

 決闘の結末を誰もが予想したが、誰もそれを口にしなかった。

 東洋の魔術。

 真崎がエペマスクを外して、群衆に一礼をする。

 剣が相手の剣を喰って宙に。

 先が見えなくなった決闘。

 シャルルは再び号令を出す。

 二人は最後の対峙に挑み、シャルルの合図が始まって、過去二回の試合よりも激しくぶつかり合った。お互いのすべてがそこにはあった。激しく互いのマウントを取りあいになった。

 そして、ケルトが真崎の剣をはじくと胸もとに剣を差そうとした。

 ところが迫る剣を手に取り、それを割って真崎はケルトのみぞうちに拳を叩き込んだ。

 まさか!

 観衆の驚く声が響く。

 決闘の結末がドロドロとしたものになってしまった。審判はどう判定を出すのか?

 シャルルはやはり真崎に軍配を上げた。

 剣を用いた試合だったが結局は私闘。

 武器を使った闘いなら、何を使ってもいいのだ。

 倒れ込んだケルトが起き上がり、真崎に殴りかかった。

 身軽にケルトの拳を避けて、さらにみぞうちにパーで攻撃を加える真崎。

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