ぬいぐるみ
縫って包まれた綿たちには、外の世界が分かりません。
むぎゅっとつぶされると、びっくりします。突然、手の部分を握られて、お外に行く時もあります。綿の温度でわかります。
あっちへこっちへ、連れ回される。
今日も彼女は私たちを連れていく。
久しぶりのお外の世界。冬のようで、寒い。彼女がぎゅっと抱きしめてくれるから、そこから熱が伝わってくる。
暖かい。
人の温もりだ。
今日の曜日は日曜日。別に普段は用事があるわけでもない。
いつもは、ベッドでゴロゴロしては、たまにわたしをつつく。
なんだろう、どこに行くのか。
お目めがあればいいけど、私たちには何も見えないんだ。
ぬいぐるみの中だから。
音はなんとか聴こえる時があるけれど。
ああ、人がいっぱい。ゴシャゴシャだよ。
よどんだ空気が私たちの中にまで入ってくるように。
たまに、洗ってくれるから大丈夫なんだけど。
ピッと電子音。
改札を抜けたのかな。電車の音がする。
電車でお出かけ、どこに行くのかな。
海は嫌だよ、潮風が辛いから。
どこか静かな場所がいいな。植物園とか図書館とか。
ゆっくりしよう。いい空気のところで。落ち着いて過ごそう。
電車が来た音だ。
今までで一番大きな音だ。
ムギュウー、く、苦しいよ。そんなに抱きしめないで。
バンッ!!
ん、わたしたち。
あれ、わたしたち。
空が見えるね。
綺麗だね。
寒いよ。
ふわふわだ。
飛ばされる。
外の世界だ。
冷たいねー。
赤い子もいる。
雪で分からなくなっちゃう。
ああ、わたしたち。
どこに行くの。
どこに。