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8話「サムライボーイ」



 爆死まで残り6日ちょっと。


 目を覚ますと、頭には少し湿った草の感触がした。どうやらリュックを盗まれたらしい。

 通帳やスマホなどの貴重品だけはズボンやシャツの中に入れておいたため、大したものは入っていなかったのだが、愛着が湧き始めていたリュックを失ったのはちょっと残念だ。やっぱり野宿って危険なんだな。


「あっ、充電器も盗まれた……」


 スマホとタブレットは死守したが、肝心の充電器はリュックの中だった。失敗した。体に括り付けておけばよかった。


「まぁいいや。両替したら買いに行こう」


 そう決意を固めたあと水飲み場で胃に水を詰め、銀行を探すために歩き出した。

 さすがに空腹が限界なため、今日こそは銀行を見つけたい。そしてホテルのふかふかのベッドで寝たい。

 そう考えながら2時間ほどそれっぽい建物の中を覗いて回ると、銀行っぽい場所が見つかった。

 歴史を感じる外観だが、中には銀行の受付やATMっぽい機械が置かれている。


「間違ってたらまた探そう」


 そう呟きながら中に入り、受付の列へと並んだ。


『全員大人しくその場に伏せろ!命令に従わない奴は撃つ!』

「……!?」


 すると突然、武装した3人の男達が建物の中に乗り込んできた。手には拳銃を持ち、顔は覆面で隠している。どうやら強盗らしい。すごい偶然だ。


『さっさとその場に伏せろ!撃つぞ!』


 強盗犯の怒鳴り声をあげた途端、周囲にいた客や従業員が慌ててその場に伏せたため、俺だけがぼけっと突っ立っている状況になってしまった。

 どうしよう、逃げようかな。


『おい!さっさとその場に伏せろ!』

「あ、アイドントスピークいんぐりっしゅ……」


 拳銃の銃口を突きつけながら何かを言ってくるが、なんて言っているのか全然わからない。


『そんな旅行客なんてほっとけ。さっさと目的を果たして逃げるぞ』

『ちっ、命拾いしたなバカ猿』


 言葉が通じないと諦めたのか、銃口を突きつけていた強盗犯は俺に興味をなくして従業員を脅し始めた。

 なんと言ったかは分からないが、態度や表情的に馬鹿にされた気がする。


『テメェ、何やってんだ!』

『ぐあっ』

『おい、どうした?』

『このガキが隠れてコソコソと警察に連絡してやがったんだ!』


 強盗犯の1人が俺よりも年下くらいの金髪少年?を蹴り飛ばしながら何かを叫んでいる。

 少年の持っていたスマートフォンを執拗に踏み壊している状況から考えると、彼はこの状況の中で警察に通報をしたのかもしれない。


『ここら辺は警察の巡回エリアだ。今から逃げてももう遅ぇな……』

『人質をとって立て籠るか?』

『チッ、面倒だがそのほうがいいかもな』

『とりあえずこのクソガキはどうする?殺すか?』

『そうだな。見せしめに殺しちまうか』


 強盗犯は何かを話し合った後、涙目の金髪少年を跪かせて銃を向けた。もしかしなくても、ここで撃ち殺すつもりなのだろう。

 この状況下で通報した勇敢な少年を見捨てるのは、さすがに寝覚めが悪くなるな。


「……おっ、ちょうどいいものあるじゃん」


 何かできないかと周囲を見渡すと、清掃員さんが使っていたと思われるモップが落ちていた。

 アルミかステンレスかは分からないが、軽くて丈夫で長さもちょうどいい。これはいい武器になりそうだな。


『おい、お前何やってる!』

『あいつ何か拾ったぞ。抵抗する気か?』

『反抗的なクソ猿が。先に撃ち殺してやるか』


 涙目の少年から標的を俺に変えた強盗犯が銃口を向けてくるが、俺の心は落ち着いていた。というのも、俺はこの場で死なないどころか、傷ひとつ付けられないということを確信している。

 大黒田への復讐、ヤクザ事務所の訪問、日比谷公園での銃撃……ここに至る過程で経験した様々な出来事のどれにおいても俺は無事だった。

 つまり、この状況で何をしても、運命の神様が言った通り6日後の爆死まで俺は無事なはずだ。


「でも流れ弾は少し怖いな」

『死ねや!』


 流れ弾が誰かに当たらないようにと思い少し横へ移動すると、一瞬前まで立っていた場所を銃弾が通り過ぎた。

 意図的に銃弾を避けたように見えたのか、強盗犯は銃を構えたまま唖然としている。


「撃ったってことは、ボコボコにされる覚悟があるってことでOK?」

『なにを……がふっ!』


 唖然としている強盗犯に堂々と近づき、その脳天に思いっきりモップを叩き込んだ。

 咄嗟の出来事で避けられなかった強盗犯は、そのまま意識を失って倒れる。


『エミールをよくもやりやがって!』

『このクソ猿が!殺してやる!』

「なんかめっちゃ怒ってるけど、自業自得だろ」


 そう呟きながらそれっぽい動きで適当にモップを振り回すと、偶然にも放たれた全ての銃弾が柄の部分に当たり、跳ね返った弾が強盗犯の肩や手足に跳ね返った。

 運命さんが仕事しすぎてヤバい。


『ぐあぁっ!銃弾を打ち返しやがった!』

『ぐうっ、なんだこいつ、ジェダイか!?』


 相変わらずなんと言っているかは分からないが、今回は馬鹿にされていない気がする。


「とりあえず、成敗!」

『やめ……ぐあっ!』

『がはっ!』


 2人の顔面に思いっきりフルスイングをかました結果、見事意識を刈り取ることに成功した。

 ちょっと赤いものが出たり歯が折れたりしているが、死んではいないのでセーフだろう。


『り、リアルサムライだ……』

『サムライボーイ……』

『サンキューサムライボーイ!』

『サムライボーイ!サムライボーイ!』


 誰が最初に呼び出したかは分からないが、いつの間にかお客さんや従業員さん達によるサムライボーイコールが始まった。

 調子に乗って手を振ると、歓声がさらに大きくなる。悪くない気分だ。人気者ってこんな気分なんだな。


『サンキューサムライボーイ!』

『君はヒーローだ!』

『ありがとう!まるで映画を見ているようだったよ!』

「あ、あはは、どういたしまして……」


 なんと言っているが全然わからないが、雰囲気的に感謝してくれているのだろう。

 握手を求めてくる人達の手を握ったり、一緒に記念撮影をしながら強盗犯のほうを見ると、警備員の人達が武器を取り上げてすでに拘束していた。仕事が早い。

 あと、流れ弾で怪我した人はいないらしい。よかったよかった。


『サムライボーイ。少し話を聞きたいんだが、着いてきてもらってもいいか?』

「あ、えっ?」


 助けた人達にもみくちゃにされながら数分ほど経った頃。駆け付けてきた警察官に肩を叩かれながら何かを言われた。

 ジェスチャー的に、一緒についてこいとかそんな感じのことを言っている気がする。


『HAHAHA!そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。ちょっと話を聞きたいだけさ』

「あ、アイドント、すぴーくイングリッシュ……」


 小太り警官の案内で半ば強引にパトカーへと乗せられ、そのままどこかへ連れて行かれた。

 雰囲気はフレンドリーなので、たぶんちょっとした事情聴取とかだろう。


 あれ?でもそれで密入国バレたら……ヤバくね?





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