風の方舟に、想いをのせて
一月前まで
大きなツリーが
輝いていた街の広場を
通り抜けて
冬の午後の陽射しは
頬にやわらかに
道沿いに咲いた
サザンカの紅い花が
葉の翠に映えて
その姿はまるで
ガーネットの灯
方舟を導くように
ふりかえる余裕すら
忘れていた昨日
手を伸ばして
吹きゆく風の行き先を
追いかけたとき
ふりかえる頬を
冬の太陽の微笑みが
やさしく照らして
今そよいでいく
風に想いをのせて
白い息と曇る窓
心の窓も時に曇ることが
あるけれど
宝石は地中で幾度も
熱と圧力に晒され
生まれるように
重ねた想いの数だけ
締めつけられるような
想いの数だけ
心もきっと
透き通るように
輝き出すと信じて
今そよいでいく
風に夢をのせて
時に寄り道や回り道も
心のフォトフレームを
彩る景色となって
唇を噛む日や
悔し涙の日があっても
解けた靴紐を
結び直すように
また次の一歩を
きっと、何度でも
いつか描いた
あの夢の続きも
今そよいでいく
風に祈りをのせて
花はかけた愛情の分だけ
愛しく咲くように
願いながら育ててきた
心の花を、大切に
もしこの広い空のどこかに
花の咲く星が
あるとしたら
この星空ごと愛しく
見つめるまなざしで
今そよいでいく
風に心の方舟をのせて
想いや夢や祈りを
のせたその方舟に
透き通る夕陽の光は
ガーネットのように
また明日へと
踏み出す一歩を、
やさしく導いて
作中のサザンカ(山茶花)の花言葉は、「ひたむきさ」「困難に打ち克つ」です。ガーネットは、1月の誕生石で、有名な「ノアの方舟」の灯となり、紅い輝きで希望の方角へ導いたと言われています。冬を乗り越え、困難を乗り越えていく、花と宝石を詩に描かせていただきました。お読みいただき、ありがとうございます。