第4話
翌日。
「よう、宮下」
「あっ、おはよう雅人くん」
登校している途中で雅人くんにあった。そのまま二人で学校に向かう。
「昨日はありがとう。すっごく楽しかった!」
「おれも楽しかった!」
「雅人くんってばコーヒーカップにのったあと、もうフラフラだったよね」
「しょ、しょうがねぇだろ!? 秋吉がまわし過ぎなんだよ! あんだけまわせば誰だってフラフラになるって!」
「あとそれに…」
そのあとも雅人くんをからかいながら歩く。からかったときの雅人くんの反応がおもしろくて、ついまたからかってしまう。しずるちゃんがうつっちゃったかな?
「じゃあ、また今度な」
「うん」
教室の前で別れる。雅人くんが教室に入り、わたしも自分の教室に入ろうとしたとき、ふと、誰かに見られている気がした。あたりを見まわすと、彰くんがわたしを見ていた。部活のときにはしていなかった黒縁のメガネ越しに目が合うと、すぐに目をそらされた。そのあと、彰くんは雅人くんと同じ教室に入っていった。わたしも自分の教室に入る。さっきのは一体なんだったんだろう? しばらくして、しずるちゃんが登校してきた。昨日の遊園地での話をしているうちに、今度は何をしたいかという話になった。
「今度はショッピングにでも行きましょう。紀野君は荷物持ちとして特別に参加させてもいいわね」
「そんな、荷物持ちだなんて雅人くんに悪いよ~。ふつうにみんなでショッピングしよう?」
しずるちゃんのあんまりな発言に、ふつうを提案するわたし。
「でもたぶん、紀野君は荷物持ちとしてしか参加できないと言ったとしても、いっしょにくると思うわよ?」
「え? なんでわざわざ荷物持ちのためにくるの?」
「ふふ…さあ、なんでかしらね?」
うーん…しずるちゃんの言ってることはよくわからない…。きっとわたしの頭が悪いからなんだろうな。くすん。
そのあと、ある授業で教室を移動するときに、また、彰くんがわたしを見ていた。休み時間に教室をでたときや、体育の移動のときも、彰くんはわたしを見ていた。
そんなことが数日続いたある日。しずるちゃんにこのことを話してみた。
「ここ最近、須藤君が加奈のことを見てるって?」
「うん、そうなの」
しずるちゃんは少し考えてから、何かを思いついたように言った。
「もしかすると、加奈のことが気になり始めたんじゃない?」
わたしが告白してから気になり始めたってこと? ふったときには気にならなかったけど、ずっと見ているうちに気になり始めて… それでそれで、わたしが告白した場所に彰くんから呼び出されて…うふふふ。
「そ、そうなのかなー?」
「そんなに顔赤くしちゃって。まだ須藤君のことが好きなのね」
しずるちゃんは笑いながら茶化してそう言った。
その日の昼休み。
「加奈、彰くんが呼んでるわよ?」
「え?」
しずるちゃんに言われ、教室の入り口を見ると、彰くんがいた。
「ちょっと行ってくるね」
「いってらっしゃい」
しずるちゃんは微笑して言った。彰くんのところまで行く。
「その…宮下さんに話があるんだけど、いいかな?」
「え? いいけど…話って?」
「ここじゃなんだから、ちょっと移動してもかまわないかな?」
「う、うん」
も、もしかして話って…告白とかかな!? 人目につかない場所まで移動してから、彰くんが話し始めた。
「じ、実はさ僕…き―――のことが好きなんだ」
「えっ?」
い、今、君のことが好きって言った!?
「だ、だからさ、僕…紀野―――のことが好きなんだ」
え? 雅人くんのことが好き? でも、雅人くんは男の子で、彰くんも男の子で…
「ええーっ!? 彰くん、雅人くんのことが好きだったの!?」
「ち、ちがうちがう! あと声が大きいよ宮下さんっ!」
彰くんに少し小さめの声で言われ、あわてて口を塞ぐわたし。思わず大声を出してしまった。
「ぼ、僕が好きなのは、紀野の妹さんだよ」
顔を赤くしながらさっきよりも少しはっきりとした口調で言う彰くん。今まではわざとぼやかしてしゃべっていたみたいだ。
「なーんだそっかぁ…未織ちゃんのことが好きなのかー…って、ええーっ!?」
「だ、だから声大きいって!」
しまった…またやっちゃった。人目につかない場所とはいえ、いつだれがここにきてもおかしくない。わたしたちみたいにこっそり話すためにくる人がいるかもしれない。…もうこっそりでもなんでもなくなってしまっているけど。
「…で、どうしてそんな話をわたしに?」
「そのさ…宮下さんって、紀野と仲いいだろ? だから、ちょっと協力してもらえないかと思って」
「わたしじゃなくても、しずるちゃんに頼めばいいんじゃないの?」
「秋吉さんはその…言ったらからかわれそうだから…」
「あー…なんとなく分かる気がする…」
「…で、協力してもらえるかな…?」
彰くんがわたしを好きだっていうのは勘違いだったみたい。少し残念。協力っていわれても…どうしよう…
「協力って…何をすればいいの?」
「そうだな…今度ある祝日に、紀野と妹さん、ああ未織ちゃんね、と僕と宮下さんの四人で何かするとか?」
何か…あ、そうだ!
「じゃあさ、ショッピングに行こうよ!」
「それはいい提案だね」
「それでさ、しずるちゃんも呼んでいいかな?」
「え? 秋吉さん? うん、かまわないけど?」
「じゃあ、五人で祝日にショッピングってことでいい?」
「ああそれと、紀野を誘うのも宮下さんにしてもらえないかな?」
「え? どうして?」
「僕が紀野に、妹さんも呼んでくれ、って言ったら、僕の気持ちが紀野にばれちゃうだろ? 紀野って、雰囲気のわりに未織ちゃんのこと大事にしてるからね。何されるかわからないよ」
「うん…確かにそうだね…わかった。雅人くんもわたしが誘うね」
「ありがとう。よろしくお願いするよ」
「うん」
そのあと、まず雅人くんを誘ってみた。
「え? 今度の祝日に未織もいっしょにショッピングに行かないかって?」
「うんっ」
「い、いいけどよ…なんで未織まで誘う必要があるんだ?」
「そ、それは…お、大勢の方が楽しいからだよっ!」
「あ、ああ…そうか…。じゃあ、未織に伝えとくよ」
「よろしくねっ」
次にしずるちゃんを誘ってみた。
「今度の祝日にショッピングに行こうって?」
「うんっ」
しずるちゃんは少し考えたあと、返事をくれた。
「ええ、いいわよ」
「よかったぁ…ありがとう、しずるちゃん」
「どういたしまして…?」
わたしの物言いにいぶかしむしずるちゃん。しずるちゃんがいれば、困ったときにきっと助けてくれる。でも、なるべく頼らないようにしないと。頼るのは、本当に困ったときだけにしよう。それに、同い年の女の子がいないのは心細いっていうのもあったしね。
次の日。未織ちゃんも参加してくれることが決まり、待ち合わせ場所と時間を決める。午前11時に集まって、昼食をとったあと、ショッピングをしたり遊んだりするという予定に決まった。
夜。今度の祝日は少しあわただしくなるんだろうなぁ、とみんなとショッピングに行くことに思いを馳せる。彰くんと未織ちゃんをくっつけるにはどうすればいいのかも考えなければいけない。大変だなぁ…。祝日がくるのを、期待と不安が入り混じった気持ちで待ちながら、わたしは眠りについた。
やっと出そろいました。
一回、途中まで書いていたものが消えたときはショックでしたね…。
いよいよ次で最終話になります。
最終話と言っても、まだあったりなかったりするんですけどね。