第1話
「はぁ…」
「どうしたの加奈? ため息なんかついて。またあの男の子のことでも考えてたの?」
「あ…しずるちゃん、おはよう」
頬杖をついて窓の外を眺めていると、登校してきたばかりのしずるちゃんが声をかけてきた。
「そのことなんだけど…やっぱり、今日告白しようかと思って…」
「なるほどね。それで、どういうふうに告白したらしたらいいのか考えてたのね」
ふ~ん…とかいいつつニヤリと笑ってわたしをからかうしずるちゃん。…さっきからおもってたけど、なんだろう…考えてる事が見透かされているような…
「そうなんだけど…何かいい告白の仕方ってないかなぁ…?」
「そんなの校舎裏にでも呼び出して『あなたのことが好き好き大好き~! 死ぬほど大好き~! いっそ殺して~!』とか言っておけば …その眼は何?」
「い、いやぁ…普段のクールなしずるちゃんとのギャップが激しくて…」
才色兼備なしずるちゃんは、たまに奇天烈なことを言う。そのたびにわたしは普段のしずるちゃんとのギャップに萌…じゃなくて! 驚かされる。
「あと、それ言うの恥ずかしいから他のでお願いっ!」
両手を合わせ、片目を閉じながら上目遣いでしずるちゃんにお願いする。
「いいじゃない。何を言おうと恥ずかしいことに変わりないんだから」
笑顔でわたしに言ういずるちゃん。…若干楽しんでるように見えるのは気のせい?
「限度があるよ~!」
口を尖らせて抗議をしたけど、「言いなさいよ」と満面の笑みで勧めてくるしずるちゃん。…そんなかわいい顔で言われてもダメなんだからっ!
その後も、「やだよぉ~」「言いなさいよ~」というやりとりが延々と繰り返されていたけど、先生が来たところでようやく終わった。授業に入ると、今日はいくつかの教科で小テストがあって、四苦八苦十六苦ぐらいした。隣の席では、しずるちゃんがクラスの誰よりも早く解き終わって、今日出されたばかりの宿題に手をつけていた。しずるちゃんってすごいなぁと改めて思った。そんな調子で、ほぼ毎授業しずるちゃんをみていたわたしは、小テストを半分も解かないうちに時間切れ。といっても、半分も解けないのはいつものことだけど。くすん。
放課後、
「授業中、私のこと見てたでしょう?」
と、しずるちゃんが微笑しながら聞いてきて、ドキッとした。しずるちゃんの微笑にわたしの胸がた…かなったということではない。どうやらわたしが見ていたことに気づいていたみたいだ。…そりゃあ、あれだけガン見してたら気づかない方がおかしいよねー…。
「うん…見てたよ?」
「そう…わかったわ。あなたの思い、ちゃんと受けとめてあげるから…」
そう言って、両手を広げて何かを受け入れるかのような態勢をとるしずるちゃん。
「へ? しずるちゃん、何言ってるの?」
突然の意味不明なしずるちゃんの発言と行動に戸惑うわたし。
「何って、加奈は私のことが好きなのでしょう? 好きな男の子がいるなんて嘘までついて、私に近づこうとするなんて…」
「ええ~っ!? な、何を言い出すのしずるちゃん! わ、わたしに好きな男の子がいるのは本当のことだよっ!? そ、それに、今日見てたのは、しずるちゃんってやっぱりすごいなぁって思って見てただけで、別に好きとかそういうんじゃな―――」
「あははははっ!」
突然おなかを抱えて笑いだしたしずるちゃん。さらに混乱するわたし。
「な、何!?」
「はは…ごめんごめん、必死になってる加奈がかわいくてつい」
「もうっ! しずるちゃん!」
しずるちゃんにめいいっぱいからかわれた後、二人でグラウンドに向かった。グラウンドではすでに何人かのサッカー部員がユニフォームに着替えてウォーミングアップをしていた。
「あ…!」
その中で、今まさにストレッチをしている最中のある男の子に目がいく。
「ふふふ…お目当ての人は見つかったみたいね」
「うん! …でも、どうしよう…呼び出すなんてとてもじゃないけどできないよう…」
「とてもじゃないならできるわよ。さあほらっ! いってきなさいっ!」
「ちょ、ちょっと! お、おさないでよしずるちゃんっ! や、やっぱりできないよ~!」
まるで石にでもなったかのように動かないわたしの体。
「もう…しょうがないわね。私が呼んできてあげるから」
動かないわたしにしずるちゃんはそっと微笑み、サッカー部の人たちのいるところ歩いていった。わたしは、動かない体を無理やり動かして、グラウンドの隅の方まで行き、そこでしずるちゃんを待つことにした。しずるちゃんがサッカー部の人たちのいるところまで行くと、部員のほぼ全員の視線がしずるちゃんの方に向いた。男子の間でかなり人気のあるしずるちゃん。男の子たちの視線が集まるのは当然のことかもしれないけど、はたから見るとなんかすごい…。今まで何人に告白されたのかな? 今つき合ってる人はいないとは言っていたけど。
そうこうしているうちに、しずるちゃんがわたしのところまで男の子を一人連れてきた。
「お待たせ。ほらっ、ここまでしてあげたんだから、あとはちゃんと自分で言いなさいよ? じゃあ私は門のところで待ってるから」
「えっ!? いっしょにいてくれないの!?」
「私がいたら邪魔になるでしょう? それじゃあまたね」
微笑みながらそう言って、しずるちゃんはそそくさと行ってしまった。
「それで、僕に用って何?」
男の子がせかしてくる。そ、そうだよね。早く伝えて用件すませてあげないと。練習あるもんね。だ、だ、大丈夫! ちゃ、ちゃんと言える! 待っててしずるちゃん!
「あ、あ、あ、あ、あのっ! わ、わ、わたしっ! そ、そ、そそのっ! あ、あ、あ、彰くんのこ、こ、こ、ことがっ! が、ががす、す、す好き、好きですっ! つ、つき合ってくださいっ!」
言って頭を思いっきり下げる。なんとか言いきった…体中が火照って熱い。どんな答えでも、きちんと受けとめる覚悟はしている。しばらく…といってもほんの少しの間がたってから、彰くんは答えを告げた。
「…ごめん」
彰くんは小さめにそう言った。顔を上げると、彰くんは悲しい顔をして斜め下を見ていた。
「…それじゃあ、僕…練習あるから…行くね…」
言って彰くんはグラウンドに戻って行った。
その後、どうやってその場から離れたのか覚えていない。気づいたときには、もうあと少しで門に着くところだった。しずるちゃんがわたしに気づいて駆けよってきた。そして、しずるちゃんはわたしをやさしく抱きしめた。わたしは、しずるちゃんの腕の中で、泣いた。
「よしよし…」
しずるちゃんに頭をなでられた。ふられた悲しみと、しずるちゃんの暖かさにわたしの思いは溢れて涙が止まらなかった。
ひとしきり泣いた後、しずるちゃんといっしょに下校した。
夜、寝ようととしても、目が冴えて寝れなかった。明日学校に行くのが憂鬱だ。でも、今はまだしずるちゃんが励ましてくれるからがんばれる気がした。今回はだめだったけど、次は成功させたいなと思ったところでわたしはやっと眠りについた。
言葉遊びは苦手なので、分かりやすい文章をこころがけました。
物足りない感じなのはおれの力量不足です。
もし、このお話(シリーズも含めて)が完結したところで、続編とか書いてみて、という要望があれば書く…んじゃないかな?
まあそんな感じです。