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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第七十七話「乾杯」


 四階層『楽園の試練』終了まで――、残り二時間。


「…………」

「…………」


 アレフとザインは二人きり、何とも気まずい表情でテーブルに向かい合っていた。

 騎士団の面々は「ゆっくり休め」との言葉を残し、その姿を消している。


「ぐすっ、ぐすっ……。もう、お嫁に行けないよ……」

「はぁ……。気持ちは分かるが仕方ないだろ。それに見てもないし、触れてもいない」


 耳まで真っ赤に染めながら。半泣きで言葉を漏らすのは、アレフの姿をしたザイン。

 そして、そんな彼女を宥めるのは、ザインの姿をしたアレフだ。


「ザイン、水でも飲むか?」

「う、うん……。ありがとう」


 小さなカップに水を注ぎつつ問い掛けるアレフに、ザインは小さく首肯する。

 どうして、こんなことになってしまったのか。

 それは身体状況の確認、及び汚れを落とすためのシャワーに起因する。

 互いの身体を操作しながらの水浴びは、酷く困難を極め――、以下略。


 そしてそれからしばらく、沈黙の時間が続いて――。


「――そ、そ、そう言えばさ……。な、名前で呼んでくれるのは嬉しいんだけど、ボクのことは家名というか、愛称で呼んで欲しいんだ」

「名前……? あ……」


 ようやく少し落ち着いたザインが吃りながらも言葉を紡ぐと、

 アレフは一瞬、「何を言っているのか分からない」とでも言いたげな表情を浮かべる。

 が、すぐに気付きを得ると、それを驚いたものへと変化させた。


 そう。彼自身、気付いていなかったのだ。

 いつの間にかザインを、名前で呼んでいたことに。


「『ウィム』って言うんだけど……』

「『ウィンクルム』を縮めて『ウィム』か……。何かこう、もう少し無かったのか?」

「あはは、まあね。でもさ、ボクの大好きな人が付けてくれた愛称なんだ」


 すっかり平静を取り戻したザインは、幸せそうな、懐かしむような表情で答える。


「それにしても、家名の方か。珍しいな」

「うん。これは今、ボクだけの名前だから」

「まぁ、お前が良いなら何でも良いが。もうしばらくの間よろしく頼むよ、ウィム」

「えへへ……。こちらこそよろしく、アレフ‼」


 互いに名前を呼び合い、正面から相手を見据える。

 そこにあるのは、そう。信頼と友愛の形だ。


「そうだ、乾杯しない? 無事に生き残れたお祝いにさ」

「祝杯か、良いぞ。――つっても、中身は水だけどな」

「やた。じゃあアレフの分、ボクが注ぐね」


 嬉しそうに言いながら、今度はザインがアレフのカップへと水を注ぐ。

 そして、各々カップを片手で持つと、軽く差し上げ――。


「カンパーイ‼」

「乾杯」


 カツンと、思いのままに打ち鳴らした。

 途端、零れる水滴とはじける笑顔。

 アクアリウムの中を泳ぐ魚たちも、何処か祝福ムードであった。


「こういうのも悪くない、か……」


 満面の笑みを浮かべるザインを見遣りながら。

 そう小さく溢すアレフは、自然と吊り上がる口角に気付いていたのだろうか。


想定よりも長くなったので、一度章を切ります。

絶望的な投降頻度ですが、四章もお付き合い頂ければ幸いです。


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