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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第七十五話「傾国の秘宝」


『ゴオォォォ――』


 吹きすさぶ突風は止み、室内が静寂に満たされた頃。

 俺は高々と積み上がった残骸の山を認めると、ほっと息を吐いた。


「終わった、か……」

「うん……、やっと」


 時間にして、一時間にも満たない戦闘。

 だが体感にしてみれば、籠城戦にも匹敵する程であった。

 それ程までに王は厄介で、強大な存在だったのである。


「あ。そうだ、お兄さん‼ ボクのこと、ぶっ飛ばしたでしょ⁉」

「ん? ああ、仕方ないだろ。細切れになるのと、どっちが良い?」

「いや、そうかもしれないけど、しれないけどさ……。むむっ」


 装備品のコンディションを確認していると、亜麻髪少(ザイン)女から一つ苦情を貰う。

 確かに、彼女を吹き飛ばした件については申し訳ないと思っているが、

 あの時はあれしか方法が無かったのだから致し方ないだろう。

 だから、むぅと膨れながら頬を(つね)ってくるのは止めて欲しい。


『フム。中々、心地ノ良イ風デアッタナ』


「「――――⁉」」


 と、すると。

 そんな俺たちの他愛ない会話に、割って入るかのように。

 突如、一つの声が室内に響き渡った。


 声。

 俺のモノとも亜麻髪少(ザイン)女のモノとも異なる、低くくぐもったような声。

 それは、つまり――。


「嘘だろ、おい。流石にもう、万策尽きたぞ……」

「え……。も、もう、身体動かないんだけど……」


 ガシャガシャと騒音を奏でる残骸の山から顔を出したのは――、骸骨の王(スケルトン・キング)

 纏うマントは傷一つなく、金色の王冠は色褪せぬ輝きを放っている。

 奴はその漆黒の眼窩に()()の色を宿すと、真っ直ぐに此方を見据え――。


『合格ダ』


「は――?」

「え――?」


 否。特段感情の籠っていない声色で、そう告げたのだった。


『合格ダ、ト言ッタノダ。我ガ試練ノ、突破ヲ認メヨウ』


 残骸の山から全身を出した骸骨の王は、尚も続けてそう言い放つ。


 此奴は何故、生きている。

 此奴は何故、動いている。

 此奴は何を、言っている。

 数多の疑問が渦を巻き、一種の錯乱状態に陥る。


 どうするべきだ?

 逃げるべきか?

 戦うべきか?

 俺が今すべきことは、何だ?


(ザイン、今なら殺れる。合わせてくれ)

(う、うん。分かったよ、お兄さん)


 刹那の思考の末、一つの答えに辿り着いた俺は、亜麻髪少(ザイン)女へ向けて思念を飛ばした。

 一見無傷のように見える王だが、竜巻旋風(トルネード)によるダメージは蓄積されている筈。

 ならば、殺るなら今。

 二人同時に最大火力を叩き込めば、然しもの王とてタダでは済まないだろう。


『早マルナ、小童共。朽チ果テタ此ノ身デモ、貴様ラヲ屠ル程度ノ余力ハ残シテオル』


 俺と亜麻髪少(ザイン)女が速攻を仕掛けようと、一歩足を踏み出した瞬間。

 王は呆れたような口調でそう言い放つと、不可視の剣に右の手を添え――。


『シッ――――‼』


「「――――⁉」」


 次の瞬間。

 背後から、金属の柱が粉々に砕け散る音が聞こえてきた。

 それと同時、頬を伝う、一筋の汗。


「な、何が……」


 何が――、起こったのか。そんなことは、分かり切っていることだ。

 先の戦闘で幾度となく経験した、居合切りの太刀筋。

 だが王は今、抜刀の構えを取っていなかった筈――。


『構エナド取ラズトモ、同程度ノ出力ハ可能ダ』


 この日幾度目とも知れぬ空を切り、振り返る骸骨の王は綽々とそう答える。

 つまりはそう言うことか。

 俺たちは冗談でも何でもなく、奴に手加減されていたと言う訳だ。


「「っ――――」」


『尚モ歯向カウカ、受ケ入レルカ。利口ナ貴様ラナラ、違ウコトハ無イデアロウ?』


 信じ難い、信じたくない事実に、二人揃って閉口してしまう。

 俺たちは所詮、奴の手の平の上で転がされているのだ、と。

 俺たちの命は、奴の気分如何に委ねられているのだ、と。

 そんなこと、一体誰が信じたいと思えるのだろうか。


「チッ、分かったよ。降参だ、降参」

「ボクも、降参だよ……」


 これ以上抗っても、そこに意味なんて見出せない。

 俺はこの日、人生で三度目となる敗北宣言を唱えた。





            *





「単刀直入に聞こう。お前は一体、何なんだ?」


 傲岸不遜な態度で玉座に腰掛け、此方を見下ろす骸骨の王様。

 俺たちはそんな摩訶不思議存在と、何故か謁見のような形で対談していた。


『抽象的ナ問イハ好マヌノデハ無カッタノカ? マア良イガ。時ニ貴様ラヨ。四種ノ神器ニ関スル伝承ヲ、聞イタコトガアルカ?』

「おい。俺の質問に対する回答は何処に行ったんだ?」


 今まで殺し合っていた敵と、仲良く談笑――。

 なんて光景は、微塵も想像出来ず。


 試練の〝合格〟とは、俺たちを油断させるための罠なのではないかと、

 そう捉えてしまったのだが、どうやらそういう訳でもないらしい。


『ソウ焦ルデナイ。先ズハ、我ガ問イニ答エヨ』

「ボクは無い、かな……」

「はぁ、俺はそうだな。集めると凄いことが起こる、とか、何とか……」


 それにしても、神器に関する逸話、か……。

 確か戦乙女(ダレット)は、四種類全てを集めると何かが起きると言っていたが、

 特段興味が無かったので、それ以上聞くことはしなかった。


『此レマタ、随分ト抽象的ナ答エデアルナ。他人(ヒト)ニ厳シク、自分ニ優シクハ疎マレルゾ』

「お兄さん……。それじゃあ、何も知らないのと変わんないよ?」

「余計なお世話だ。で、何が起きるってんだ?」


 俺の回答が望むものでは無かったのか。

 王と、何故か亜麻髪少(ザイン)女までもが突っ込んでくる。

 と言うか、何故俺は説教されているんだ?


『四種ノ神器ガ集イシ時、異界ヘノ扉ガ開カレル――。古ヨリノ言イ伝エ也』

「あ? 何だそれ。オカルトは教団だけにしやがれ」

『戯言ノ類デハ無イ。正真正銘ノ真実ダ』

「あーそうかよ。そりゃあ大層なことで」


 何を言い出すかと思えば、異界だと?

 徧界、幽世、並行世界。全く以って荒唐無稽な話だ。


『ソノ様子ダト、信ジテハオラヌヨウダガ……。マア良イ、孰レ分カルコトダ』


 そんな、俺の心情を見抜いたのか。

 王は仕方ないと言った様子でジェスチャーを取ると、意味深長に呟く。

 その反応が、余りにも尤もらしく。

 迷宮や奴自体の神秘性も相俟って、ともすれば真実なのではないかと、

 思わずそう考えてしまったのはご愛嬌である。


「仮にそうだとして、お前と何の関係があるってんだ?」

『我ハ試練ノ監督ヲ任サレテオル。ソシテ此レガ、合格ノ証ダ』


 俺の率直な疑問に対して短く答えた王は、続けて二対の指輪を差し出してきた。

 黄金のリングに巨大な緑色の宝石をあしらった、かなり値打ちのありそうな代物。


「これは何だ?」

「わぁー、すっごく綺麗‼」

『異界ヘノ通行証――、ノ一部ト言ッタ所ダ。肌身離サズ持ッテオクガ良イ』


 受け取って確認してみても、やはり唯の高級感ある指輪にしか見えない。

 だがこう言った代物ほど、得てして曰く付きだったりするものだ。


「呪いの装備とかじゃないだろうな?」

『案ズルナ、寧ロ逆ダ。貴様ラニトッテ、無視出来ヌ恩恵ガ得ラレルデアロウ』

「ん? どういうこと?」


 疑惑の眼差しで問い質すと、王は安心させるような口調で返してきた。

 しかし〝恩恵〟とは、一体どういうことであろうか。


『ソノ指輪ヲ装備スルト、任意ノスキルノ性能ヲ一段階、引キ上ゲルコトガ出来ル。互換性ノアルモノ限定デハアルガナ』


「は――?」

「え――?」


 余りにも信じ難い内容を聞いて、俺たちは再び呆けたような声を漏らす。

 奴は今、何と言った?

 スキルの性能を引き上げる、と言わなかっただろうか。


「う、嘘だろ?」 

『疑ウノナラ、指輪ニ魔力ヲ込メタ後、自身のスキル欄ヲ見テミヨ』


 百聞は一見に如かず。

 俺は手に持っていた指輪を適当な指に嵌めると、言われた通り魔力を注入。

 そして同様に手の甲にも魔力を込めると、浮かび上がってくる文字列に視線を注いだ。


 すると――。



―――――――――――――

×【矛盾の転換】

〇〖暗殺〗→【宵闇の使者】

〇〖魅了〗→【蛇姫の誘惑】

〇「簒奪」→〖怪盗〗

―――――――――――――



「な、何だ、これ……」

「凄い、こんなの初めて見たよ……」


 丸マークの付けられた〖銀〗以下のスキルの横、矢印の先には、

 その上位互換スキルの名前が刻まれていた。

 恐らくスキルの進化、レベルアップが可能であることを示しているのだろう。


『選ベルスキルハ一月ニ一ツダケ、途中デノ変更モ不可能トナッテオル』


 思わず言葉を失う俺たちを見て、王は指輪の持つ制限について説明する。

 いや、それでも凄いなんてものじゃない。

 これは革命的、傾国の秘宝だ。


『ドウダ。コレデモ、要ラヌト申スカ?』

「いや、元々要らないとは言ってないだろ。有難く貰っておくよ」

「あ、ありがとう。骸骨のお爺ちゃん?」


 返却をちらつかせてくる王に対し、やや慌てて言葉を返す。

 こんな大層なモノを持っていると知れれば、多方面から命を狙われること請負だが、

 それに関しては言わなければ良いだけの話。

 メリットとデメリットを比べてみても、どうするべきかは明白である。


『礼ニハ及バヌ。イヤ……、礼ニ及ベバ、良イノダガナ』


 亜麻髪少(ザイン)女の紡ぐ純粋な謝礼に対して、王は何やら物憂げな表情で呟く。

 その意味について気にならないでもないが、どうせ今の俺には理解出来ないだろう。


「ああ、それと、四階層に戻りたいんだが」

「あ、そうそう。ボクたち、あの楽園みたいな所に戻して欲しいんだ」


 暫し迷宮や指輪についての閑談を重ねた後。

 俺たちは、何故か少し打ち解けた王に対して願いを告げた。


『貴様ラ〝堕落〟シタクチカ。ナラバ此ノ下ノ魔法陣カラ、何処ヘデモ行クガ良イ』


 たった二行の説明だけで、俺たちの現状を理解したのか。

 王は軽く頷くと、自身の足元――、豪奢な玉座の下を指差した。

 やはりと言うべきか、玉座には脱出への鍵が隠されていたらしい。


『我ガ調整シテヤル故、暫シ待タレヨ』


 とは言え、王が操作をしない限り、作動しない仕組みだったようだが。


 玉座から優雅に立ち上がった王は、その手に魔力を込めると、一気に解放。

 そして、その奔流にあてられた魔法陣は、次第に淡い緑の輝きを放ち始めた。


『此レデ良イ。希望通リ、四階ノ試練部屋ニ繋ゲテオイタ』

「そうか、なら俺たちは行く。殺そうとした件については、水に流してやるよ」

「お爺ちゃん、じゃあね。ま、色々あったけど、結果オーライってことで」


 魔法陣の先には地獄が待っている――。

 なんて可能性もないではないが、圧倒的な実力を誇る骸骨の王のことだ。

 俺たちを殺したいのなら、回り諄い真似をする必要も無いだろう。


 俺たちは各々適当な挨拶を告げると、魔法陣の中へとその身を委ね――。


「そう言えば、結局お前は何者だったんだ」

『試練ノ監督ト……。イヤ、ソウデハ無イカ。今ハ亡キ国家ノ主、ソノ成レノ果テダ』

「そうか……。道理で見た目が厳つい訳だ」

『ソウ言ウ貴様ノ容姿ハ、ソノ言葉遣イニ似合ワヌモノデアルナ』


 そんな皮肉を最後に交わし、無骨なモノトーンの部屋を後にしたのだった。


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