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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第七十四話「王の試練 終」

入れ替わり前提で呼称しています。

※アレフの中のザイン→ザイン ザインの中のアレフ→アレフ


『幾多ノ〝欠片〟ノ温床タル心魂――。貴様ハ一体、何ナノダ』


 重厚な防壁を叩き切り、金属片を踏み鳴らす骸骨の王は、

 その深淵を湛える眼窩に疑念の色を宿し、問う。


「そういう抽象的なの、止めろっつーの。何って何だよ、何って」

「お兄さん……。ボクの『カワイイ』を損なうんだけど……」


 お前は一体、何なのだ――、と。

 似非魔術(ベート)師にも同じことを問われた記憶があるが、よもや哲学的な話なのだろうか。

 俺は生憎と、その手の言葉遊びは苦手なんだ。


『分カラヌノナラ良イ。今ハ未ダ……、ナ』

「だったら喋るなクソが。お前のそのダミ声、聞いててイライラすんだよ」

「お兄さ~ん。ボクのキャラが、崩壊しちゃってるんですけど」


 口を衝いて出る暴言に、亜麻髪少(ザイン)女からの苦情。

 確かに、彼女の甲高い声で紡がれるそれは、かなり違和感がある。


『ダガ、コレ以上ノ加減ハセヌゾ。我ガ試練スラ越エラレヌト言ウノナラ、死シテソノ力、返上シテ貰ウトシヨウ』

「あ? いまいち噛み合わねぇな。会話する気あんのか、アイツ?」

「それはお互い様だと思うよ、お兄さん……」


 的を射ない、一方的な王の戯言に、苛立ちが募る。

 しかも、さんざっぱら殺そうとした挙句加減とは、今更何を言っているのか。

 そう憤りたくなるが、しかし、いつまでも奴と与太話をしている訳にもいかない。

 俺は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせると、亜麻髪少(ザイン)女に向けて思念を飛ばす。


(動くぞ、済まないが頼む)

(了解、任せてよ)


 コンマ一秒にも満たない、刹那のやり取りを経て。

 亜麻髪少(ザイン)女は小さくなった俺を両手で抱えると、地面を強く蹴り上げる。


『〝風纏(ウィンド・ウェア)〟』


 そして俺は彼女に対して、支援の風魔法を行使した。

 途端、重力に逆らって軽やかなステップを踏む、血濡れの細脚。


(どうしたら良い? 後ろ行っても、逃げ場ないよね?) 

(一先ず、上空(ウエ)へ行くぞ)『〝風螺旋(ウィンド・スパイラル)〟』


 俺たちと王たちとの距離は、先の時間で充分に稼げているが、

 未だ広く聳え立つ金属壁の影響で、逃げられる範囲は凡そ二分の一にまで狭まっている。

 故にルートをしっかりと見定めつつ、奴らを躱していく必要があるのだ。


『逃ゲテイルダケデハ、傷一ツ付ケラレヌト言ッタ筈ダガ』


 逃げの姿勢を取る二人を認めた王は、低くくぐもった声で再びの煽りを入れる。

 そして、その声と呼応するようにして、兵士たちも行軍を加速させていく。


「「「「「ギ――――」」」」」


 主に絶対の忠誠を誓う骸骨の戦士たちは、仲間を足場にすることさえ厭わない。

 奴らは互いを踏み台にして高く跳躍すると、俺たちの居る上空へと迫ってきた。


(クソッ、鬱陶しいな……)


 数こそ100から60程へと減少しているが、一体一体の能力の高さは健在だ。

 少しでも気を抜けば、すぐにでも追い付かれ、再び咢の餌食となることだろう。


『次ハ金属壁ゴト、貴様ラヲ切リ裂イテ進ゼヨウ』


 そして、その背後。

 家臣たちに守られる安全圏は、相も変わらず王の特等席だ。

 奴が抜刀の構えを取ることで再び完成した、絶望の布陣――。


 いや、違う。

 これは唯の、見掛け倒しだ。


(ザイン、あれを)

(りょーかい、どぞ)


 そう言って亜麻髪少(ザイン)女から受け取ったのは、綺麗な青色を湛える魔力回復薬(マジックポーション)

 俺はそれをグイと飲み干すと、元は紫色であった血染めの杖に魔力を集結させ――。


『〝狂乱気流(タービュランス)〟』


 勢い良く、解き放った。


「「「「「ギァ――――」」」」」


 途端、骸骨兵士の群れを襲うのは、荒れ狂う暴風。

 空気中に発生した渦を中心として螺旋状に展開する風の刃は、

 奴らの防具を貫いて骨身をバラバラに切り裂いていく。


 しかし、致命には至らぬ斬撃だ。

 常時であれば身体も防具も、王の号令によって瞬く間に再生することだろう。


 だが――。


「「「「「――――」」」」」


 骨の山と化した兵士たちが、再び動き出すことは無かった。


(ビンゴだな。やはり、両立は出来ないらしい)  

(やった、これで大分楽になるよ)


 途中での軌道修正が出来ない等、何かと制限の多い居合切りだ。

 兵士の再生という緻密な作業を並行して行えるというのは、聊か不自然ではないか。

 そう考え試してみたのだが、やはりビンゴだったようだ。

 そして恐らくだが、途中でのモーション中断も出来ないと見ている。


(この後の作戦、覚えてるよな?)

(うん。今度はバッチしさ)


 これで兵士たちの妨害は無くなり、ようやく振り出しに戻った形。

 後は王の動きを読み切って回避するだけ。なんてことはない。


 とは言え、決め手が無いのは此方も同様――。

 と、(ヤツ)は思っていることだろう。


「一瞬で、カタを付けるぞ」


 二本目の魔力回復薬を優雅に呷りながら。

 そう言って笑うアレフの瞳には、信頼と闘争の色が灯っていた。





              *





(右上だ)

(りょーかい‼)


『シッ――――』


 アレフを横抱きしたザインは、脳内に響く声に従って右上空へと跳躍する。

 直後、二人の左下を通過していく不可視の一閃。


『ヨモヤ、ソコマデ見抜クトハ……。ダガ、我ガ奥義ヲ封ジレバ良イダケノ話』


 空を切り、二人の背後へと回った骸骨の王は、振り向きながら感嘆の声を上げる。

 そして、そのまま両手を高々と掲げると、尚も続けて――。


『〝永遠ノ生命(アニマ・アエテルヌス)〟』


 完璧に対策された居合切りを放つくらいなら、家臣たちを使って二人の消耗を図る。

 至極真っ当で、合理的な判断だ。

 だがそれこそが、アレフの術中。


「だよな。そう来るよな」――『〝狂乱気流(タービュランス)〟』


 それは無慈悲なる、リスポーンキル。

 迷いなく突貫するザインに抱えられたアレフは、骨の山が人形を成す前に魔力を解放。

 産声を上げさせることもなく、再びの殲滅を果たして見せた。


 そして一先ずの役目を終えたアレフは、ザインの邪魔にならぬよう地面へと自由落下。


「構えてねぇお前なら、安心して近付けるだろ?」


 既に両者(ザインと王)間の距離は100mを切っている。

 これまでは、抜刀の構えが抑止力となっていた訳だが、今は違う。

 兵士の邪魔も入らず、接近のリスクも低い瞬間。正に千載一遇の大チャンスだ。


「はぁぁぁあぁぁぁ――‼」


 らしくもない大声を上げながら。

 ザインは細剣(レイピア)を握り締め刺突の構えを取ると、全速力での疾走を続ける。

 高い敏捷ステイタスに魅了効果を上乗せした突貫は、弾丸の如く。速い。


『キィィイィィン――‼』


 次の瞬間――、金属と金属がぶつかり合う、甲高い音色が鳴り響いた。

 白銀の刃と不可視の刃による、壮絶な鍔迫り合い。両者譲らぬ、互角の攻防。


 だが、それも長くは続かない。


「うっ――⁉」


 先に音を上げたのは――、ザインだった。


 やはりと言うべきか、【矛盾の転換】によって防御力を失った身体は脆い。

 ザインは治り掛けていた腕の骨が、少しずつ砕けていくのを知覚していた。

 痛くはない。が、一度限界を迎えてしまった身体は、思うように機能しないのだ。


(辛いだろうが耐えてくれ。頼りにしてるぞ、ザイン)『〝風縛(ウィンド・バインド)〟』


 すると後方から、そんな思念と共に風の鎖が飛んできた。  

 そして、それはザインの全身を縛り上げると、揺るがぬよう空気中へと縫い付ける。


(あ、ありがとう? ――、って……)


 支援にしては聊か荒くはないかと、思わず文句を念じそうになるザイン。

 しかし、当のアレフは三本目の魔力回復薬片手に、何かを忙しそうに集めている。

 所詮、自分への支援は片手間なのか、と。

 場違いにもそんな不満が渦を巻くが、ザインの抱く緊張感は次第に解されていった。


「むっ、見てろよ‼ ボクにだって、やれるんだ――‼」


 相も変わらず平常運転なアレフに憤るザインは、その感情を骸骨の王へとぶつける。

 すると、王優位だった攻防は一転、再びの拮抗状態へと縺れ込んでいく――。


『貴様ハ〝器〟ノ腰巾着デハ無イト申スカ。ナラバ示シテ見セヨ、ソノ蛮勇ヲ』


 のも束の間、今度は王がそのギアを上げ、放つオーラを倍増させた。

 当然押し込まれる、ザインの身体。

 だが彼女も、負けてはいない。


「らぁぁぁあぁぁぁ――‼」


 再びの咆哮は、己を奮い立たせるための、魂のビートか。

 ザインは持てる力の全てを、両手に握る細剣の剣尖に込めた。


 一点集中。研ぎ澄まされた刺突と、圧倒的な暴力とのぶつかり合い。

 だが、そんな魂と理不尽の鍔迫り合いは、一人の男によって無粋にも遮られた。


(ザイン、ありがとう。準備は整った)


 短く思念を飛ばし、獰猛に笑う男――。アレフは、真紅の杖に魔力を集結させる。

 そしてゆっくりと、その口を開き――。


『〝竜巻旋風(トルネード)〟』


 それは〝狂乱気流(タービュランス)〟と並んで、風属性中級の中でも上位に属する魔術。

 しかし、高が上昇気流の渦程度で、骸骨の王が倒せる訳も無い。

 そんなことは、この場に居る全員の共通認識だ。


 ならば――。


『――――⁉』


 竜巻が、唯の竜巻であろう筈がない。

 上昇気流を伴う円錐型の渦は、大量の金属を巻き込み誇大化していた。

 名付けるなら、そう。『〝金属竜巻(メタリック・スパウト)〟』と言った所だろうか。


「沈め」


 アレフがザインに任せていたのは、王の視線誘導、並びに時間稼ぎ。

 始めから、彼女に倒して貰うつもりは無かったのである。

 まぁその辺はやる気を削がないためにも、若干濁して伝えていたのだが。


『ゴオォォォオォォォ――‼』


 アレフが杖を振るうと、

 竜巻は床面に散らばる骨や武具の残骸、金属壁の欠片を吸い込みながら、

 更なる誇大化を果たしていく。


 直径凡そ50mにも及ぶ、巨大竜巻。

 その尋常でない速度も相俟って、構えを取っていない王が逃れられる道理は無かった。


(お兄さん‼ このままだと、ボクも細切れになるんですけど――⁉)

(分かってる、少し待ってろ)


 だがそれは同時に、鍔迫り合いを続けるザインも逃れられないことを意味している。

 そこで、アレフは再び杖を振り翳すと、もう一つ風の流れを作り出す。


『〝風螺旋(ウィンド・スパイラル)〟』


「え――。キャアァァアァァ――⁉」


 ザインの側面、唐突に現れた突風は、彼女の身体を勢い良く押し流していく。

 竜巻の速度をも上回る、横殴りの奔流。

 そんな凄まじい風に攫われた彼女は、錐揉み回転しながら吹き飛ばされていった。


 そして、その直後――。


『――――』


 誇大化し切った気流の渦は、唯一人残された王の身体を全て飲み込んでいった。


「チェックメイトだ、躯の王よ」


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