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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第七十一話「王の試練 ②」

↓要約すると、

「アレフの指示を聞きつつ、ザインが二人分の身体を操作している」という状況です。

 かなり分かりにくいと思います。申し訳ないです。


「え――? 〖魅了〗を掛けるの?」

「そうだ。だが身体だけ、精神はそのままで頼む」


 俺の指示に対して戸惑いを見せる亜麻髪少(ザイン)女だが、まぁそれも無理ないだろう。

〖魅了〗による興奮作用で痛覚を騙すなど、常人の発想では無いのだから。


「あ、成程、そういう……。でもさ、それって感覚を共有したままだとどうなるの?」

「さあ、正直やってみないと分からないが……、問題は無い筈だ」


 感覚共有中の対象に〖魅了〗を行使しようとするとどうなるか。

 試したことは無いので分からないが、

 魅了状態はスキルにおける定義上の「感覚」には分類されない筈。


 故に興奮作用が伝播することはなく、亜麻髪少(ザイン)女へと身体の指揮権が譲渡される、

 というのが俺の見解である。

 正直かなりの博打ではあるが、現状他に取れる選択肢が無いのだから致し方ない。


「すまないが、時間が無い。手早く済ませてくれ」

「そっか……。うん、分かったよ」


 骸骨の見せる構えのモーションは酷く緩慢だが、一度動き出せばその限りではない。

 故に俺は急かすように、亜麻髪少(ザイン)女へとそう指示を出した。

 そして、それを聞き届けた彼女は軽く首肯すると、そのまま徐に顔を近付けてくる。

 

 ――いや、待て。何故、顔を近付ける必要が……。


「は……?」


 途端、頬に感じるのは――、柔らかな感触。

 優しく。

 温かく。

 己が穢れを全て洗い流してくれるかのような、天使のベーゼ。

 その正体が何であるのかを理解するのに、少しばかりの時間を要した。


「なっ、何を――?」


 慌てて仰け反り言葉を漏らすと、目の前には艶っぽく笑う亜麻髪少(ザイン)女の姿。

 こんな時に、一体何だというのか。

 一瞬止まっていた脳が、超速で回転を始める。


「だって、感情が昂ると魅了されやすくなるんでしょ?」

「あ――。いや、そうだが……」


 その頬に僅かな朱を差しながらも、亜麻髪少(ザイン)女は何処か揶揄うように答えた。

 確かに彼女の言う通り〖魅了〗の効果は、

 対象の感情が乱れているほどに高まっていく。


 そう言う意味で今の一連の流れは、合理的なものだったのかもしれない。

 しれないが……。

 何と言うか、もう少し別の方法は無かったのだろうか。


「お兄さん、ガード堅いかなって思ったんだけど……、意外とそうでもない?」

「くそっ、良いから早くやってくれ……」


 不意打ちの接吻に思わず面食らっていると、尚も畳みかけてくる小悪魔的少女。

 彼女にこれ以上揶揄われるのは本意ではない。

 ――って違う、そうじゃない。俺たちは一体、何をしているんだ。


「ふふっ、効果覿面みたいだね。じゃあ、行くよ」


 苦言を呈す俺を見てようやく満足したのか、亜麻髪少(ザイン)女は感覚の接続を開始する。

 彼女は一瞬、伝播する激痛に顔を顰めていたが、

 すぐに持ち直し視線を絡ませると、その華奢な両の手を眼前へと翳し――。


『〝身体魅了(フィジカル・チャーム)〟‼』


「――――」


 瞬間――。

 身体と精神が乖離するような、そんな感覚に陥った。

 身体は亜麻髪少(ザイン)女に傾倒しているのに、精神の方はその限りでは無い。

 何とも複雑で、奇妙な感覚だ。


(痛みは……、よし上出来だ。そっちは大丈夫そうか?)

(うーん……、大丈夫だけど、何かすっごく変な感じ。

 ボクはボクなのに、お兄さんまでボクになったみたい?)


 俺の感覚と身体の指揮権。

 双方を獲得した亜麻髪少(ザイン)女の抱える情報量は、凄まじいことになっている筈。

 そう懸念し問い掛けたのだが、どうやら杞憂だったようだ。

 それ程までに、彼女のスキルに対する適正が高いということなのだろう。


(お兄さんの方は、どう?)

(俺は、そうだな……。逆に自分を見失いそうだ)


 そして俺の方はと言うと、意識は正常なのに興奮した身体が言うことを聞かない、

 一種の金縛りのような状態となっている。

 しかし、それは想定通り。

 痛覚や温度覚といった感覚の鈍化には成功しているので、特に問題は無い。


(あれ、ていうかさ。今お兄さんの身体って、ボクの思うがままだよね?)

(こんな時に何考えてやがる。――って、止めろ、おい)

(つんつん……。わー、すっご。細いのに意外と筋肉質なんだね。体脂肪率0%?)

(それ人間じゃないだろ……、じゃない。んなことはいいから、速く逃げろバカ)

(だからバカって言う方がバカ……、とか言ってる場合じゃなさそうだね)


 そんな下らない、中身のない思考を交換していると。

 ついに訪れるタイムリミット。

 骸骨の予備動作は終わりを迎え、放つオーラが急激に膨れ上がった。


(お兄さん、どうすれば良い?)

(そうだな……。俺が合図したら、思い切り上に飛べ。魔法も使って、全速力で)


 都合三度の接敵を通して。

 流石の俺も、骸骨の放つ理不尽な攻撃に、唯怯えていた訳ではない。

 左大腿を抉られてようやく気付くことの出来た、奴の弱点。

 いや、少し盛ったな。居合切りの弱点か。


(――今だ)

(りょーかい‼)『〝暴風(ウィンド・ストーム)〟』


 俺を操作し自身を抱かせた亜麻髪少(ザイン)女は、合図に合わせて足元に竜巻を発生させた。

 最初は小さく。しかし、徐々に縦方向へと伸びていく上昇気流。

 (彼女)はそんな竜巻の成長に合わせて跳躍すると、

 風の流れを最大限利用する、風精霊もかくやという見事な走空術を披露してみせた。


『シッ――――』


 そして直後。足元を通過していく一筋の斬撃、もとい骸骨。

 二度目の時はかなりギリギリであったが、

 今度は比較的余裕を持って回避することが出来た。


(やった、避けれたよ‼)

(ああ、凄いな。だが、油断するなよ)


 俺が見抜いた、居合切りの弱点。

 それは、一度踏み込んでしまうと、そこから一切の軌道修正が出来ないことだ。

 故に、骸骨が片足を前へ出した瞬間、全力で回避行動を取れば、

 奴の刃から逃れられるという理屈である。

 圧倒的速度の裏に隠された、数少ない弱点であると言えるだろう。


(ねぇねぇ、ていうかさ。これって、実質セルフお姫様抱っこじゃない?)

(だったら何だ……。随分と元気になったな、お前)


 尚も突風の中を疾走しながら、そんな謎の思考を飛ばしてくる能天気少女。

 しかし、彼女の中で何か心境の変化でもあったのだろうか。

 先程までの怯えた様子とは打って変わって、何処か吹っ切れたような印象を受ける。


(いやさ……。さっきお兄さんが死に掛けて、気付いたことがあるんだ。

 もうボクは、足を引っ張りたくないんだって。だから、弱気でいちゃダメなんだって)

(………。だったら真面目にやれ、ばか)


 やや調子を落とした、だが明確な覚悟を孕んだ思念に、

 俺はそんな悪態で返すことしか出来なかった。

 彼女が何を抱えているのか知る由も無いし、何より干渉する権利などある筈がない。

 唯その強さが、羨ましい、妬ましいと。そう感じるだけだ。


(次が来るぞ――、左に飛べ)

(アイコピー‼)『〝風螺旋(ウィンド・スパイラル)〟』


 それから少し経って。

 ズームされた亜麻髪少(ザイン)女の視界から、

 幾度目かの予備動作を終えた骸骨の姿を捉えると、短く指示を出す。

 奴は先程よりも30度程、屈んだ姿勢を取っていた。

 つまり――。


『シッ――――』


 横殴りの突風に流されていると、右頭上を通過していく骸骨の身体。

 間違いなく、俺たちが更に上へ逃げると予測したのだろう。

 逆に自身の動きが、完璧に読み切られているとも知らずに。


 そして、そこからは余裕だった。


(凄いや、簡単に避けられるよ‼)

(何でそんなに、俺の身体の扱いが上手いんだ?)


 右へ左へ、上空へ。

 魔術を織り交ぜた見事な回避術は、一切の攻撃を寄せ付けない。


(ていうかさ、お兄さんのスピード上がってない? もしかして、さっき手抜いてた?)

(んな訳ないだろ、ドーピング作用だ。惚れた女のために躍起になってるんだろう)

(え~、お兄さん、ボクに惚れてるの? まったくもう、照れるな~)

(俺じゃない。俺の身体が、だ)


 超速度の攻撃を往なせるようになった要因は、主に三つ。

 骸骨の癖の看破。亜麻髪少(ザイン)女の回避術。そして〖魅了〗によるドーピング作用だ。


 精神掌握、身体掌握を主とするスキル〖魅了〗であるが、

 その追加効果として、対象のステイタスが一時的に上昇する仕様となっている。

 思いの丈によって効果が変動する、『偏愛の力(ラブ・パワー)』。

 まぁデメリットとして、

 スキルが切れたタイミングで皺寄せが来るようになっているのだが。


『成程。我ガ剣術ノ癖ヲ見抜イタ、ト言ウノカ……』

(阿保みたく反復横跳びするのが剣術とは、笑わせてくれるぜ――、と言ってやれ)

(え。やだよ、怖いもん)


 十数回にも及ぶ抜刀の果てに、ようやく気付きを見せる骸骨の王。

 それにしても、剣術とは笑わせてくれる。

 ステイタスに物を言わせた反復横跳びに、技術もクソも無いだろうが。


『ナラバ、此レハドウダ?』


 と、そんな俺の心中を見透かしたのだろうか。

 骸骨は短く言い放つと、その出汁の取れそうな両手を高々と掲げ――。


『出デヨ、家臣タチ。〝亡国ノ戦士(ミーレス・ヴァニタス)〟』


「「――――⁉」」


 その瞬間――、地面が消失した。


 否、その表現は的確ではない。

 黒く深い暗闇に、覆い尽くされたのだ。

 

 そんな異様な光景を認めた俺たちは、慌てて上空へと退避する。


(おいおい……、マジで言ってるのか……)

(は、はは……。ボクたち、どうやら此処までみたいだね……)


 ずぶずぶと蠢く闇の中から、やがて顔を出すのは――、骸骨の兵士(スケルトン・ナイト)の群れ。

 その数凡そ――、百体。

 各々が入念な武装をし、禍々しいオーラを纏っていた。


『更ナル理不尽トイウモノヲ、ソノ身ニ焼キ付ケテ進ゼヨウ』


 強く在ろうという決意も、反撃の狼煙を上げんとする意志も。

 全てを根本から圧し折る、圧倒的な人海戦術。

 絶望の第二ラウンド、スタートだ。



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