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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第六十六話「戦士の休息」


 何とか『遊泳蜥蜴(スイミング・スキンク)』を討伐した一行は、広大な部屋の一角で休息を取っていた。


『やるね~、お姉さん。もしかして、かなりのやり手?』

『ミャーは最初から信じてたのニャ』

『す、凄かったです……。わ、私なんて、無抵抗の相手を殺しただけの卑怯者で……』

「いや、そんなことは無いさ。息の根を止めるまでの手並み、見事なものだったぞ」


 上級治療薬(ハイポーション)を呷りながら療養を続けていると、三人の少女から声が掛かる。

 俺はそんな彼女たちの賛辞(?)に対して適切な言葉を選んで返すと、

 やや遅れて合流した亜麻髪少(ザイン)女と森霊娘(ハイネ)の二人へと視線を移し――。


「助かったよ。礼を言う」

「うんうん、もっとボクに感謝すると良いよ‼」

『後衛としての責務を果たしたのみ……。いえ、貸しとしておきましょうか』


 そう、短く謝礼を告げた。

 この二人の防御魔法が無ければ、俺は今頃肉片と化していた所だろう。

 森霊娘(ハイネ)まで助力してくれたのは意外であったが、

 彼女は仕事に私情を挟まない性質(タチ)なのかもしれない。


「それはそうとさ……、さっきは凄かったよね‼」

「ああ、そうだな」


 閑話休題。

 亜麻髪少(ザイン)女は、部屋の両サイドに対を成す魔晶石の元へと駆け寄っていくと、

 無邪気な子供のように興奮しながらそう言った。


 と言うのも。件の蜥蜴が命を散らした瞬間、二つの魔晶石は蒼白い光を帯び始め、

 それぞれ蜥蜴の死骸目掛けて光線を放出したのである。

 そして、蒼光に包まれた死骸はと言うと、儚くも消滅。

 魔晶石へと吸い込まれるようにして、跡形もなく消え去ったのだ。


「魔晶石が一度吸収して再構築する、と言うことなのか……?」

『恐らくな。だが奴の反応を見る限り、記憶を引き継いでいる訳ではないようだぞ』

「んー……、毎回リセットされてるんだ。何か、良く分かんないや」


 蜥蜴を再召喚するロジックについて考察してみるが、皆目見当も付かない。

 結局、「魔晶石の奥には〝教皇〟が居て、蜥蜴の蘇生作業を行っている」

 などと言う意味の分からない思考に陥った折、俺は考えることを放棄した。


『まあ、それについては今後の研究に期待するとして――。

 今から計六時間、此処で睡眠を取るぞ。見張りは二人ずつ、九十分交代で頼む』


 金騎士(オリア)の方は一早く放棄していたようで、一同へと向き直るとそう言い放った。


「ここでかぁ……。ちょっと床が硬いけど、しょうがないよね……」

『ユフィちゃんには寝袋があるので、関係ないのです~』

「あ、ズルい‼ ボクも入れてよ‼」


 既に迷宮攻略開始から十時間以上が経過しており、疲労もかなり蓄積されている。

 故に今、他の魔物の存在しないボス部屋(仮)で睡眠を取るというのは、

 至極合理的な行為だと言えるだろう、が――。


「四時間半か。そちらの面々は、それで足りるのか?」

『案ずるな。皆、それなりに慣れている故』

『アナタの方こそ大丈夫なのですか? 随分と軟弱な御身体をされているようですが』


 俺の率直な疑問に対する、金騎士(オリア)の回答と森霊娘(ハイネ)の煽り文句。

 いつ何時休息が取れるか分からない迷宮内部では、

「休める時に休む」がセオリーとされているため、一応問い掛けたのだが、

 金騎士(オリア)が大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。

 一刻を争う現状、例え身体を休める目的であっても、悠長にはしていられないからな。


「なら良いさ。それと、最初の見張りは私にやらせてくれないか?

〝軟弱な身体〟故、腕の骨が未だ繋がり切っていなくてな」

『そうか。では、もう一人は此方から出そう。ハイネ、やるか?』

『姉様……。一人、戦力が減ることになりますよ』


 己が腕を抱きながらの発言に、返ってくるのは遠回しの殺害予告。

 正直ペアの相手は誰でも良いのだが、襲われるとなれば流石に話が変わってくる。


『ハハッ、それは困るな。ならば、私がやろう』

「ああ、宜しく頼む」


 森霊娘(ハイネ)からの物騒な返答に対して、金騎士(オリア)は思わずと言った様子で苦笑して見せる。

 だがまあ、彼女と二人で組む形が一番丸いだろうな。

 他の面々の俺に対する心証は、蜥蜴との一戦を通して少しは良化したように思えるが、

 内心では森霊娘(ハイネ)と同じように拒絶の感情を抱いていてもおかしくはない。


「あ。お姉さん、おさきー」

『ねぇ、二人共~。ユフィちゃんの桃源郷から出てって下さ~い』

『まあ、そんな固いこと言うニャって』


 と、俺たちが見張り役について話し合っていると。

 ギュウギュウ詰めの寝袋から顔を出した亜麻髪少(ザイン)女が、手を振りながらそう言ってきた。

 一人用と思われる寝袋に三人入っていると言うのだから、かなり窮屈そうに見えるが、

 まあ、俺が首を突っ込む問題でもないだろう。

 故に軽く手を振って応えるに留めると、金騎士(オリア)と二人見張りの準備を進めていった。





                 *





 一同が寝静まった頃――、少し離れた場所の石柱へと凭れ掛かりながら。


『感謝するよ。貴公の御陰で、随分と時間を短縮出来た』

「それはお互い様だろう。此方も急がねばならぬ理由があるのだからな」


 俺と金騎士(オリア)は栄養剤片手に、長い見張りの時間を雑談に費やしていた。


『急がねばならぬ理由、か……。差し支えなければ、貴公らの目的を教えてくれないか?

 流石に観光と言うのは方便であろう?』


 前々から気になっていたとでも言うように、腕を組みながら問うてくる金騎士(オリア)

 そう言えば入国の際、目的は観光と言ったのだったな。

 現状を鑑みるに、その回答だけでは明らかに不自然であろう。


「――いや、元々は観光のつもりであったよ。だが、少々事情が変わってな……。

 実は帝城に勤めている研究者の知り合いが居るんだ。彼女の安全を確保したい」

『そうか、驚いたな……。だが、それなら心配は要らん。

 元凶が我が国の皇族である以上、貴重な技術者には手を掛けないだろうよ』


 咄嗟に捻り出した回答に対して、金騎士(オリア)は安心させるような口調でそう返してくる。

 それから彼女は少しだけ表情を引き締めると『故に』と前置き、尚も続けて――。


『申し訳ないが城内の人員を救うのは後回し、女帝陛下を解放してからになる。

 貴公らの目的については理解したが、独断で行動することは了承出来ないぞ』


 何処か確かめるように、諭すように。真摯な瞳で釘を刺してきた。

 まあ、彼女の心配も尤もであろう。

 何せ俺と亜麻髪少(ザイン)女の二人が勝手な行動を取れば、城への侵入作戦自体が破綻しかねず、

 女帝陛(人質)下が殺されてしまうという最悪のケースに陥る可能性もあるのだから。

 とは言え、俺の知人が陛下本人である以上、彼女の心配は杞憂に過ぎないと思うが……。


「それくらい、分かっているさ」

『そうか。なら、もう何も言わん』


 金騎士(オリア)の目を見て強く宣言をすると、彼女は吹っ切れたように小さく微笑んで見せた。


 そして、それから暫く他愛のない会話を繰り広げた後。

 今度は俺の方から、気になっていた事柄について問い掛ける。


「先代の女帝陛下って……、どんな人物だったんだ?」

『ん、先代様か? そうだな……、良く言えば大らか、悪く言えば雑な御方だったよ』


 何処か懐かしむような表情を浮かべる金騎士(オリア)は、酷く優しい声音でそう答えた。

 色々と暗躍していたらしい先代女帝について、少し知っておきたいと思ったのだが、

 彼女の反応から察するに、相当慕われていたようである。


『「自分より他者」がモットーのような、お人好しな御方でな。

 私たちは皆、陛下の類稀な優しさと、その強さに救われたんだ』

「強さ、か……。そう言えば〝魔獄の戦乙女〟という二つ名を聞いたことがある」

『ああ、陛下はとにかく魔法の扱いが上手くてな。

 陛下直々に稽古を付けて下さった際は、何度も床を舐めさせられたものだよ』


 尚も紡がれる思い出話に耳を傾けながら、俺は軽く思考を巡らせる。

 金騎士(オリア)森霊娘(ハイネ)赤騎士(ルミナス)も、そして恐らくはあの女(ダレット)も。

 皆一様に先代女帝の保護を受け、育てられたという認識で正しいのだろう。

 そうなると、何故あの女が俺と逢うことになったのか、という疑問は残るが……。


『それと、研究者としての才も凄まじかった。流通している魔道具の一部は――』

『何やら首飾りを後生大事に付けていたよ。どのような代物なのかは教えて――』

『占いが好きな御方でな。時折、その日に起きる出来事なんかを予測して――』


 と、聞き手に徹していると。

 金騎士(オリア)はあれも語りたい、これも語りたいといった様子で捲くし立ててきた。


「そ、そうか……」


 姉御肌な印象であっただけに思わず気圧されてしまったのだが、

 どうやら彼女のスイッチを入れてしまったらしい。

 そのクールな容貌と目を輝かせながら先代女帝について語る様は、

 少しばかりアンバランスな様相を呈していたが、彼女は何処か童心に帰ったようで。

 見ていて心温まるような、そんな不思議な感慨を、俺は気付けば抱いていた。


『す、済まない。つい、話し込んでしまって……』

「いや、大丈夫だ。もう少し聞かせてくれ」


 ふと我に返った金騎士(オリア)は頬を赤らめると、バツが悪そうに謝罪の言葉を述べてくる。

 だがまあ、他者の平和な昔話を聞くのも、偶には悪くないだろう。


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