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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第六十四話「第一の扉」


『ご、ご、ご、ご、ごめんなさいぃ――‼』

『ユフィちゃん特製、レーザービーム~』

『リトラ……。その謝罪癖、直せと言った筈ですよ』


 陰少女(リトラ)の持つ巨大な薙刀が、謝罪の言葉と共に周囲の魔物を吹き飛ばし。

 寝袋娘(ユフィ)の周囲を旋回する小型機が、研ぎ澄まされた光線を解き放ち。

 森霊娘(ハイネ)が二人をカバーするように、直剣で討ち損じを悉く刻んでいく。


 バランスが取れているのかいないのか、何とも微妙な連携ではあったが、

 兎も角『病魔蝙蝠(イルネス・バット)』の大群は、ものの数分で次々と四散していった。


「ねぇ……、ボクたち要る?」

「さぁ……、そのうち出番がくるだろう」


 対して亜麻髪少女(ザイン)の風魔法で軍服を乾かしながら、仄暗い通路を(ひた)歩く俺たち。

 彼女らの肩慣らしに任せて体力を温存しておけと言われているのだが、

 長時間出番がないというのは流石に退屈なものである。


「あ、あれは?〖魅了〗‼ 遠くからサポートくらいは出来るんじゃない?」

「奴らは目が悪いからな。効きが余り良くないだろう」

「あ、そっか。魔法じゃあ、巻き込んじゃうしね……」


 その手で器用に風を操りながら、亜麻髪少女(ザイン)が残念そうな声でそう呟く。

 傭兵として雇われている以上、何かしら成果を残さねばという思考は理解出来るが、

 雇用側がそれを望んでいない現状、俺たちが独断で動くことは許されない。


「それにしても、此奴らは随分と奇怪な装いをしているな?」

『ああ。地下迷宮の魔物はこの武装の所為で、通常の個体よりも強力なんだ』


 とまあ、それはさておき。

 床面に転がる『病魔蝙蝠』の死骸を認めた俺は、横を歩く金騎士(オリア)へとそう問い掛けた。


 と言うのも、奴らの身体は全て金属の武具に覆われた特別仕様となっているのだ。

 自然の中で形成された外骨格とは異なる、明らかに人工的な産物。

 人間の落とした武具を拾って活用している魔物は稀に見掛けることがあるが、

 全個体が同じような装備とは、不可解を通り越して気味が悪い程である。


「神器を守るガーディアンってことなのかな?」

『それか、神器を持つに相応しい人間を選ぶための試練なのかもニャ』


 二人の少女はそんな会話を続けるが、答えの無い話題はそう長く続かない。

 故に会話は次第に、別の方向へと向かっていく。


「そう言えば……、抜け道って何処にあるの?」

『回答。迷宮は全部で十四階層、抜け道が存在するのは五階層(地下)の最奥です』


 亜麻髪少女(ザイン)の素朴な疑問に、銀騎士(リブラ)が淡々と回答を述べる。

 しかし五階層か。それくらいなら然程時間を掛けずに踏破できそうだが、

 この魔物の質で十四階層までとなると、相当厳しい戦いになるだろうな。


「貴女方は最終階層まで行ったことが?」

『いや、我々は十階層までしか探索したことがない。

 十一階層から〝風光霊剣(ルクス・グラディウス)〟が封印されていた十四階層までは、

 先代の女帝陛下しか立ち入ったことがないのだ』

『一回行ってみたいんニャけど、敵が強いからダメって、先代様に釘刺されてるのニャ』

「それ程か……」


 俺の疑問に対して、二人は首を横に振って否定を表す。 

 先の戦闘を見るに、彼女らも相当場数を熟している印象であったのだが、

 これは危機意識のレベルを一段階引き上げる必要があるだろうか。


「ま。五階層までなら、何とかなるでしょ‼」


 そんな思考を巡らせていると、亜麻髪少女(ザイン)の実に能天気な台詞が耳を打つ。

 思わず嘆息させられるが、そのポジティブさが彼女の長所かと納得。

 俺たちは尚も魔物を屠り続ける三人の背中を眺めつつ、細い通路を進んでいった。





                  *





 それから暫くして。

 複雑に張り巡らされた通路を最短ルートで駆け抜けた俺たちは、

 一階層の終着点――、少し開けた空間へと辿り着いていた。


「うわぁ、すっごい大っきな扉‼ どうやって造ったんだろう⁉」


 そして眼前に悠々と聳え立つのは、8m程もある巨大な金属製の扉。

 一本の剣を象った精巧なレリーフが彫られたそれは、

 この先で更なる試練が待ち受けていることを示唆しているかのようだった。


「この中に、下層へと続く道があるのか?」

『ああ、階段がある。だが、その前に魔物を倒さなくてはならなくてな』

「そうか。中にはどれだけの魔物が巣食っている?」


 迷宮の階層間というのはどういう訳か、かなり広い空間であることが多い。

 まあそもそも、階層という概念自体が曖昧だったりするんだが、

 広大な空間には縄張り争いの勝者、必然的に強力な魔物が集うようになるのだ。


『回答。一体です』

「ん……、どういうことだ?」

『部屋の中心部に鎮座する魔物、そいつが奥の階段の守護者のような役割を担っている』


 俺の質問を聞いた二人の騎士が続けてそう答える。

 確かに人工の迷宮であるならば、無作為に散らばっている魔物たちではなく、

 特定の強力な魔物に番人を任せると言ったことも可能なのかもしれないが……。

 しかし、それならば――。


「貴女方は何度かこの迷宮に来ているのだろう? なら、既に討伐済みでは?」

『まあ、当然そう思うニャ。でも、この中の魔物は何と――、復活するのニャ‼』

「復活って……、ど、どういうこと?」


 続く疑問に猫耳娘(シャティー)が意気揚々とそう答える。

 しかし、復活とは随分と非現実的な話であるな……。


『階段を守護する魔物が討伐された場合、部屋内にある特殊な魔晶石を媒介として、

 新たな同種の個体が生まれる仕組みとなっているんだ。

 以前待機して計測した際は、約十日のインターバルを挟んでの出来事だったな』

「中々、信じ難い話だな……」

『だろう? 謎多き迷宮だからこそ、神器なき今でも我らは調査を続けているのだ』


 自身もお手上げと言った様子で、金騎士(オリア)は小さくジェスチャーを取る。

 復活よりは再生成と言った方が正しいだろうが、魔物の成長過程は何処へ行ったのやら。

 まあ何にせよ魔物を生み出す魔晶石とは、考えるだけで頭の痛くなる代物である。

 やはりこの地下迷宮、常識に当て嵌めて考えるのは聊かナンセンスかもしれないな。


「で、その魔物って言うのは?」

『それは――、見れば分かるさ』


 地下迷宮に対する認識を改め、尚も問いを重ねていく。

 しかし、金騎士(オリア)は意味ありげな言葉で短く返すに留めると、

 面々に「準備は良いか?」と確認を取り、巨大な扉へとその手を翳した。


 何故、魔物の正体を明かさないのか。そんな疑問を置き去りにするかのように。

 突如として活動を始める金属製の扉は、

 剣のレリーフの周囲を擦るように淡緑色の光が迸ると、明滅。

 軋むような音を立てて少しずつ開き始めた。


『行くぞ、油断するなよ』


 扉の奥は光一つない暗闇で、外側から確認することは出来そうにない。


 前衛 ―― 俺・金騎士(オリア)

 中衛 ―― 銀騎士(リブラ)陰少女(リトラ)

 後衛 ―― 亜麻髪少女(ザイン)森霊娘(ハイネ)寝袋娘(ユフィ)猫耳娘(シャティー)


 故に、以上の陣形を組んだ俺たちは、ゆっくりと部屋の中へと歩を進め――。


『ギャオォォオォォン――‼』

 

 壁面に嵌め込まれた大量の発光石によって、部屋の内部が一気に照らされていく中、

 身の毛も弥立つような野太い雄叫びを耳に刻んだ。

 そして、その叫声の発生源へと視線を向けると――。


「あ、昨日の――⁉ けど、ちょっと違う……?」

「奴の親戚と、八つ当たり(リベンジ)マッチって所か」


 左右に特大の魔晶石、奥側に閉ざされた扉の存在する、直方体の部屋の中心部。

 銀色の装備をその身に纏った『遊泳蜥蜴(スイミング・スキンク)』が、扉を守るように鎮座していた。


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