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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第六十二話「愉快な仲間たち」

「魔法少女、メタモルフォーゼ‼ って――、ちょ、フード掴まないで‼」

「いつまで待たせるつもりだ……。一度、宿屋へ帰るぞ」

「あ、そっか、寝不足だったもんね。ごめんごめん」


 あれから、小一時間ほどが経過し。

 魔法少女と言うよりは、魔法使い見習いと言った風体の少女のフードを摘まむと、

 作戦遂行への体力を確保するべく、一先ず宿への帰還を試みる。

 因みに俺たちが頂戴した装備品は、以下の通り。


 魔法杖:『紫楢木(パープル・オーク)』のロッドに、大きめの魔晶石‼ ボクのお気に入りさ‼

 魔法衣:軽いけどしっかりしていて、マントとの重ね着も抜群だよ‼

 魔法盾:両防御力を高めてタンク役を熟す用。転換中は武器としても運用可能だ。

 紅の軍服:赤騎士のススメ(押し付け)。性能は良いが、隠密には向かないだろうな……。


『中々、様になっているではないか。どうだ? 今宵、我の伽を務めぬか?』

「いや、遠慮しておく。少々、旅の疲れが溜まっていてな……」

『いい加減にしろルミナス……。五時間後、同じ場所で集合だ。時間厳守で頼む』

「ああ。では、また後で」


 赤騎士の誘いを何とか躱し、金髪騎士と集合の契りを交わした後。

 俺たちは逃げるように、騎士団の駐在所を後にした。


「いやー……。それにしても、中々強烈な団長さんだったね……」

「悪い奴ではなさそうだったがな。それに、実力の程も確かだろう」


 石造りの建物を出ると、夜はすっかり更け、満月がその存在を声高に主張していた。

 しかし、そこかしこで騎士たちが慌ただしく出陣の準備をしている影響で、

 静寂とは少し趣の異なる、夜戦前のような独特の雰囲気を醸し出している。


「今から少し連絡をする。頼むから、黙っていてくれ」


 そんな、何処か見慣れた光景を横目にしながら。

 懐から〖念話〗の魔道具を取り出した俺は、軽く少女へと釘を刺しておく。


「あ、釈明の通話? 頑張ってねー‼」


 正に他人事と言った様子で、そんなことを宣う少女に若干の苛立ちを覚えるが、

 此処で言及した所で何も生まれないので、何とかスルー。

 喉元まで出掛かった苦言を押し留めると、大人しく通話を繋げようとしたのだが――。


「ギーメル、今少し――」

「あ、後で掛け直します‼ 今は、ちょっと……」


 刹那――、弁明の余地なく、秒で切られた。


「ちょ――、おい……」


 確かに先の一幕は、少女を姦しようとしているように聞こえたのかもしれないが……。

 俺たちは、互いのことを知らな過ぎではないだろうか。


「もしかして、フラれちゃったの?」

「ちっ、誰の所為だと思ってやがる……」

「しょうがないなぁ……。今夜はお姉さんが慰めてあげるよ」


 そんな反省の色が微塵も見えない少女の言葉に、心底から辟易としながらも、

 俺たちは宿屋への短い帰路を辿った。





               *





 翌朝――、もとい五時間後。


 宿屋の見張りをしていた騎士と共に、再びの駐在所を訪れた俺たちの眼前では、

 黒衣でその頭部以外を包み隠した、数人の見知らぬ少女たちが屯していた。


『どういうつもりですか、姉様方。作戦など私たちだけで十分です』

『しし、知らない人……。無理、無理無理無理無理です……‼』

『落ち着け、ハイネ・リトラ。団長の命だ。

 少なくとも地下迷宮を踏破するまでは、人員は多い方が良いだろう?』

『ミャーミャー二人共って――、何ニャこの美人さん‼ 団長さんにも負けてないニャ‼』


 俺たちの姿を認識したのか、黒子たちはその視線を寄越すと、姦しい会話を繰り広げる。


 最初の高圧的な声の主は――、初めて見たな、森霊族(エルフ)の娘だろうか。

 氷点下を湛える切れ長の瞳と、平均よりも長い耳、額に沈む美しい宝石が特徴的である。


 二人目の(ども)るような声の主は人族(ヒューマン)だろうが、かなり自分に自信が無いと見える。


 三人目の快活な声の主は――、此方も初見、猫人族(キャット・ピープル)の娘だろうか。

 獣人特有のモフモフとした長耳と尻尾を併せ持つ、実に明るい雰囲気の少女である。


『そんなにジロジロ見られると……、ちょっと、恥ずかしいニャ』

美人()の光に照らされて、根暗()はタダ蒸発して消えるのみ……。ぐふっ……』

『何ですか気持ち悪い。顔が良ければ何をしても良いと思っているなら、大間違いです』


 少しばかり視線を向けていただけなのだが、

 各々の実に面倒な反応を見て、思わず言葉を詰まらせてしまう。


「いや……、そうではないが」

「むっ……、小娘の癖に生意気な!」

『暗部って言っても、唯の寄せ集め集団だからねー。色んな人が居るんだよー』


 亜麻色髪の少女の台詞に「君が言うな」と危うく突っ込み掛けた、その瞬間。

 地面に転がっていた真っ黒な寝袋から、何とも間延びした声が聞こえてきた。


「「――――?」」

『やぁやぁ、ユフィちゃんだよー。よろしくねー』


 その声の主は寝袋のチャックを内側から開封、ニュッとその頭部だけを出すと、

 驚く程に気力の感じられない声音で自己紹介を果たした。


『ユースフィーネ……。いつまでそこに入っているつもりだ?』

『ずっとかな……。実はこの寝袋、歩けるようになったんだよー。凄いでしょー』


 呆れたような金髪騎士の言葉にも動じず、生涯寝袋宣言を発出する黒髪の少女。

 彼女が寝袋の中でもぞもぞと動くと、

 側面に付けられた穴からウィーンと足が四本生えて、何とも奇怪な恰好で歩き出した。


「す、凄い‼ けど、何か気持ち悪いよ‼」

「その、何だ……。個性的で良いじゃないか……」

『う……、済まない。悪い娘らではないのだが……』


 良く言えば個性的、悪く言えば――、いや、止めておこう。

 彼女らも元々孤児であったのだ、過去に色々とあってもおかしくないだろう。

 

 しかし、彼女らと暫く行動を共にするなら、啀み合っていても仕方がない。

 仲間と言う概念は俺も余り得意でないが、此方から歩み寄る必要があるか……。

 こういう時、アインならどうしただろうか。


「気に入らないかもしれないが、少しの間、宜しく頼――」


 未だ此方を睨んだ姿勢のままの森霊族の少女へと向き直り、

 挨拶の言葉と共に手を差し出そうと、一歩足を踏み出した――、その瞬間。


『シッ――‼』


 突如として繰り出される銀色の剣尖が、俺の肩部目掛けて踊り掛かった。

 美しい緑髪を靡かせながら描かれる刃の軌跡は、宛ら妖精の舞踏のようで。

 

『なっ……⁉』


 しかし――、彼女の剣戟は何を断ち切ることもなく、俺の左手の中でピタリと静止した。


「気は済んだか?」


 速度は悪くないが、余りにも馬鹿正直な太刀筋。

 見え見えな軌道を描く可視の刃故、防御力に物を言わせて真剣白刃取りと試みたのだ。

 当然、刃を掴む俺の掌からは大量の血液が滴っている訳だが、

 こういう手合い相手には、彼我の実力差を思い知らせるのが最も効果的である。


「悪いが此方にも目的がある。だが、そちらの作戦とは相反せぬ故、協力し合える筈だ」

『くっ……、認めません……』


 森霊族は非常にプライドが高く、排他的な種族であると聞くからな……。

 部外者である俺たちの存在を受け入れられないのも頷ける話ではある。

 とは言え、此処で大人しく引き下がる訳にもいかないのが現状。

 彼女には悪いが、我慢してもらう他ないだろう。


「シャティーの尻尾、凄いモフモフしてる‼ ユフィも触ってみ‼」

『ユフィはもう、触り飽きたのでいいですー。あ、でも枕としては丁度いいかもー』

『ミャーを玩具にするニャー‼』

  

 掌からひたすら血液が流れるだけの、何とも気まずい状況が続いていると。

 その静寂を破るかのように、少女たちの戯れ合うような声が聞こえてきた。

 見れば、亜麻髪少女と寝袋少女が、猫耳娘を下敷きに遊んでいる様子が視界に入る。

 いつの間に打ち解けたのかは謎であるが、やはり似た者同士は惹かれ合うのだろうか。


『ハイネ、悪いが飲み込んでくれ。全ては女帝陛下を救うためだ』

『はい……。分かりました、姉様』


 その間隙を好機と捉えたのか。

 金髪騎士は森霊族の少女を納得させると、直ぐに陰鬱少女へと視線を移し――。

   

『それからリトラ――、って、また気絶してるのか、お前は……』

『うぇ……、此処は何処? 私は……、唯の蛆虫です、すいませんでした』


 どうやら――、前途は多難なようである。


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