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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第六十話「二丁拳銃」

度々申し訳ないです。

『済まぬな……。一応、何度かノックはしたのだが……』

「あ、ああ、こちらこそ。忙しい中、態々来て貰ったのに申し訳ない」

「あはは……。お見苦しい所をお見せしました……」


 慌てて魔道具の存在を隠蔽し、何とか平静を取り繕った後。

 眼前、木製の椅子へと腰掛けるのは、美しい金髪を後ろに結わえた件の女騎士。

 彼女たちとの別れ際、附近にあったこの宿屋で宿泊することを伝え、

 同伴についての結果が出次第、落ち合う約束をしていたのだが、

 何とも絶妙なタイミングで現れてしまったものである。


『そう言えば、未だ名乗っていなかったな。私の名前は「オリア・ツーヴァイス」。

 無口な相棒の方は「リブラ・レイクハート」という』

「御丁寧にどうも。私の名前は『ザイン・ウィンクルム』。で、此方の少女が――」

「ボクは『ジェミニ・フェアトリーベ』だよ‼ よろしくね‼」


 先程までの鎧姿とは打って変わり、清楚なチュニックに身を包む金髪の女騎士は、 

 その豊かな双丘の上で両手を組むと、軽く自己紹介を行ってきた。

 当然、俺たちも名乗り返すことになる訳なのだが、

 此処ではギルド証と同じ名前を言っておくのが吉であろう。


『ああ、よろしく。――ところで、早速本題に入らせてもらうが……。

 一度、団長の奴と面会して貰えないだろうか』

「騎士団長様と、か……?」

『ああ。丁度、貴公らに任せたい役目があるのだが……。

 重要な役回りである故、実際に見ないことには何とも、とのお達しでな』


 成程……、騎士団長との面会か。

 俺たちの実力を見極めておきたいと言うのは当然の理屈であるし、

 その可能性は高いだろうと予測していたが。


「勿論、構わないさ」

『では行こう。明日の――、いや、今日の出立まで、余り時間は残されていないからな』

「騎士団長様って、どんな人なのかな⁉」


 そうと決まれば、行動は早い。

 俺たちは即座に席を立つと、団長が駐在しているという建物へ向けて歩を進め始めた。


 しかし、あの「ダレット」が認める帝国騎士団のトップともなると、

 どのような傑物が待ち受けていることだろうか。

 よもや一戦交えることにはならないだろうが、油断せずに対面する必要があるな。


『そのだな……、済まない。先に謝っておこう』


 そんな思考の元、強く気を引き締め直していると。

 実に申し訳なさそうに紡がれる謝罪の声が、俺たちの耳を軽く叩いた。





             *





『御機嫌麗しゅう。艶かしくも奥ゆかしい、全美なる姫君たちよ。

 満点の星々が煌めく寒空の下、我と一夜の過ちを犯さないか?』


 歯の浮くような台詞と共に、恭しく跪いて豪奢な花束を掲げる一人の騎士。

 俺の付け焼き刃など話にならない程に洗練された、所謂〝本物〟の貴族的所作は、

 しかし、一庶民に対しても嫌味な印象を与えない、実に雅な様相を呈していた。

 それは専らこの騎士の内面に、一切の打算という邪念が存在しないからであろう。


 そして、そんな生物としての格の違いを見せ付けてくる騎士団長様の容貌は、

 燃え盛るような真紅の頭髪に、同じく情熱を宿す紅電気石色(ルベライト)の双眸。

 世界から愛されているとしか形容しようのない程に均整の取れた顔立ちと、

 首元から爪先までスラっと伸びる肢体を、紅の軍服へと包み込むその姿は正に、

 支配者の鑑であると、そう称すべき圧倒的なカリスマを感じさせる風体であった。


 とまあ、此処まで長くなったので簡潔に纏めると、

 俺たちは現在、イケメン騎士団長様から絶賛求愛を受けている最中である。


『そう硬くなるでない。そなたらは唯、その身を我に委ねておけば良いのだ』


 思わず現実逃避気味の思考を巡らせてしまう程、有無を言わせぬ寵愛に満ちた空間。

 全く以って不快感を覚えないのが不思議であるが、得も言えぬ居心地の悪さは拭えない。


「その……、気持ちは嬉しいのだが、今は――」


 このままでは本気でベッドへと連行されかねない雰囲気が漂っているので、

 一先ず波風を立てないよう、丁重に断りの言葉を紡ごうとする。

 

 が――、しかし。


 目の前で跪く赤騎士は、俺の言葉を「なに、遠慮するでない」という謎の曲解で遮ると、

 徐に俺の右手を優しく拘束、その美しい(かんばせ)を近付け――。


「――――⁉」

 

 愛でるように、だがしっかりと、手の甲へと口付けを施した。


窈窕(ようちょう)たる淑女は君主の好逑。

 開花した雌花も、未熟な果実も、分け隔てなく愛してみせようぞ』

『止めろルミナス、彼女たちが困惑しているだろう。それに二人は相思相愛なのだぞ』

『成程……。つまりは百合の花が咲き乱れる、純粋と無垢に満ちた白景色と言った所か。

 では、我という不純物が割って入らんとするのは、世の理に反する行為であるな』


 突然の出来事に一瞬放心してしまったが、女騎士の制止によってようやく我に返る。

 それにしても求愛……、を諦めてくれたのだろうか。

 一々回りくどい表現の所為で理解するまでに時間を要したが、

 赤騎士がその手を引き、椅子へと座り直した所で、思わず安堵のため息を吐く。


 いや待て――、金髪の騎士は、今何と言っていた?


「ちょっと待ってくれ、それは誤解だ」

「お姉さん。あのイケメン団長さんの言ってることが、全然分かんないんだけど……」

『む……、そうなのか? 寝具の上であれほど乱れていたのだ。私はてっきり……』

『ふふ……、何も恥ずかしがることはない。

 我らが帝国において女子(おなご)同士の濡事など、何ら珍しいものでもないのだからな』

『提案。与太話はこのくらいにして、本題に入られては如何でしょうか』


 初対面にして此処まで拗れるかという程、歪曲に歪曲を重ねた会議の場。

 その中で現状唯一の良心とも呼べる、銀髪の騎士の出した助け舟へと掴まり、

 俺は一先ず混沌からの脱出を試みる。


「はぁ……。ところで私たちに任せたい役目というのは、一体どのようなものなのだ?」

『ふむ……、仕方あるまい。然すれば本題に移るとしよう。と、その前に一つ――』


 何とか交渉を始めようとする俺の言葉に、赤騎士は仕方なくと言った様子で首肯。

 そしてその後、腰周りに装着していた真紅のホルスターへと両手を伸ばすと、

 二丁の拳銃(ハンドガン)と思われる武器にその手を掛け――。


『ドンドンッ――‼』


 俺と少女、それぞれの鼻先目掛けて――、二対の弾丸を解き放った。


「「――――⁉」」


 一瞬何が起こったのか理解出来ない程の、正真正銘、目にも止まらぬ早撃ち。

 唐突で、尚且つかなりの至近距離から繰り出される必定の銃撃は、

 しかし、赤騎士のホルスターへと手を掛ける動作が、非常に緩慢であったこと。

 俺がこの空間において、最大限の注意を払っていたことなどが功を奏して、

 頭部を僅かに右へとずらすことに成功、間一髪の所での回避を果たした。


『成程、今のを往なすか……。オリア、君の見立ては間違っていなかったようだ』

『手荒な真似はするなと言った筈だぞ。済まない二人共、ケガはないか?』


 恐らく俺たちの実力を図るため、偽の弾丸でテストを行ったのだろう。

 背後から一切の破砕音が聞こえてこないのが、その証拠である。

 色々と言いたいことは有るが、一先ず騎士団の側に敵対する意思が無いことを確認。

 極度に高まった緊張感も相俟って、思わず胸を撫で下ろしていると。


「危ないじゃんか‼ ボクの御尊顔が傷付いたら、どう責任取ってくれるのさ⁉」

『ほぉ……、我を前にして随分と大きく出たな。だがその自己愛、嫌いではないぞ。

 もし、そうなった暁には、我が伴侶として迎え入れる準備をしてやろう』

「あ、ダメだ。この人には勝てないや」


 俺の左手、揺るがない赤騎士の在り方に敗北宣言を唱える少女の方はと言うと、

 器用にも風魔法によって弾丸を受け流すことで、事なきを得ていたようである。


 しかし、もしこれが実弾で、且つ少女の風魔法が間に合っていなければ……。

 いや、違う。赤騎士が俺たちを本気で殺めようとしていたならば。

 想像するだけで恐ろしい仮定の結末は、己が実力不足を思い知らせてくる。


『申し遅れたな。我は〝二丁拳銃(デュアル・ウィルダー)〟「ルミナス・シルトフィリア」。

 ヴァロワール帝国騎士団〝心盾騎士団〟の団長を務めている』


 流れるような仕草で、二丁の拳銃をホルスターへと仕舞いながら。

 絢爛な椅子が霞んで見える程、実に優美な立ち居振る舞いを見せる赤騎士は、

 聞いてもいない二つ名と共に、自身の素性を明かすと、尚も続けて――。


『して、そなたらの役目……、であったな。

 ダレット――。いや、女帝陛下の救出作戦に協力して貰うぞ』


 僅か――、傍目には分からぬ程ほんの僅か、その表情を怒りに歪ませると、

 有無を言わせぬ口調で、俺たちに向けてそう言い放った。


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