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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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★第四十九話「帝国入場」(改変前)

 少女が去って間もなく。

 人気のない路地の一角、俺はとある事案に頭を悩ませていた。


(どうするか……)


 悩みの種は少女が忘れていった――、研究者ギルドの証。

 発見直後、辺りを捜索したのだが、既に少女の姿は見当たらなかった。


 このまま放っておいても、少女が気付いて戻ってくる可能性は高い。

 故に只、放置しておけば良いだけの案件ではあるのだが……。

 正直な所、持っておきたいというのも事実である。


 と言うのも、帝国内の大都市へと入場する際、

 性別を偽ることが出来るギルド証は、どうしても必要となる。

 故に、道中適当な旅人から掏る予定であったのだが、

 予め持っておければ、後顧の憂いを断つことが出来る。


 幼少時代は窃盗など、日常茶飯事であったのだ。

 今更、躊躇する必要など無い筈なのだが……。

 幼気な少女の所有物を奪うのは、如何せん気が引けるというものである。


 そんな善悪の板挟みになりながらも、

 一度、情報を確認しておくべきと判断した俺は、

 ギルド証に嵌め込まれた魔晶石へと軽く魔力を込める。


 すると――。


 魔力と呼応するように顕現する、一筋の蒼い光。

 それは、金属板の上をゆったりと揺蕩(たゆた)うと、淡く光る文字列を刻んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

【所属】研究者ギルド

【名称】ザイン・ウィンクルム

【性別】女性

【種族】人族

【等級】C

【年齢】17

【日数】612

ーーーーーーーーーーーーーーーー


 金属製の薄板に映し出される、少女の個人情報。

 受注依頼(クエスト)やその履歴等を確認するには、ギルドの魔道具を介す必要があるが、

 最低限の基礎情報だけは、魔晶石に魔力を込めることで閲覧することが出来る。


 特段目を見張るものは無い……、と思いきや、一つ気になる項目がある。


【年齢】17


(17……?)


 推測よりも高い年齢に、思わず二度見してしまう。

 が、何度見ようとも、映し出されている内容が変化することはない。


(詐称か……? それとも……)


 少女の容姿は、低く見積もって12、高く見積もって15といった所であった。

 成長速度に関しては人それぞれとはいえ、少し不自然な数字ではある。


 因みに、ギルド証における基礎情報の登録は、

 殆どの項目が申告制であるため、詐称をすること自体は容易である。

 しかし、そのメリットとデメリットの大小故に、行われることは稀であるのだ。


 斯く言う俺も以前【性別】女性のギルド証を発行したことがある。

 しかし、使用する際に一々変装をしなければならないこと、

 万が一発覚した時に、かなりのペナルティを負わされることなど、

 不都合な点が多かったため、此処数年は一切使用していない。

 そして、ギルド証は三年以上の活動が無いと失効する仕組みとなっているので、

 現在は使用不可の状態となっているという訳である。


 一応、もう一度作り直すという手もあるにはあるが、

 発行してからの日数が浅いと、無用な嫌疑を掛けられる要因となり得る。

 故に手っ取り早く済む、窃盗という手段を取ろうとしているのだが……。


 まあ、それは兎も角。


 少女の年齢の真偽の程は分からないが、俺にとっては好都合である。

 余り低い年齢では、使用する際に怪しまれてしまうからな……。

 17歳であれば、問題なく(まか)り通るだろう。


 そういう訳で、少女には申し訳ないが、助けた礼として貰っておくことを選択。

 研究者ギルドの証といってもランクはC。

 難易度の高くない試験を突破するだけの、容易な作業である。

 故に再発行後、元のランクへと戻るのにそう時間は掛からないだろう。


 そんな言い訳染みた思考と共に、少女のギルド証を懐へと仕舞った俺は、

 予備の外套をその身に纏うと、足早に薄暗い路地を抜けていった。





               *





 太陽が頂点へと差し掛かった頃。

 予定通り『砂蜥蜴(サンドリザード)』を購入した俺は、国境附近を疾駆していた。


 目下の景色は未だ平原、然れど、視線を少し遠くへと向ければ、

 無限とも言える広大な砂の海が広がっている。

 正しく境界線と言うべき、絶妙なコントラストを織り成す風景。

 今後の砂漠の旅を思うと、少し気が滅入りそうになるが、

 今この瞬間だけは、自然特有の不思議な光景を目に焼き付けておいた。


(あれは……)


 しかし、そんな現実逃避も長くは続かない。


『砂蜥蜴』の背部が隆起している影響で、臀部に痛みを感じ始めた頃、

 砂漠の方角から急速に接近してくる、二つの影を視界に捉えた。


『止まれ――‼』


 二つの影は颯爽と俺の眼前に躍り出ると、威圧するように言い放つ。


 一人は、金髪碧眼の長身美女。

 一人は、銀髪紅眼の短身美女。

 双方が煌びやかな鎧に身を包んでおり、腰には業物と思われる刀が吊るされている。


 間違いなく――、帝国騎士団所属の国境警備隊だろう。


『フードを外して顔を見せろ。それと用件は?』


 金髪の女騎士が、有無を言わせぬ様子で命を下してくる。

 切れ長の瞳から放たれる眼光は鋭く、逆らうことは許されない。

 美と恐怖は、時に表裏一体であると、そんな感想を抱かせる風貌であった。


「旅をしている。美しきオアシスを一度、この目で見ておきたいと思ったのでな」


 蜥蜴から下乗し、フードを外した俺は、事前に考えてあった適当な口上を述べる。

 当たり障りの無い、凡庸な動機。

 多少怪しいかもしれないが、嘘だと言及出来る要素は何一つないだろう。


『そうか――。リブラ、アレを』


 口上を最後まで聞き届けた金髪の女は、銀髪の女へと視線を向けると、一言。

『リブラ』と呼ばれた女騎士は、感情の伴わない瞳で此方を見据えると、

 懐から取り出した純白の魔道具を、俺の眼前へと翳してきた。


 と、同時。

『キュイン』という音を立てて、翠色に光り出す球体の魔道具。

 これは確か、スキル「技能検知」を模倣した魔道具だと記憶している。


 スキル「技能検知」は、対象者が何らかの能動(アクティブ)スキルを発動している場合、

 それを看破することが出来るという能力である。

 しかし、スキルの詳細までは読み取ることが出来ない上、

(ゴールド)】以上のスキルには通用しないという微妙な性能から、

 全く以って使えない、ハズレスキルとして認識されているのだ。


 しかし、こと検問においては例外である。

〖変身〗を始めとして、銀以下の幻惑系スキルを看破出来る能力は、

 男子禁制政策を敷く帝国において、かなり重宝されている。

 何事も、適材適所ということなのだろう。


『異常なし。オールクリアです』


 魔道具が翠色を示したことを確認した銀髪の女は、

 俺の眼前から手を引くと、淡々とした様子で報告を入れる。   

 魔道具が別の色を示していた場合、俺は今頃捕縛の対象となっていたことだろう。


『疑って済まなかったな――、これが帝国の仕来りなんだ』


 報告を受けた金髪の女は、若干ながら表情を緩めると、軽く謝罪。

 そしてやれやれといった様子で、

 長く切り揃えられた頭髪を搔き上げると、尚も続けて忠告の言葉を口にする。


『観光するなら気を付けろ。今、帝都は少しばかり荒れているらしい』


 それにしても、帝都が荒れている……か。

 話に聞いていた増税の件も、その一環として考えて良さそうだ。

 しかし「らしい」と少し曖昧なのは、国境附近で長く駐屯している関係上、

 帝都の情報が断片的にしか伝えられていないからだろうか。

 

「その原因について、聞いても良いか?」

『――現女帝陛下の排斥派と擁護派、その対立が激化していてな……。

 詳細については話せないが、陛下を介さずに政策を推し進める連中も居るくらいだ』


 少し踏み込んだ質問に、言葉を選びながらも対応する金髪の女騎士。

 要するに、現在の帝国は内乱一歩手前の状況にあるということだろう。


 現ヴァロワール女帝は、外様の君主。

 故に、色々と反発が起きるのも頷ける話ではある。

 所持している権限も世襲制の君主と比べて小さく、

 好き勝手な政治を行うことは出来ないような仕組みとなっているのだ。

 しかし、彼女の存在を無視して政策を進めるとは、

 何とも命知らずであると、そう思わざるを得ないのだが……。

  

「十分だ――。礼を言う」

『ああ――。貴公も用心しろよ』

『…………』


 あまり追求すると、怪しまれる要因となり得る。

 故に早々に話を切り上げた俺は、二人の女騎士を見据えて謝礼。

 そのまま蜥蜴に騎乗すると、砂漠の方角へと再びの疾駆を始めた。


 銀髪の女騎士は終始殆ど喋らなかったが、

 最後には何処か値踏みするような視線で、此方を注視していた。





              *





 燦々照らす太陽は沈み、夜の帳が下り切った頃。

 地面は褐色に染まり、あと少し歩けば砂の海へと差し掛かるという場所。


 帝国領への入場を果たした俺は、狭いテントの中で一人休息を取っていた。

 テントの色は無色透明。

 外側から丸見えの構図は、何ともバカみたいな様相を呈しているが、

 これが最も安全なのだから致し方ない。


 女の族も存在しない訳ではないし、

 砂漠においては、砂中からの魔物の出現にも気を張らなければならないのだ。

 特に今回の場合、見張りを任せられる相棒の存在はない。

 故に上下左右360度、常に視界を確保出来る環境が必要なのである。


(そういえば……)


 それはそうと、俺は唐突に一つの事柄を思い出す。

 疲労の所為で忘れ掛けていたが、ギーメルとの定時連絡が未だであった。

 俺は懐から〖念話〗の魔道具を取り出すと、魔力を込めて起動。

 暫しの待機後、その送話口部分に声を吹き込もうとし――。


「今、大丈――」

「どうして、出て下さらなかったのですか……?」


 怒り3割、哀しみ7割で紡がれる、ギーメルの声によって遮られた。


「聞いてますか……?」


 尚も続けて発せられる、ギーメルの悲し気な声。

 恐らくリヴァリエ出立後、何度か連絡を入れていたのだろう。


 アインにも報告・連絡についての怠慢は、何度か指摘されたことがあったが、

 どうにもそういった事柄は、後回しにしてしまうきらいがある。

 孰れは改善しなければならないと、そんな決意を抱きつつ――。


「済まなかった」


 100%俺が悪いので、一先ず謝罪の言葉を口にする。

 一応、余裕が無かったと言い訳をすることは出来る。

 しかし、連絡をする時間が一切取れなかった訳ではないし、

 曖昧に誤魔化してしまうのも聊か不誠実であると、憚られたのだ。


「むー……。素直に謝られると、怒るに怒れないではないですか……」


 魔道具越しでも分かる、むくれたような様子でそう言うギーメル。

 度々心労を掛けている件については申し訳ないと思うが、

 お前は俺の世話係か何かなのだろうか……。


 まあ、それはさておき。


「アインはもう出発したのか?」


 少しばかり気になっていた、相棒の所在について聞いておく。


「昨日立たれましたよ。アイン様はその日の夜に連絡を下さったというのに……」

「行き先については?」

「野暮用が有るとしか……。転移結晶を使っていたので、何処か遠くだと思いますが」

「そうか……」


 尚も連絡不十分を言及してきそうなギーメルを躱すと、続けて質問。

 アインはこれまでも度々、書き置きと共に居なくなっては、

 数日帰ってこないことがあったが、今回もその延長と考えて良いものか。


 しかし、転移結晶の使用……か。

 一体何処へ向かったというのだろうか……。

 

「アレフ様は『昔の女に会いに行く』んでしたっけ……?」

「――もう少し、言い方があるだろ……」


 暫し思考に耽っていると、ギーメルから不意打ちのように言葉を貰う。

 そのもの言いは、何処か棘を内包しているようにも感じられた。


「会って少し会話を交わすだけだ――、恐らく……」


 自分でも言っていて、そうはならないだろうと確信する。

 聞きたいことだけ聞き出して、別れの言葉。

 そんな都合良く事が運ぶほど、甘い相手ではないのは確実だろう。

 それに、魔術師の予言の件もある。


「そういえば、戦乙女様とはどのような経緯でお知り合いに?」

「聞いても別に面白いものじゃないが……?」

「いいえ、構いません。これで手打ちにして差し上げます」


 俺の煮え切らない言葉を聞いたギーメルは、

 先程の連絡の一件を引き合いに出すと、女帝との関係について問い掛けてくる。

 確かに相手が相手だけに、疑問に思う気持ちも理解できるが……。


 不名誉と言えば不名誉な思い出だが、どうしても話したくないという程でもない。

 俺はギーメルの要望通り、脳裏に焼き付いている鮮烈な思い出を語り始めた。




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