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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第四十九話「帝国入場」

「ボクのギルド証、貸してあげようか?」


 少女は二枚の小さい木版を取り出すと、片方を此方へと差し出してきた。

 三つの魔晶石が埋め込まれたそれは、ギルドの所属証明証である。


「帝国に行くんだったら、女性名義のギルド証が必要でしょ?

 それとも、既に持ってたりする?」

「いや、未だ持ってないが」


 少女の言う通り、帝国内の大都市へと入場する際の通行証として、

 性別を偽ることが出来るギルド証は、どうしても必要となってくる。

 故に、道中適当な旅人から掏る予定であったのだが、

 予め持っておければ、後顧の憂いを断つことが出来る。


「それにしても、何でお前が二枚も持ってるんだ?」

「お兄さん、もしかして残念な人……? 詮索禁止って、もう忘れたの?」


 俺の問い掛けを受けた少女は、得も言われぬ憐憫の眼差しで此方を見詰めてくる。 

 何とも腹立たしい反応ではあるが、此処で噛み付いていても話は先に進まない。


「別に詮索したい訳じゃない。二枚あっても、名義が同じだったら意味無いだろ?」

「何だ、それなら心配要らないよ。別々の名義で登録してあるからさ」


 余談であるが、ギルド証には七項目の基礎情報が刻まれており、

 冒険者なら青、傭兵なら赤、研究者なら緑、

 対応した魔晶石へと魔力を込めることで、その閲覧が可能となっている。


「なら良いが。お前はどのギルドに属してるんだ?」

「一応、全部登録してるよ。でも、研究者が一番長いかな」


 少女の返答を受けた俺は、緑色の魔晶石へと手を翳すと、少量の魔力を解き放つ。


 すると――。


 魔力と呼応するように顕現する、一筋の緑光。

 それは、木版の上をゆったりと揺蕩うと、淡く光る文字列を刻んでいった。


――――――――――――――

【所属】研究者ギルド

【名称】ザイン・ウィンクルム

【性別】女性

【種族】人族

【等級】C

【年齢】17

【日数】612

――――――――――――――


 木製の薄板へと映し出される、少女の個人情報。

 特段目を見張るものは無い……、と思いきや、一つ気になる項目がある。 


【年齢】17


「お前、17って……」

「何よ、見えないって言うの? 女装趣味のお兄さんに、兎や角言われたくないし」

「未だ、何も言ってないんだが……」


 俺の訝しむような視線に、憤りを見せる自称十七歳の少女(暫定)。

 その矮躯も然ることながら、幼さの抜け切っていない容貌は、

 高く見積もっても15が限界であると、そう確信出来るものである。


「何故、態々見栄を張ったんだ?」

「むっ……、張ってないし‼ 

 ボクの大人の魅力を理解出来ないのは、お兄さんが子供過ぎる所為だよ‼」


 つい口を衝いて出た言葉に、少女(推定)は早口で捲くし立ててくる。


 因みに基礎情報の内【名称・性別・種族・年齢】の登録は全て申告制であるため、

 幾らでも詐称可能な代物となっている。

 斯く言う俺も一度だけ、女性名義でギルド証を発行したことがあるが、

 長らく更新をしていなかった所為で、既に失効してしまっている。


「はいはい、俺が悪かったよ……」

「分かればよろしい。それで、交渉成立ってことで良いんだよね?」


 少女(決定)の戯言に、これ以上付き合っていても埒が明かない。

 俺は適当に謝罪の言葉を紡ぐと、損得勘定にその思考をシフトさせる。


 真偽の程は定かでないが、17歳女性という設定は、今の外見にピッタリ当てはまる。

 故にこのギルド証、欲しくないと言えば嘘になるのだが――。


「断らせてもらう。デカい荷物を抱えるほどの、メリットだとは思えないからな」

「に、荷物って……」


 俺の返す断りの言葉に、戦々と震えながら怒りを表現する、亜麻色髪の少女。


 戦闘面で期待の出来ない+信頼の置けない少女を連れて砂漠を横断すること。

 それにはかなりのリスクが伴うし、何よりその見返りが小さ過ぎる。

 ギルド証に関しては当初の予定通り、適当な旅人から掏れば良い話なのだから。


「じゃあ、何で見たのさ‼ もう良いよ‼ 此処に女装――」


 暴発――。『荷物』と言ったのが、逆鱗に触れたのだろうか。

 少女は何処に隠し持っていたのか、本物の拡声器を取り出すと、

 口元へと当てて大きく息を吸い込む。


「バカ、止めろ!」


 このまま叫ばれるのは、非常にマズい。

 俺は瞬時に少女へと肉迫――、持っていた拡声器を奪い取ると、

 懐から取り出した手巾で彼女の口を塞ぎ、その叫声を抑制した。


「もごもがっ……、ぷはっ⁉ 離してよー‼」


 思いの外、強い(ステイタス)で抵抗を見せてくる少女。

 傍から見れば、先の暴漢の一幕と然して変わらない光景に映るだろうが、

 今はそんなことを気にしている場合ではない。


「叫ぼうとするのを止めろ。でないと、本気で意識を刈り取るぞ」

「もごっ……、別にいいもん。帝国に……入ってから、袋の鼠に……なればいいさ」


 俺の腕へと爪を立て、手巾が外れた隙に言葉を刻む、半狂乱の少女。


 少女を振り切るor意識を刈り取っての逃亡。

 その線について考えていたが、確かに身体的特徴を把握されている以上、

 後の摘発であったとしても、今後の俺の行動を大きく縛る要因となり得る。

 

「クソっ、分かった。連れて行ってやるよ。それで良いだろ?」

「うん……。てか……、早く離して……。死ぬ……」


 不毛な争いを続けること約一分。

 尚も屈しない少女に根負け、ついに諦めの境地へと到達する。


 俺は手巾を少女の口元から外すと、やや気力を失った彼女の身体を解放。

 晴れて自由となった少女は、今にも泣き出しそうな顔で俺を睨むと――。

 

「ボクを窒息死させる気なの⁉ ボクの損失は、世界の損失だよ‼」

「言ってろ、マセガキ。自業自得だろ」

「あー‼ ガキって言った、ガキって‼ ガキって言う方がガキなんだよ‼」


 随分と高慢な理論を並べ立て、都合四回の自己紹介を果たした。

 こうして17歳の少女(?)と旅路を共にすることになった訳だが……。


 運命とは実に数奇なものである。





               *





 太陽が頂点へと差し掛かった頃。

 二頭の『砂蜥蜴』を購入した俺たちは、国境附近を疾駆していた。


「見えてきたよ、砂漠‼」

「ああ、分かってる」


 目下の景色は未だ平原、然れど、視線を少し遠くへと向ければ、

 無限とも言える広大な砂の海が広がっている。

 正しく境界線と言うべき、絶妙なコントラストを織り成す風景。

 今後の砂漠の旅を思うと、少し気が滅入りそうになるが、

 今この瞬間だけは、自然特有の不思議な光景を目に焼き付けて――。


「ボク、お尻痛くなってきたんだけど」

「静かにしてくれ……、今風情を楽しんでるだろうが」


 空気を読まずにそんなことを宣う、赤いターバンの少女によって遮られた。

 少女の装いは、先程までの紫紺のドレスとは少し趣が異なり、

 対砂漠用、寒色系統のマントと赤いターバンというスタイルに召し替えている。 

 一見手ぶらにしか見えない少女であったが、辛うじて金貨袋だけは持っていたようで、

 フロンティア内のブティックにて熟考、購入した格式高い品々である。


「あれって……」


 そんな、益体の無いことを考えていると。

 砂漠の方角から急速に接近してくる、二つの影を視界に捉えた。


『止まれ――‼』


 二つの影は颯爽と俺たちの眼前に躍り出ると、威圧するように言い放つ。


 一人は、金髪碧眼の長身美女。

 一人は、銀髪紅眼の短身美女。

 双方が煌びやかな鎧に身を包んでおり、腰には業物と思われる刀が吊るされている。


 間違いなく――、帝国騎士団所属の国境警備隊だろう。


『そこのお前、フードを外して顔を見せろ。それと用件は?』


 金髪の女騎士が、有無を言わせぬ様子で命を下してくる。

 切れ長の瞳から放たれる眼光は鋭く、逆らうことは許されない。

 美と恐怖は、時に表裏一体であると、そんな感想を抱かせる風貌であった。


「旅をしている。美しきオアシスを一度、この目で見ておきたいと思ったのでな」

「ボクはこのお姉さんの仲間だよー」


 蜥蜴から下乗し、フードを外した俺は、事前に考えてあった適当な口上を述べる。

 当たり障りの無い、凡庸な動機。

 多少怪しいかもしれないが、嘘だと言及出来る要素は何一つないだろう。

 それに幼く見える少女の存在が、口上の信憑性を高めている。


『そうか――。リブラ、アレを』


 口上を最後まで聞き届けた金髪の女は、銀髪の女へと視線を向けると、一言。

『リブラ』と呼ばれた女騎士は、感情の伴わない瞳で此方を見据えると、

 懐から取り出した純白の魔道具を、俺たちの眼前へと翳してきた。


 と、同時。

『キュイン』という音を立てて、翠色に光り出す球体の魔道具。

 これは確か、スキル「技能検知」を模倣した魔道具だと記憶している。


 スキル「技能検知」は、対象者が何らかの能動(アクティブ)スキルを発動している場合、

 それを看破することが出来るという能力である。

 しかし、スキルの詳細までは読み取ることが出来ない上、

【金】以上のスキルには通用しないという微妙な性能から、

 全く以って使えない、ハズレスキルとして認識されているのだ。


 しかし、こと検問においては例外である。

〖変身〗を始めとして、銀以下の幻惑系スキルを看破出来る能力は、

 男子禁制政策を敷く帝国において、かなり重宝されている。

 何事も、適材適所ということなのだろう。


『正常。異常なし。オールクリアです』


 魔道具が翠色を示したことを確認した銀髪の女は、

 俺たちの眼前から手を引くと、淡々とした様子で報告を入れる。   

 魔道具が別の色を示していた場合、

 俺たち二人は今頃捕縛の対象となっていたことだろう。


『疑って済まなかったな――、これが帝国の仕来りなんだ』


 報告を受けた金髪の女は、若干ながら表情を緩めると、軽く謝罪。

 そしてやれやれといった様子で、

 長く切り揃えられた頭髪を搔き上げると、尚も続けて忠告の言葉を口にする。


『二人共、観光するなら気を付けろ。今、帝都は少しばかり荒れているらしい』


 それにしても、帝都が荒れている……か。

 話に聞いていた増税の件も、その一環として考えて良さそうだ。

 しかし「らしい」と少し曖昧なのは、国境附近で長く駐屯している関係上、

 帝都の情報が断片的にしか伝えられていないからだろうか。


「その原因について、聞いても良いか?」

「ボクも気にな――、うぐっ……」

「君は少し、黙っていてくれ……」


『――現女帝陛下の排斥派と容認派、その対立が激化していてな……。

 詳細については話せないが、陛下を介さずに政策を推し進める連中も居るくらいだ』


 話をややこしくしかねない少女の口を、栄養剤で封じ込め。

 そんな俺たちの様子を、微笑ましく眺めていた金髪の女騎士は、

 少し踏み込んだ質問に、言葉を選びながらも対応してくれた。


 要するに、現在の帝国は内乱一歩手前の状況にあるということだろう。

 現ヴァロワール女帝は、外様の君主。

 故に、色々と反発が起きるのも頷ける話ではある。

 所持している権限も世襲制の君主と比べて小さく、

 好き勝手な政治を行うことは、出来ないような仕組みとなっているのだ。

 しかし、彼女の存在を無視して政策を進めるとは、

 何とも命知らずであると、そう思わざるを得ないのだが……。


「あ、意外と美味しい。こういうのは大体、マズいのが相場って決まってるのに」

「栄養剤にしては、少し値が張ったからな」


 真面目な思考を巡らせている時に、此奴の言葉を聞くと集中力を削がれる。

 まあ、これ以上考えても仕方がないので、丁度良かったと言えばそうなのだが。

 

「十分だ――。礼を言う」

「二人共、パトロール頑張ってねー‼」

『ああ――。貴公らも用心しろよ』

『…………』


 あまり追求すると、怪しまれる要因となり得る。

 故に早々に話を切り上げた俺たちは、二人の女騎士を見据えて謝礼。

 そのまま蜥蜴に騎乗すると、砂漠の方角へと再びの疾駆を始めた。


 銀髪の女騎士は終始殆ど喋らなかったが、

 一瞬だけその視線を少女へと向けると、直ぐに移行。

 最後には何処か値踏みするような視線で、俺を注視していた。





              *





 燦々照らす太陽は沈み、夜の帳が下り切った頃。

 地面は褐色に染まり、あと少し歩けば砂の海へと差し掛かるという場所。

 帝国領への入場を果たした俺たちは、狭いテントの中で休息を取っていた。


「何このテント……。お兄さんって、やっぱりそういう……」

「文句があるなら出ていけ」


 テントの中央部を我が物顔で陣取りながら、そう言い放つ亜麻色の髪の少女。


 因みにテントの色は無色透明。

 外側から丸見えの構図は、確かにバカみたいな様相を呈しているが、

 これが最も安全なのだから致し方ない。


 女の族も存在しない訳ではないし、

 砂漠においては、砂中からの魔物の出現にも気を張らなければならないのだ。

 故に上下左右360度、常に視界を確保出来る環境が必要なのである。


(そういえば……)


 それはそうと、俺は唐突に一つの事柄を思い出す。

 疲労の所為で忘れ掛けていたが、ギーメルとの定時連絡が未だであった。


「悪いが、一旦席を外してくれ」 

「何で⁉ 文句言ってないのに‼」

「今、言っただろ。ほら、出ていけ、早く」


 リラックスした様子で寛ぐ少女を地面から引っぺがすと、そのまま外へと摘まみ出す。

 仮にも一国の最高権力者との会話を、無暗矢鱈と他人に聞かせるべきではないし、

 そもそも聞かせる意味が全く以って存在しない。

 外から薄っすらと「変態」だの「鬼畜」だの抗議の声が聞こえるが、無視である。


 俺は懐から〖念話〗の魔道具を取り出すと、魔力を込めて起動。

 暫しの待機後、その送話口部分に声を吹き込もうとし――。


「今、大丈――」

「どうして、出て下さらなかったのですか……?」


 怒り3割、哀しみ7割で紡がれる、ギーメルの声によって遮られた。


「聞いてますか……?」


 尚も続けて発せられる、ギーメルの悲し気な声。

 恐らくリヴァリエ出立後、何度か連絡を入れていたのだろう。


 アインにも報告・連絡についての怠慢は、何度か指摘されたことがあったが、

 どうにもそういった事柄は、後回しにしてしまうきらいがある。

 孰れは改善しなければならないと、そんな決意を抱きつつ――。


「済まなかった」


 100%俺が悪いので、一先ず謝罪の言葉を口にする。

 一応、余裕が無かったと言い訳をすることは出来る。

 しかし、連絡をする時間が一切取れなかった訳ではないし、

 曖昧に誤魔化してしまうのも聊か不誠実であると、憚られたのだ。


「むー……。素直に謝られると、怒るに怒れないではないですか……」


 魔道具越しでも分かる、むくれたような様子でそう言うギーメル。

 度々心労を掛けている件については申し訳ないと思うが、

 お前は俺の世話係か何かなのだろうか……。


 まあ、それはさておき。


「アインはもう出発したのか?」


 少しばかり気になっていた、相棒の所在について聞いておく。


「昨日立たれましたよ。アイン様はその日の夜に連絡を下さったというのに……」

「行き先については?」

「野暮用が有るとしか……。転移結晶を使っていたので、何処か遠くだと思いますが」

「そうか……」


 尚も連絡不十分を言及してきそうなギーメルを躱すと、続けて質問。

 アインはこれまでも度々、書き置きと共に居なくなっては、

 数日帰ってこないことがあったが、今回もその延長と考えて良いものか。


 しかし、転移結晶の使用……か。

 一体何処へ向かったというのだろうか……。

 

「アレフ様は『昔の女に会いに行く』んでしたっけ……?」

「――もう少し、言い方があるだろ……」


 暫し思考に耽っていると、ギーメルから不意打ちのように言葉を貰う。

 そのもの言いは、何処か棘を内包しているようにも感じられた。


「会って少し会話を交わすだけだ――、恐らく……」


 自分でも言っていて、そうはならないだろうと確信する。

 聞きたいことだけ聞き出して、別れの言葉。

 そんな都合良く事が運ぶほど、甘い相手ではないのは確実だろう。

 それに、魔術師の予言の件もある。


「そういえば、戦乙女様とはどのような経緯でお知り合いに?」

「聞いても別に面白いものじゃないが……?」

「いいえ、構いません。これで手打ちにして差し上げます」


 俺の煮え切らない言葉を聞いたギーメルは、

 先程の連絡の一件を引き合いに出すと、女帝との関係について問い掛けてくる。

 確かに相手が相手だけに、疑問に思う気持ちも理解できるが……。


 不名誉と言えば不名誉な思い出だが、どうしても話したくないという程でもない。

 俺はギーメルの要望通り、脳裏に焼き付いている鮮烈な思い出を語り始めた。


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