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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第三章:蒼紅少女篇
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第四十六話「久方振りの一人旅」

 王都「レヴィアルス」―― とある武具屋。


『よお、小僧。やっと目覚めたのか』


 くぐもった声で出迎えてくるのは―― 一人の小柄な男。


「お前――、生きてたのか……」


 翠色の溶接面にブカブカの作業服という、何処か馴染みのある出で立ちは、  

 スフォルツァ帝国で技師をやっていた鉱人族(ドワーフ)の男である。


『ウチのシェルターはちと古くてな。金属製じゃない御陰で助かったのよ』


 男は忙しそうに開店の準備を進めながらも、俺を見据えるとそう答えてくる。


 男の話によれば、製造区の住人は各々の店を自由に改造していたらしい。

 そして、その一環として建物の地下に設けられた非常用のシェルター。  

 その中へと逃げ込むことで、数百人の住人たちが事なきを得たという。


 しかしそれは、金属製でないシェルターに限定した話。

 性能に劣るが故に助かったという、何とも珍しい幸運である。


『しかし――、あの帝国が一日にして壊滅するたあ、夢にも思わなかったぜ……』


 今でも信じられないといった様子で、(かぶり)を振る鉱人族の男。


 まあ、それも無理はないだろう。

 何せ数千年の歴史を誇る帝国が、たった半日にして終焉を迎えたのだから。


「無事なのは良かったが――、何故此処に店を……?」


 男が生きている理屈は分かったが、何故此処に居るのかという疑問は残る。


『帝国は技術さえあれば良かったが、本来亜人の立ち位置ってのは難しい所だからな。

 比較的温厚だと噂の、この国へと飛んできたってだけの話さ』


 亜人が国に受け入れられるか、それとも排斥されるか。

 前例が殆ど存在しない故に、移住してみなければ分からないというのが現実だそうだ。

 故に治安の良いリヴァリエを選ばんとしたのは、賢明な判断だと言えるだろう。


 余談だが男の移動手段は、匿っていた住人の持つ転移結晶への相乗り。

 金目のモノだけ搔き集めて、住人と共に転移してきたそうだ。

 何とも商売人らしく、抜け目が無い男である。


 まあ、それは兎も角。


 そんな様子で暫く会話を交わしていると、店の奥から二つの影が見えた。


『あ、アレフさん! 来ていたのですね』

『い、いらっしゃいませ……』


 金属製の車椅子を押しながらも、(こな)れた様子で挨拶をする少年――レイと、

 座った姿勢のまま、おずおずと歓迎の言葉を紡ぐ少女――レナ。


 二人の身体は、鉱人族のモノと同じ作業服に包まれている。


「ああ……。しかし、どういう経緯でこうなったんだ……?」


 俺は只、二人が仕事をしていると聞いて様子を見に来ただけであり、

 誰の元で働いているかまでは聞き及んでいなかったのだ。


『えっとですね……、先ずは――』


 何処から話すべきかといった様子で、思案していたレイはやがて言葉を紡ぎ出す。


 それは、俺が眠っていた間の話。


 世話になってばかりの現状を憂いた兄妹は、

 せめて生活費だけでも稼ごうと働くことを決めたそうだ。

 そんな折、アインが道を歩く鉱人族の男と遭遇、兄妹と引き合わせる。

 稼ぐ為の仕事を求める兄妹と、新店舗設立の人手が必要な男。

 互いの思惑が重なった結果として、雇用へと至ったという訳だ。

   

 男の側に、幼気(いたいけ)な少年少女を雇うメリットはあるのか、そう思ったのだが、

 どうやらそこには、俺とアインへの謝意も含まれているらしい。


 というのも、シェルターへと逃げ込んだ男たちは、

 しかし、いつそれが破壊されるとも知れない状況に怯えていたらしい。

 そんな折、俺たちが義腕の男と戦闘を繰り広げていた御陰で、

 兵器群は姿を消し、安全に逃げることが出来たのだとか。


 結果的にそうなったというだけで、

 助ける意図もなければ、感謝される謂れもない訳なのだが……

 勝手にそう思っている分には不都合ないので、まあ別に良いだろう。


 それと――


『二人で「パティア」みたいな……、

 誰かを救える、心優しい機械兵を生み出したいんです』


 とのことで、機械に関するノウハウを学べるこの場所というのは、

 兄妹にとって願ってもない仕事場だったようである。 


 身体の弱いレナが設計を担当、レイが製作を担当し、

 今は亡き両親のような存在を目指しているのだとか。

 消失の傷と向き合う為の手段としては、少し危険な気もするが、

 部外者の俺に、二人の決意を邪魔する権利など有りはしない。


 俺は二人に視線を向けると、軽く声を掛けるに留めておいた。


「そうか……。まあ、二人共頑張れよ」

『『はい――‼』』


 俺の言葉に元気良く返す少年少女。

 そんな二人の頼もしい声を背に受けながら、

 少し広くなった、小人の隠れ家を去ろうとすると――


 鉱人族の男に呼び止められた。


『此れを持っていけ。せめてもの礼って奴だ』


 そう言って男が差し出してくるのは、二振りの剣。


 一方は、その剣身を白く染め上げた細剣(レイピア)

 もう一方は、対照的な黒い剣身を湛える片手直剣(ロングソード)だ。


 材質は白金(プラチナ)黒曜石(オブシディアン)といった所だろうか。

 最高級という程ではないが、それなりに値の張る代物である。

 先の戦闘で剣も杖も紛失しているので、正直かなり助かる。


「礼を言う」


 俺は短い礼と共に二本の剣を受け取ると、今度こそ武具屋を後にした。





                *





 翌日の早朝。


 俺は北西へと旅立つべく、王都の外周部へと足を運んでいた。


 目の前にはアインと、頭巾の少女。

 何故この場に居るのかと、そう聞くだけ無駄なのだろうか……

 ギーメル摂政殿下は、今日も今日とて王城を抜け出してきている。


「やはり、行ってしまわれるのですね……」


 赤銅色の外套に翠色の頭巾という、初めて出会ったときの恰好をしたギーメルは、

 少し落ち込んだような声音でそう呟くと、一歩此方へと近付いてくる。


「今回は知人に会いに行くだけだ……。戦争に行くのとは訳が違う」


 言っていて説得力がないと、我ながらそう思う。

 スフォルツァの時も、「危なければ逃げたら良い」などと宣っておきながら、

 結局はあのザマだったのだから。


「本当ですか……?」


 視線が痛い。

 全身にチクチクと刺さるような、そんな疑惑の視線を感じる。


「今回ばかりは大丈夫……、な筈――」

「もう信用なりません。――という訳で、こちらをお持ちになって下さい」


 俺の苦し紛れの返答をスパっと断ち切ったギーメルは、

 懐から取り出した、一つの魔道具を手渡してくる。


「「――――⁉」」


 ギーメルが渡してきたのは、スキル〖念話〗を模倣した魔道具。

 国家でも数える程しか所持していないとされる貴重な魔道具で、

 その価値にして、数億sは下らないと言われている。

 確かに有れば便利だが、一傭兵が所持していて良い代物ではない。


「いや、これを受け取る訳には……。そもそもどうやって――」

「特別に譲って頂きました」

「譲るってのはどういう……」

「譲って頂きました」


 有無を言わせない様子で、そう主張する頭巾の少女。

 幾ら国家の最高権力者とはいえ、私的運用は許されない筈なのだが……

 恐らく何らかの強引な手段を講じて、確保したのだろう。


「定期連絡を入れること、分かりましたか――‼」

「あ、ああ……」


 尚も続くギーメルの高圧的な主張に、つい押し切られてしまう。

 何故か彼女の言葉には逆らえない、そんな不思議な感覚を覚える。


「スッゲー……。完全にアレフが丸め込まれてる……」


 今まで沈黙を貫いていたアインが、何処か楽しそうに此方を見ている。

 何とも不愉快な話だが、否定出来ないのが辛い所だな……


 因みにアインも何やら用事があるようで、

 あと数日したらリヴァリエを立つつもりらしい。

 それとなく行き先についても聞いてみたのだが、上手く躱されてしまっている。    

 まあ、言いたくないのなら無理して聞き出す必要もないが。


「もう――、無理はなさらないで下さいね……」


 消え入りそうな声でそう言ったギーメルは、俺の胸へと飛び込んでくる。 

 何処か自分の感情を確かめているような、そんな熱い抱擁。

 先程までとは異なる彼女のしおらしい態度が、 

 心の琴線に触れてしまったのは、此処だけの話である。


「ああ……、今度こそは」


 同じ過ちを繰り返すほど愚かな人間ではないと、そう証明する必要がある。

 そんなことを思いながらも、俺は久方振りの一人旅へと繰り出した。




※研究者等の設定

①研究者→スキルの解明、古文書の解読、武具の構造を提案。

②魔道具職人→①を元にスキルに由来する道具を生成。

③武具職人(技師)→①を元に武器や防具を生成。

 研究から生成までを、一人(二人)で行う人もいます。

(ex, コフ→①と② 兄妹の両親→①と③)


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