第四十六話「久方振りの一人旅」
王都「レヴィアルス」―― とある武具屋。
『よお、小僧。やっと目覚めたのか』
くぐもった声で出迎えてくるのは―― 一人の小柄な男。
「お前――、生きてたのか……」
翠色の溶接面にブカブカの作業服という、何処か馴染みのある出で立ちは、
スフォルツァ帝国で技師をやっていた鉱人族の男である。
『ウチのシェルターはちと古くてな。金属製じゃない御陰で助かったのよ』
男は忙しそうに開店の準備を進めながらも、俺を見据えるとそう答えてくる。
男の話によれば、製造区の住人は各々の店を自由に改造していたらしい。
そして、その一環として建物の地下に設けられた非常用のシェルター。
その中へと逃げ込むことで、数百人の住人たちが事なきを得たという。
しかしそれは、金属製でないシェルターに限定した話。
性能に劣るが故に助かったという、何とも珍しい幸運である。
『しかし――、あの帝国が一日にして壊滅するたあ、夢にも思わなかったぜ……』
今でも信じられないといった様子で、頭を振る鉱人族の男。
まあ、それも無理はないだろう。
何せ数千年の歴史を誇る帝国が、たった半日にして終焉を迎えたのだから。
「無事なのは良かったが――、何故此処に店を……?」
男が生きている理屈は分かったが、何故此処に居るのかという疑問は残る。
『帝国は技術さえあれば良かったが、本来亜人の立ち位置ってのは難しい所だからな。
比較的温厚だと噂の、この国へと飛んできたってだけの話さ』
亜人が国に受け入れられるか、それとも排斥されるか。
前例が殆ど存在しない故に、移住してみなければ分からないというのが現実だそうだ。
故に治安の良いリヴァリエを選ばんとしたのは、賢明な判断だと言えるだろう。
余談だが男の移動手段は、匿っていた住人の持つ転移結晶への相乗り。
金目のモノだけ搔き集めて、住人と共に転移してきたそうだ。
何とも商売人らしく、抜け目が無い男である。
まあ、それは兎も角。
そんな様子で暫く会話を交わしていると、店の奥から二つの影が見えた。
『あ、アレフさん! 来ていたのですね』
『い、いらっしゃいませ……』
金属製の車椅子を押しながらも、熟れた様子で挨拶をする少年――レイと、
座った姿勢のまま、おずおずと歓迎の言葉を紡ぐ少女――レナ。
二人の身体は、鉱人族のモノと同じ作業服に包まれている。
「ああ……。しかし、どういう経緯でこうなったんだ……?」
俺は只、二人が仕事をしていると聞いて様子を見に来ただけであり、
誰の元で働いているかまでは聞き及んでいなかったのだ。
『えっとですね……、先ずは――』
何処から話すべきかといった様子で、思案していたレイはやがて言葉を紡ぎ出す。
それは、俺が眠っていた間の話。
世話になってばかりの現状を憂いた兄妹は、
せめて生活費だけでも稼ごうと働くことを決めたそうだ。
そんな折、アインが道を歩く鉱人族の男と遭遇、兄妹と引き合わせる。
稼ぐ為の仕事を求める兄妹と、新店舗設立の人手が必要な男。
互いの思惑が重なった結果として、雇用へと至ったという訳だ。
男の側に、幼気な少年少女を雇うメリットはあるのか、そう思ったのだが、
どうやらそこには、俺とアインへの謝意も含まれているらしい。
というのも、シェルターへと逃げ込んだ男たちは、
しかし、いつそれが破壊されるとも知れない状況に怯えていたらしい。
そんな折、俺たちが義腕の男と戦闘を繰り広げていた御陰で、
兵器群は姿を消し、安全に逃げることが出来たのだとか。
結果的にそうなったというだけで、
助ける意図もなければ、感謝される謂れもない訳なのだが……
勝手にそう思っている分には不都合ないので、まあ別に良いだろう。
それと――
『二人で「パティア」みたいな……、
誰かを救える、心優しい機械兵を生み出したいんです』
とのことで、機械に関するノウハウを学べるこの場所というのは、
兄妹にとって願ってもない仕事場だったようである。
身体の弱いレナが設計を担当、レイが製作を担当し、
今は亡き両親のような存在を目指しているのだとか。
消失の傷と向き合う為の手段としては、少し危険な気もするが、
部外者の俺に、二人の決意を邪魔する権利など有りはしない。
俺は二人に視線を向けると、軽く声を掛けるに留めておいた。
「そうか……。まあ、二人共頑張れよ」
『『はい――‼』』
俺の言葉に元気良く返す少年少女。
そんな二人の頼もしい声を背に受けながら、
少し広くなった、小人の隠れ家を去ろうとすると――
鉱人族の男に呼び止められた。
『此れを持っていけ。せめてもの礼って奴だ』
そう言って男が差し出してくるのは、二振りの剣。
一方は、その剣身を白く染め上げた細剣。
もう一方は、対照的な黒い剣身を湛える片手直剣だ。
材質は白金と黒曜石といった所だろうか。
最高級という程ではないが、それなりに値の張る代物である。
先の戦闘で剣も杖も紛失しているので、正直かなり助かる。
「礼を言う」
俺は短い礼と共に二本の剣を受け取ると、今度こそ武具屋を後にした。
*
翌日の早朝。
俺は北西へと旅立つべく、王都の外周部へと足を運んでいた。
目の前にはアインと、頭巾の少女。
何故この場に居るのかと、そう聞くだけ無駄なのだろうか……
ギーメル摂政殿下は、今日も今日とて王城を抜け出してきている。
「やはり、行ってしまわれるのですね……」
赤銅色の外套に翠色の頭巾という、初めて出会ったときの恰好をしたギーメルは、
少し落ち込んだような声音でそう呟くと、一歩此方へと近付いてくる。
「今回は知人に会いに行くだけだ……。戦争に行くのとは訳が違う」
言っていて説得力がないと、我ながらそう思う。
スフォルツァの時も、「危なければ逃げたら良い」などと宣っておきながら、
結局はあのザマだったのだから。
「本当ですか……?」
視線が痛い。
全身にチクチクと刺さるような、そんな疑惑の視線を感じる。
「今回ばかりは大丈夫……、な筈――」
「もう信用なりません。――という訳で、こちらをお持ちになって下さい」
俺の苦し紛れの返答をスパっと断ち切ったギーメルは、
懐から取り出した、一つの魔道具を手渡してくる。
「「――――⁉」」
ギーメルが渡してきたのは、スキル〖念話〗を模倣した魔道具。
国家でも数える程しか所持していないとされる貴重な魔道具で、
その価値にして、数億sは下らないと言われている。
確かに有れば便利だが、一傭兵が所持していて良い代物ではない。
「いや、これを受け取る訳には……。そもそもどうやって――」
「特別に譲って頂きました」
「譲るってのはどういう……」
「譲って頂きました」
有無を言わせない様子で、そう主張する頭巾の少女。
幾ら国家の最高権力者とはいえ、私的運用は許されない筈なのだが……
恐らく何らかの強引な手段を講じて、確保したのだろう。
「定期連絡を入れること、分かりましたか――‼」
「あ、ああ……」
尚も続くギーメルの高圧的な主張に、つい押し切られてしまう。
何故か彼女の言葉には逆らえない、そんな不思議な感覚を覚える。
「スッゲー……。完全にアレフが丸め込まれてる……」
今まで沈黙を貫いていたアインが、何処か楽しそうに此方を見ている。
何とも不愉快な話だが、否定出来ないのが辛い所だな……
因みにアインも何やら用事があるようで、
あと数日したらリヴァリエを立つつもりらしい。
それとなく行き先についても聞いてみたのだが、上手く躱されてしまっている。
まあ、言いたくないのなら無理して聞き出す必要もないが。
「もう――、無理はなさらないで下さいね……」
消え入りそうな声でそう言ったギーメルは、俺の胸へと飛び込んでくる。
何処か自分の感情を確かめているような、そんな熱い抱擁。
先程までとは異なる彼女のしおらしい態度が、
心の琴線に触れてしまったのは、此処だけの話である。
「ああ……、今度こそは」
同じ過ちを繰り返すほど愚かな人間ではないと、そう証明する必要がある。
そんなことを思いながらも、俺は久方振りの一人旅へと繰り出した。
※研究者等の設定
①研究者→スキルの解明、古文書の解読、武具の構造を提案。
②魔道具職人→①を元にスキルに由来する道具を生成。
③武具職人(技師)→①を元に武器や防具を生成。
研究から生成までを、一人(二人)で行う人もいます。
(ex, コフ→①と② 兄妹の両親→①と③)




