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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第二章:白金技能篇
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第四十二話「目覚め」

 何処か見覚えのある天井。


 光り輝くシャンデリアが室内を照らし、

 開かれた窓からは、気持ちの良い潮風が入り込んでいる。


 ――此処は一体、何処だろうか……


 地獄というには清白過ぎるし、天国というには現実的過ぎる。


「っ――――」


「「――――⁉」」


 身体は――僅かに動くようだ。

 しかし、乾き切った喉は水分を求めているのか、喘ぐような声しか出てこない。


 未だ覚醒し切らぬ意識の中、俺は僅かに上体を起こすと――


「アレフ‼ 良かった……。無事で――」

「アレフ様‼」


 心底安堵したような、そんな二人の顔を視界に捉えた。

 どうやら俺は今、ホームにあるベッドの上に居るらしい。

 それを認識した瞬間、金髪の少女が凭れ掛かるように、その身体を預けてきた。


「――痛いんだが……」


 自分のものとは思えないほど重く感じる腕を動かして、彼女を何とか受け止める。


 別に身体が悲鳴を上げているとか、そういう訳じゃない。

 只――胸が軋むように痛む。

 絶対に生きて帰ると、そう啖呵を切っておいてこのザマだ。


「御自身を大切にと……、あれほど……」


 ギーメルはそう言うと、俺の胸に顔を(うず)めてくる。

 一瞬見えた紅眼には涙が滲んでおり、その下には隈が出来ていた。

 恐らく睡眠も碌に取っていなかったのだろう。

 俺はそんなギーメルに対して、返す言葉を見つけられなかった。


 しかし、どうしてだろうな……

 大して時間を共にしていた訳でも無いというのに。

 まあ走馬灯に映していた俺が言うのも、可笑しな話かもしれないが。


 俺は「済まない」と小さく溢すと、ギーメルの背中をゆっくりと摩る。

 そして横に立つアインへと視線を向けると、目下聞いておくべきことを問い掛けた。


「何故……、俺は生きている……?」


 俺は義腕の男に心臓部を穿ち抜かれ、確実に命を落とした筈だ。

 あれは、実は急所を免れていた――などという次元の話では無かった。


 しかし今の俺は、健康そのもの。

 見覚えの無い純白の寝衣に包まれた肢体に、欠落が有るとは到底思えなかった。


 そうとなれば可能性は一つ。


『黄泉がえり』


 俄には信じ難いが、他に説明の余地は無いだろう。


「直接見た訳じゃない……。けど、アイツが来ていたとしか……」


 そんな俺の疑問を受け取ったアインは、神妙な面持ちでそう呟いた。


「アイツ……?」  

「ゾディアック教の〝教皇〟……。こんな芸当、アイツにしか出来ない――」

「「――――⁉」」


 ゾディアック教。

 それは世界最大級の信徒を抱える宗教派閥の名だ。

 その頂点(トップ)は数々の逸話を残していることで有名だが、

 その反面黒い噂が絶えない連中でもある。


「確かに教皇――様は蘇生術で有名ですが、噂の話なのでは……?」


 少しだけ顔を上げたギーメルが、言い淀むように口を挟む。

 ギーメルの言う通り、逸話の中には蘇生術に纏わるものも存在する。

 しかし俺も正直、眉唾物だと思っていたのだが……


「いや……、事実だよ……」


 対するアインの解答は、驚くべき――というほどでも無いか。

 それ以上に俺が今、生存していることの方が、余程不可解なのだから。


 しかし何故、アインはそう断定出来るのか。

 疑問に思う所ではあるが、問い質すことは出来そうになかった。


 何故なら――


 アインが、言葉では言い表せないほど、複雑な表情を浮かべているからだ。


「そうか……」


 他の可能性を見出せないので、一先ずそれを(アンサー)とする。


 ゾディアック教の教皇が俺を蘇生させたとして、目的は一体何だ……?

 俺は過去、奴らと接点を持った記憶は無い。

 故に、蘇生などという施しを受ける道理も無い筈なのだが……


「駄目だ……、全く以て見当が付かない」

「アイツのことだ、どうせ碌な理由じゃない……。けど――」


 アインが何事か小さく呟いていたが、俺の耳には届かなかった。


 考えても分からないことを考え続けるほど、無駄なことはない。

 アインに聞いておくべきことは、まだまだ有るからな。


 それはそうと――


「あの……、そろそろ離れてくれないか……?」

「駄目……です。約束を破った罰――」


 先程から、しがみ付いたままの姿勢を取っている金髪の少女。

 別に嫌という訳ではないが、ずっとそこに居られると俺も身動きが取れないからな。

 それに――――、いや何でもない。


 しかしそんな彼女も、限界を迎えていたようだ。

 暫く抵抗する素振りを見せていたが、やがて気を失うように眠りに落ちた。

 恐らく張り詰めていた気が抜けたのだろう。


 ギーメルには悪いことをしたな……

 そんなことを思いながらも、彼女の胴体と脚に腕を添えて、横抱きの姿勢を取る。

 そして、そのままシーツの上に寝かせると、上から布団を被せておいた。


「もう少し安静にしとけよ……」

「いや、大丈夫だ。事の詳細を教えてくれ」


 横になっていた所で、訛った身体が元に戻る訳ではない。

 俺は点滴を外した後、ゆっくりと立ち上がると、

 睡眠の妨げにならぬよう、居間(リビング)を目指して歩き出した。


「大丈夫か……⁉」


 途中でバランスを崩して、アインの手を借りることになってしまったが、

 まあ、ご愛嬌という奴だな。


「アレフの意識が無くなった所から話すぞ……」

「ああ、頼む」


 アインの口から紡がれる、俺が死んだ後の成り行き。

 アインの説明を要約するとこうだ。



 ① 俺の残した「氷の種子(アイスシード)」が機能し、義腕の男と相討ち。

 ② 何とか生き延びていた、レイ・レナ・「パティア」によって助けられる。

 ③ 義腕の男に止めを刺しにいった所、謎の人物と邂逅。

 ④ 謎の人物の能力(【泡沫】の上位互換的な)によって、身動きが取れなくなる。

 ⑤ 謎の人物がレイを殺めようとするも、義腕の男が身代わりになる。

 ⑥ 能力が急激に強まり、意識を刈り取られる。

 ⑦ 目覚めた後、再生した俺と散り散りになった「パティア」を含む全員で脱出。

   その際、転移結晶は再び使用可能となっており、義腕の男の亡骸は姿を消していた。

 ⑧ リヴァリエのホームに戻ってから、俺は五日ほど眠り続けていたらしい。


  

 正直疑問に思う所しかないが、アイン自身も把握し切れていないのだろう。


 そして――


「そう……か……」


 自分でも驚くほど、乱される感情。


 レイとレナ、その双方が生きていたというのは、素直に喜ばしい。

 しかし「パティア」の機体は修理の施しようがないほど、破壊し尽くされていたようだ。

 それが俺にとっても少し、物悲しくあるのだろう。

 あれはそう――、生命体と言って差し支えないほどの存在だったのだから。


「二人は何処に?」

「今は買い出しに行ってる。一先ずこの家に滞在してもらうよ」


 生きているのならこの家に居るはず、そう思って聞いたのだが、

 レナまで外出しているとは――、大丈夫なのだろうか……?


 まあ、それはそうと――


「戦争の方は?」

「公国の完勝だ。領土とか諸々全て公国に帰属するらしい。

 まあ生き残りが居ないんだから、当然と言えば当然だけどさ」


 大方予想通りの解答が、アインから返ってくる。

 厳密には生き残りが居ない訳では無いようだが、

 そいつらは公国の捕虜となったか、運良く逃げ延びたかのどちらかだろう。

 国を丸ごと乗っ取られるなど、今の時代珍しいことでもない。


 それから暫く、アインの説明に耳を傾けていたが、

 やがて「カランカラン」という、玄関口の扉に取り付けられた鈴の鳴る音が聞こえた。


『『――――⁉』』


 居間のソファーに座る俺を見て、硬直する二人の少年少女。


『アレフさん――‼ 目覚められたんですね……』

『良かった……、本当に……』


 安堵したような表情で、俺を見据える赤髪の少年――レイと、

 美しい碧眼に大粒の涙を湛える、薄蒼髪の少女――レナ。


 何で此奴らは……、こうも他人のために泣けるのだろうか。


「ああ、御蔭様で……。アインを助けてくれたらしいな――、礼を言う」


 レイとレナがアインを助けなければ、俺たち二人は此処に居なかったかもしれない。

 運命とは実に、酔狂なものである。


「その車椅子は……?」


 そして俺の視線はレナの座る、金属製の車椅子へと向けられる。


「ああ、二人が決めたんだ。『パティア』をレナの脚にするって……」

『何となくだけど、分かるんです……。此処にはもう「パティア」は居ない……』


 外見だけ寄せた機械兵を、再び造ることは簡単だろう。

 しかしそれは「パティア」に似た何かであって、「パティア」ではない。

 それならばレナの半身として、今後も添い遂げる方が良いと考えた結果だそうだ。

 恐らく、かなりの葛藤の末の選択だったのだろうが……


「そうか……。しかし、外に出ても平気なのか――レナ?」

『――だ、大丈夫……。脚は上手く動かないけど、痛くはないから……』


 泣き止んだのを見計らって、レナへと問い掛ける。

 レナは落ち込んでいるのを隠すような口調でそう答えると、弱々しく笑ってみせた。

 恐らく目覚めたばかりの俺に、気を遣ってくれているのだろうな……

 

 当然だが二人共、「パティア」を失った傷は癒えていない。

 しかし、それ以上に短期間で色々なことが起こり過ぎた所為で、

 そんな悲痛な出来事を、自身の中できちんと認識出来ていないのだろう。


「パティア」の消失を再認識した時、二人がそれを乗り越えられるのか。

 心配ではあるが、俺に出来ることも言えることも、特に無いだろうしな……


「……今日は御馳走を作ってやるよ――――、アインが」


 別に深い意味は無い。

 只――、何かで気を紛らわせないと、やっていけない時だってある。

 少しずつでも良い。

 向き合っていって欲しいと、心の底からそう思った。

 




            *




 ――深夜――


 未だ目覚めぬギーメルを横目に見ながら、俺は正体不明の頭痛に悩まされていた。


「っ――――」


 記憶――見知らぬ記憶。

 一組の男と女の、愛と悲恋の物語。

 まるで映写機が投影するスライドのように、断片的に紡がれる情景の中には――



 黒く燃え盛る炎に包まれる、アインの姿が映し出されていた。



「――アインの横に、俺は居るべきじゃないのかもしれないな……」






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