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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第二章:白金技能篇
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第三十六話「戦車」

 時は遡り「スフォルティア」――製造区


 見渡す限りを瓦礫と遺骸に埋め尽くされた、凄惨たる地区の一角。


 そこにはレイとレナ――そして、傷だらけの機械兵「パティア」の姿があった。


『もうやめて――‼』

『ごめん……、パティア……。せめてレナだけでも……』


 周囲を暴走する兵器群に囲まれながらも、

 何とか二人を庇うように立ち回る、一体の戦闘用機械兵。


 左腕は全壊し、頭部も半壊状態。

 また全身には銃痕が刻まれており、

 作動している事自体が奇蹟であると、そう言える程に悲惨な有様であった。


『一度ボウ走してしまった不覚。二度ト同じ過ちヲ繰り返してナルモノですか……』


「パティア」はその鋼鉄の瞳に紅の意思を宿すと、

 二人に銃口を向けていた、二対の突撃銃(アサルトライフル)を打ち落とす。

 そしてその勢いのまま、迫りくる機械兵を大剣で薙ぎ払うと、

 二人を抱えて脱兎の如き逃走を始めた。


『お兄ちゃんから全部聞いたよ……‼ 私なんかのために毎日ずっと……。

 私のことは良いから、お兄ちゃんだけでも連れて逃げて‼』

『駄目だ――レナ‼』


「パティア」に向けて、泣きながらそう訴える薄蒼髪の少女。 


 だが、この場に居る全員が理解していた。

 ――既に誰一人として、逃げ切れる状況には無いと。

 二人の魔力は底を尽き、抗う術は殆ど残されていなかった。


『いいエ……ナりません』


「パティア」はレナの言葉に、強い拒絶の意思を示すと、

何処か過去を顧みるような様子で、独り言のように呟いた。


『約束したノです……。こノ身をかケて、お二人ヲお守リすルと』


 いヤ、チガいマス。

 例え、約ソクしていナかったトしてモ……


 そレに――


『マダ、倒れルワケにはいきまセん。私にハ為さねばナラぬことガ、アルノデス』



          *



 目を覚ますと、三人の人間に囲まれていましタ。


『見てよパティア‼ やっと完成したわ‼

 愛と強さを兼ね備えた超機械兵(スーパー・オートマタ)「パティア」が‼』

『遂に完成なさったのですか――やはり、恥ずかしいですね……。

 どうして私の名前など、お付けになられたのですか?』

『それは俺たちが、相応しいと思ったからだ。

 俺たちは中々、レイとレナを見てやれないからな……。

 パティアさんみたく、正義の心を持った存在が側に居てくれれば安心できる』

『そ、そうですか……』


 その内の一人が、接近してきまス。


『貴方が私の分身なのですね。何だが愛着が湧いてきました』

『アナタガマスターデスカ?』

『いいえ、違いますよ。あなたが守るべきは二人の子供。

 ――でも、一つだけ頼み事をしても宜しいでしょうか?』

『マスターイガイノメイレイヲ、キクコトハデキマセン』

『え――――』

『ふふっ……、真ん中のボタン押せば言う事聞くよ』

『は、はい……。では気を取り直して……』

『ナンナリト』

『もし――、もし彼に会う機会があったら、伝えて欲しい事があるのです――』





           *





「スフォルティア」――中央区


 先程まで降り頻っていた大雨も、やがてその勢いを失っていく。

 黒雲が晴れた後の碧空には、七色に輝く光の半円(アーチ)が架けられており、

 それはまるで、戦いの終焉を示すかの如き神秘性を帯びていた。


「はあ……、はあ……」

「―― 一応探そう……。もう手遅れだろうけど……」


 俺たちの戦いは――幕を閉じた。


 純氷からの再放電を受けて、義腕の男は即死。  

 奴の心臓が停止したことも、既に確認済みだ。


 しかし、敵の主戦力を落としたとはいえ、

 最早この国に戦う余力は残されていないだろう。

 いや、そもそも生きている者がどれほど居るのかも分からない。

 奴の言っていた事が本当なら、全滅という可能性もあり得るのだから。


「気持ちは分かるが、早めに引くぞ。此処に居ても、公国の連中に殺されるだけだ」

「ああ――分かっているさ……」


 アインは昔から子供――特に兄弟姉妹には自棄に甘い。

 深く聞くことはしないが、恐らく――そういう事なのだろう。


 一先ず、上級治療薬と魔力回復薬(マジックポーション)を飲み干した俺たちは、

 帝城の方角を目指して歩き始める。


 すると視界の隅――義腕の男の躯が、蒼色の光を帯び始めたのを捉えた。


「「――――⁉」」


 突如として現れる蒼光の奔流。

 それは次第に勢いを増していくと、男を包み込む美しい繭と化した。


「――氷結光線(アイシクルレイズ)‼」


 俺は咄嗟にその繭へと向けて魔法を放つ。


 絶対に放置してはいけない。

 そんな確信にも似た直感を信じ、男の胴体ごと刺し穿たんとするが――


『キイィィィイィィン‼』


 研ぎ澄まされた氷柱は、そんな甲高い音と共に敢え無く砕け散った。


「「なっ……⁉」」


 まるで結界の如く、外敵から男の身体を防護する鉄壁の繭。

 それは、刹那の攻防など無かったかのように伸長を続けると、


 やがて――人の形を成した。


 崩壊を始める蒼色の繭に、露わとなる肌色の表皮。


 すると、そこには――


「くそっ……、痛てえな」


 何処か気怠そうに独り言ちる、義腕の男が屹立していた。


「……う、嘘だろ⁉ 何で――⁉」

「……確実に心臓は止まっていた。――これも何かの能力か……⁉」


 止まっていた心臓が、独りでに動き出す。

 ――あり得ないことだ。


 だが《白金》スキルという未知の存在が、不可能を可能とするならば……?

 俺たちは、スキルの存在を甘く見ていたのかもしれない。


「悪いなガキ共……。死ねない理由が出来ちまった」


 蒼色の繭を脱ぎ捨てた男は、今度は金色の光を纏い出すと、

 両手を交差(クロス)させ、何やら詠唱を始めた。




        〝我は戦車〟


 古の寓意画(ヴァニタス)の示す所、其れ即ち勝利也

 煌々たる星屑は理想への嚮導、然れど運命を定めし象徴(レガリア)は未だ尽きぬ

 天照らす太陽神が、その身に翼を纏いし時   

 我が純然たる魂は、より高次の存在へと昇華されるだろう


     戦車の正位置 ――『有翼円盤(ディスクス・アーラ)




 聞き覚えの無い詠唱文と共に勢いを増す金色の奔流。


 しかし義腕の男の身に、特に変化は見られなかっ――



『ザシュッッッ――‼』


「――――⁉」



 肩口が――切り裂かれていた。


「あ……? 何で生きてやがる?」


 いつの間にか俺の背後へと回っていた男は、不満気にそう呟く。


 ――俺は今、何をされたんだ……?


 ――いや、見れば分かる。


 刃で肩を切り裂かれたのだ。

 それも正真正銘、視認できないほどの速度(スピード)で。


 唐突に知覚した、凄まじい殺意の波動。

 その影響で、反射的に回避行動を取ったのだが――


 それが無ければ恐らく、俺の身体は真っ二つになっていただろう。


「ぐっ――――⁉」

「理不尽だよな世の中って……。奪う側と奪われる側が明確に分かれてやがる。

 ……まあ死に逝くお前らに言っても、詮の無い話か――」


 奴はそれだけ言うと、俺たちへと向き直る。


(無理だアイン……、逃げろ)

(は……? 何を言って……)

(聞こえなかったのか? 俺が時間を稼ぐ)

(駄目に決まってるだろ‼ 今にも倒れそうじゃねえか⁉)

(だからこそ俺がやるんだろ? それに――)


 切り札を切ったアインよりも、俺の方が時間稼ぎには適している。

 どのみちこの傷じゃあ、満足に疾走出来ないだろうしな……


(俺はお前にとって手段の筈だ、遠慮なく使え。――俺は十分生きた)


 心残りが無い訳ではないが……

 まあ、もういいだろう。

 正直何のために生きているのか、分からなかったしな……


(絶対に駄――)


 俺は〖共鳴〗を切断すると、アインに向けて魔法を放つ。


水螺旋(ウォータースパイラル)


「――――⁉」


 勢いよく射出された螺旋状の水柱が、アインを空中へと押し流していく。


 それと同時――


絶対零度(アブソリュート・ゼロ)‼」


 長ったらしい詠唱をただ傍観しているほど、訛ってはいない。


 俺は事前に構築してあった、水属性最強格の魔法に全魔力を込めると、

 二人を分断する、摂氏マイナス270度の特大氷壁を生成した。


 即座に攻め込まれていたら、二人共命は無かっただろう。

 だが強者であればあるほど、慢心を抱くもの――


「「――――⁉」」 


 しかし――


 俺の(サイド)から、義腕の男は消失していた。


「先ずはお前からだな……。殺す意味は無いが――慈悲を掛けてやる意味も無い」


 凄まじい速度で、氷の生成前に移動を済ませた男は、

 水に流されていたアインを掬い上げると、その胸倉を掴み上げた。


 アインの息を呑む感覚が伝わってくる。


(悪い、終わった……。もしアレフが生き残れたら、俺の金を使――)

(――なあアイン……、知っているか? 〖共鳴〗の真の能力……)

(は……? おい――――‼)


贖罪の山羊(スケープゴート)


 俺の紡ぐ声に合わせて――――アインとの位置が逆転する。


『ドシュッッッッ――‼』



 男の義腕が――俺の心臓部を穿ち抜いた。


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