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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第二章:白金技能篇
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第三十三話「生きる目的」

「カハッ――――――⁉」


「――アレフ‼」


 後ろ側から近付いていた小爆弾が、俺の背部を蹂躙する。


 激痛――外側から内側へと雪崩れ込む、破壊の奔流。

 明滅する視界の中、自身の口から溢れ出る真紅の血潮だけが、

 はっきりとその存在を主張していた。


 徐々に薄れゆく意識の中、荒れ果てた大地が眼前へと迫る――


 ――瞬間――


 俺の身体を支える、一人の男の姿を視界の隅に捉えた。


「――アイン……」

「今治療薬を――‼」


 途中まで引き寄せられていたアインは、覚束ない足取りで俺を抱え上げると、

 一旦体制を立て直すべく、逃げの一手を選択する。


「友情ってやつか? 羨ましいことで」


 俺は判然としない意識の中で、感情の伴わない男の声と、

 空中に蔓延る無数の兵器の残骸(ガラクタ)たちを認識していた。


無慈悲(インベル)なる剣の雨(・グラディウス)


 義腕の男の紡ぐ声に合わせて、帝都中の鉱物が集結を始める。

 それらは刀剣の形に変容を遂げると、俺たち目掛けて一直線に降り注いだ。


「別に恨みは無いが死んでくれ。俺は今、虫の居所が悪いんだ」


 隙間なく空間を埋め尽くす、不可避の刃の嵐。

 俺は全神経を集中させて、アインを包み込むように魔法を構築した。


「……氷結(アイス)……(メイル)……」

「硬質化‼ ぐっ…………⁉」


 俺を庇うように疾走を続けるアインは、身体の至る所を抉られながらも、

 何とか致命傷だけは回避して見せた。

 数こそ多いが、一撃の殺傷能力は然程高くないようだ。


 俺は苦悶の表情を見せるアインを横目に、続けて詠唱を敢行する。


「……万物の根源にして……流動性の象徴――〝神聖水癒(ホーリーウォーター)〟」


 簡略化した詠唱文によって生成された、小さな水の輪が俺たちを包み込む。

 当然だが、完全詠唱よりも効果はかなり低い。


「……無理すんなよ」

「大丈夫だ……、もう立てる……」


 動かなかった手足もどうにか回復し、自立が可能となった俺はアインの横に陣を取る。

 そして懐から取り出した上級治療薬を放り投げると、二人してそれを飲み干した。


「ちっ……、怠いな。――なら、これでどうだ」


 義腕の男は心底億劫そうにそう呟くと、両手を高々と掲げる。


 すると男の頭上に――二本の特大電極棒(レール)が構築された。

 またその間には、独特の形状を持つ銀色の弾丸が設置されている。


電磁加速砲エレクトリカ・アケレラティオ


 電流の供給源は、背後に同時生成された装置だろうか。

 男の言葉に伴って、桁違いのサイズを誇る電磁加速砲(レールガン)は稼働を始める。


 回避は可能か……?

 いや、弾丸のサイズと推定速度から鑑みるに、まず間に合わないだろう。


「アイン、これを使え‼ 氷剣生成(ソードジェネレーション)‼」


 俺はアインの眼前に氷製の直剣を生成すると、

 同時に電磁加速砲へ向けて氷壁を展開する。


氷山障壁(アイスバーグ)‼」


 間違いなく貫通されるだろうが、少しでも時間を稼げればそれで良い。


『ドオオォォォォオォォォン‼』


 凄まじい轟音と共に射出される、銀色の弾丸。

 それは音速をも超越するスピードで氷山を破壊し尽くすと、

 俺たち二人を粉微塵にせんと迫り――


『キイイィィィィイィィィン‼』


 アインの放つ蒼色の剣戟によって、僅かに上空へと逸らされた。


 同時に砕け散る氷結の剣。


「――――⁉ ああ、一過性のスキルか。本当面倒臭えな……」

「今の内に……‼」


 アインが使用したスキル【刹那の闘気】

 一分間という制限付きながら、ステイタスを大幅に上昇させる効果がある。


 切り札を此処で切った形にはなるが、致し方ない。

 俺はアインの眼前に再び氷剣を生成すると、補助(サポート)に回った。


氷柱光線(アイシクルレイズ)


 極限まで細く、鋭く研ぎ澄まされた氷の柱が義腕の男を襲う。


 またアインの握る氷剣は、視界に捉えられない程の速度を伴いながら、

 丸腰の男目掛けて振り下ろされ――


哀れなる王の盾(スクトゥム・レックス)


 ――しかしその全ての攻撃が、義腕の男へと届く前に遮断された。


「一分耐えれば良いだけだろうが……。ご愁傷様だな」


 男はその表情を愉悦に歪ませると、同情するようにそう言い放った。


 男の言葉に合わせて、アインの前に立ちはだかる無数の機械兵たち。

 身体を真っ二つに切断されたかと思えば、次の瞬間には融解し、元に戻る。

 屍兵もかくやという再生能力を前にアインの剣は阻まれていた。


「くそっ……、届かねえ」


 少しずつ前身するアインだが、義腕の男も同時にバックステップを取っている。

 二人の間を埋め尽くす数多の機械兵が、両者のステイタスの差を狭めていた。

 如何に攻撃力が高くとも、届かなければ意味がない。


(どうすりゃ良い⁉ もう時間が無い‼)


 焦りを募らせたアインが、俺に向けて思念を飛ばしてきた。

 一先ずアインの妨げにならないように、目を瞑った俺は思案する。


 現時点で物理、魔法共に有効打となり得る攻撃は見つけられていない。

 このまま時間切れとなって再び電磁加速砲を撃ち込まれれば、俺たちの命は無いだろう。


 いや、待てよ……


 電磁加速砲か……


(アイン‼ そのまま、少し時間を稼いでくれ‼)

(――了解‼)


 俺は一つの可能性に賭け、天に向けて詠唱を始めた。



 万物の根源にして流動性の象徴

 我は水精霊(ウンディーネ)の背信者也

 麗しき悲恋の乙女に背きし〝愚者〟

 至上神よ邪悪なる我に神罰を与え賜え

     

     〝雷雲創造(サンダークラウド)



(アイン‼ 戻ってこい‼)


「おいおい、もう時間切れかよ……。まあいいや――死ね」


 退避を選択したアインを見据えながら、義腕の男はそう呟くと、

 再び二本の特大電極棒を、頭上へと展開する。


 ――それとほぼ同時、帝都上空を黒く染め上げる、積乱雲が発生した。


 遥か上空へ解き放たれた無数の水滴は、鉛直方向へと広がる巨大な雷雲を形成する。

 水の温度を自在に操れるからこそ、為せる業といった所だろう。


 荒れ果てた大地を激しく打ち付ける豪雨と、

 神の怒りを体現するかの如き、白く輝く雲間の稲光。


「あ――?」


 義腕の男も上空の変化に気付いたようで、此方へと向き直ってくる。


「はあ……、何をする気かと思えば……。避雷針って言葉を知らないのか?」


 そして男は、心底バカにしたような声音でそう呟くと、

 展開していた電極棒を更に誇大化させた。


「まあいいや、電流の供給源にさせて貰うぜ――〝電磁加速砲〟‼」


 周囲は殆ど更地と化しているため、雷の落下地点は、間違いなく電極棒になるだろう。


 積乱雲が白く光ると、轟音と共に凄まじい勢いで雷が地上へと降りてくる――


 ――刹那――


超純氷山アイス・インスレーター‼」

 

 俺の全魔力を込めて放たれた純粋たる氷の結晶が、電磁加速砲を包み込んだ。

 圧倒的熱量(エネルギー)を持つ物体だ、そう長くは持たないだろう。


 だが――


『ドオォォォォン‼』


『ガアァァァァアァァァァ⁉』


 電極棒へと吸収されるはずだった雷は――義腕の男目掛けて飛び移った。


「それくらい知っているさ」


〝側撃雷〟


 年に数千件発生する、雷による死亡事故。

 その死因No,2を占めるのが、この側撃雷という現象だ。


 分かりやすいのは、樹木から人間へと雷が乗り移る例だろうか。

 これは、樹木よりも人体の方が電気を通しやすい故に発生する現象である。


 俺が生成した超純氷は、

 大気中の魔素から不純物を極力取り除いて顕現させた、純然たる水の固形体。

 故に殆ど電気を通さない絶縁体として機能する訳だ。

 それはつまり、人体よりも電気を通しにくいという事を意味する。


 それに、奇遇な事に男の両腕は金属製の特注品である。

 何の金属かは知らないが、そちらの方に電気が向くのは必定と言えるだろう。


『ァ――――――』


 全身に超高電圧、高電流の電撃を喰らった義腕の男は、

 意識を保てるはずもなく、その場へと倒れ込んだ。



           *



(俺は……死ぬのか……?)


 薄れゆく意識の中、ヘットは走馬灯のように過去を思い返していた。


(まあいいか別に……。ガキにやられるのは不本意だが、既に生きる目的も無い)


 そう考えたヘットは、その短い人生の幕を閉じようとし――


(一つだけお前に助言してやる)

(――――⁉ し、師匠か⁉)


 突如脳内に語り掛けてくるような、一つの声を認識した。


(ああそうだ。……皇帝は未だ生きているぞ)

(な、何故⁉ 帝城など兵器の宝庫‼ 間違いなく死んだ筈だと……)


 久し振りに聞く声に驚愕していると、更なる爆弾が投下される。

 何と最も憎むべき相手である、スフォルツァの皇帝が生きているというのだ。


(俺に聞かれてもな……。このまま死ぬのは少々気の毒だと、そう思っただけだ)


 師匠と呼ばれる人物は、少し悲しそうな声音でそう答える。


(そうか……、俺はアイツだけは許すことが出来ねえ……。

 絶対に見つけ出して、その首を撥ね飛ばしてやる……)


 ヘットはその瞳に初めて決意を募らせると、存在しない拳を強く握りしめた。


(――どうしてこうも上手くいかないのか……。

 俺は別にお前たちの諍いが見たい訳じゃねえんだがな……)


 そう嘆く師匠の声は、復讐に燃える弟子の元へは届かなかったようだ。


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