第二十九話「能力更新」
魔力=MP
それから二週間が経過した。
そう、二週間だ。
にも拘らず、未だ公国からの進軍は確認できていない。
そして、今日の十二時を以て能力更新が行われる。
故に戦争自体が存在しなかったのだと、そう結論付けるには充分であった。
「やっぱり戦争なんて無かったってことだよな……」
「《白金》スキル自体が眉唾だったんだろ。ちっ……、余計な手間取らせやがって」
帝都「スフォルティア」の宿屋の一室。
俺たちは向かい合いながら、今後の方針について話し合っていた。
「一先ず王国に帰るか? これ以上居ても仕方ないだろ」
「ああ……、念のためギルドに立ち寄ってからだが」
似非魔術師の情報が間違っているとすれば、今後俺はどう動けばいいのか……
未だ奴が王国に滞在しているのなら、確認しておきたい所だ。
暫く話し合っていると、時計の長針と短針が数字の零を示す。
能力更新の時間だ。
「頼む! 次はもう少し高い能力で‼」
そんなアインの切願を聞きながら、俺は右手の甲に刻まれる文字に意識を向けた。
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〈名称〉アレフ
【種族】人族
【体力】49
【魔力】68
【攻撃力】57
【防御力】35
【魔法攻撃力】78
【魔法防御力】51
【敏捷力】74
【運力】27
《スキル》【水精霊の巫女】〖共鳴〗「得意武器:杖(小)」「斬撃」「遠視」
〈名称〉アイン・リベラティオ
【種族】人族
【体力】46
【魔力】39
【攻撃力】81
【防御力】63
【魔法攻撃力】32
【魔法防御力】54
【敏捷力】59
【運力】51
《スキル》【刹那の闘気】〖逆境〗〖得意武器:剣(中)〗「硬質化」
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「おおっ! あー……。良いんだけどさ……」
「十分過ぎるくらいだろ。嚙み合いもかなり良い」
互いの能力を見比べたが、全体的に高水準でスキルとの相性もかなり優秀であった。
「逆だったら良かったのに……。俺、剣苦手なんだけど」
「俺も杖は殆ど使ったことが無い。我慢しろ」
俺はそう言うと、壁に立て掛けてあった瑠璃色の直剣をアインへと放り投げる。
「これを使え。それなりな性能だ」
「おっ、サンキュー! じゃあお礼にこの杖を貸してやろう!」
「そんな安物使えるかよ……。明日買いに行くぞ」
アインが自前の杖を渡そうとしてくるが、丁重にお断りする。
恐らく50万sにも満たない駆け出し用の杖だろう。
「優れた戦士は武器を選ばないってやつだ!」
「なら剣も使えるだろうが……。それはそうと、服も交換しとくか?」
俺はハンガーに吊るしてあった予備の戦闘服を取り外すと、それも投げ付けておく。
「良いけど俺の外套、アレフ君には大き過ぎるんじゃないかな?」
「もう聞き飽きたぞ、その台詞……。いいから寄越せ」
俺の身長は1,75m。
アインとは5cm程しか変わらない筈だが、
此奴曰く1,8mの壁というものが存在するらしい。
心底どうでも良いが。
因みに、俺の戦闘服は機動力重視の軽量仕様。
対するアインの外套は防御力重視の耐性仕様となっている。
気軽に装備を交換できるというのも、コンビを組むメリットの一つだろう。
「相変わらず似合わねえな……。『武闘熊猫』みてぇ」
「だったらお前は『飛翔企鵝』といった所か?」
一先ずサイズが合うか確認してみたが、やはり違和感があるな。
慣れ親しんだ色というのは、案外重要なのかもしれない。
まあ、それは兎も角。
「念のため聞くが、技術教本は買ったんだろうな?」
「ああ、また買ったけど無くした」
然も当然のように嘘を憑くアイン。
俺はバッグから教本を取り出すと、アインへと手渡し――
『ゴッッッッ‼』
「痛ってえぇぇぇぇえぇぇ――⁉」
数千頁を誇る極厚の紙束が、アインの脳天へと直撃した。
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【水精霊の巫女】… 水属性魔法の極致。
【刹那の闘気】… 一日一度、一分間だけ全ステイタスが大幅に上昇する。
〖共鳴〗… 半径百m以内の対象一人と感覚を共有する。
〖逆境〗… ダメージを受ければ受ける程、両攻撃力が上昇する。
〖得意武器:――〗… 使用武器に対する補正。レアリティによって効果量が変化。
「斬撃」… 斬撃に対する威力補正。
「遠視」… 遠くまで見通すことが出来る。
「硬質化」… 身体を硬くする。一分につき間隔三分。
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「悪かったって……。にしても俺のスキル、ピーキー過ぎないか?」
「そうだな。只、発動すればかなりの力を発揮する」
確かにアインに発現したスキルは、限定的なモノが多くなっている。
特に【刹那の闘気】は使い所が重要になってくるだろう。
「俺が後衛でお前が前衛。異論はないな?」
「ないけど……。俺の剣術にあまり期待はするなよ?」
「端からそのつもりだ。明日に備えて今日は寝るぞ」
時計の短針が丁度数字の一を示した時、俺たちは深い眠りに就いた。
*
――翌日――
武器屋で一本の杖を購入した俺たちは、ギルドへと向かっていた。
「流石大国って感じだな……。武器が高けえ」
「武器は俺たちにとっての生命線だ。妥協は出来ない」
「俺に対する当て付けか……?」
俺が今回購入した魔法杖は2200万sの代物。
軽量で頑丈な白色の木材『白楢木』をベースに、
先端には紫色の輝かしい魔晶石が配われている。
魔法とは大気中の魔素を媒介として、火や水といった元素を生成する術である。
そしてその生成過程において、人間の「魔力」が用いられるのだが、
杖はその変換効率を上げる役割を果たしている。
例えば魔力40の人間と、高価な杖を持った魔力20の人間とでは、
行使できる魔法数において後者に軍配が上がる。
言ってしまえば、運の無さを札束で取り戻すことが出来る、そんな道具なのである。
それはさておき、右前方にギルドのデカい建物が見えてくる。
あとは軽く情報収集をして王国へと帰還するだけ。
そんな事を考えていると、突如背後から元気な少年の声が聞こえてきた。
『はぁ……はぁ……、アレフさん! アインさん!
さ、探しましたよ! 何かお礼をさせて頂きたいのですが……』
盛大に息を切らしながら、そう言うのは一人の少年。
燃えるような真紅の髪に、鮮やかな蒼玉色の瞳。
名前は確か「レイ」だったか。
「総額3200万s。お前に返せるのか?」
『うっ……。そ、それはいつか絶対にお返ししますので‼』
「あんまり虐めてやんなよ……。レイ、レナは元気か?」
正直返ってくるとは考えていないが、
これくらい言っておいた方が、今後の働きに期待出来るというものだろう。
『少しずつですが良くなっています。
レナも是非お礼を言いたいと、そう言っていました』
そう言う少年の表情は、喜びと慈愛に満ち溢れていた。
「はあ……。じゃあ先に寄って行くぞ」
『あ、ありがとうございます‼』
「どうせこの後の予定は決まっていないしな」
嬉しそうに礼を言う少年に続いて、俺たちは居住区へと歩を進めた。




