第二十七話「表裏一体」
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『やめてーーーーー!!』
「「――――!?」」
突如瓦礫の中から顔を出す、一人の少年。
彼は額から血を流しながらも、何かを必死に訴え掛けていた。
俺は咄嗟に右手に込めた魔力を沼の外側へと発散すると、アインに向けて叫ぶ。
「アイン! 拘束しろ!!」
「分かってる!」
そう答えたアインが形状変化させていた地面を元に戻すと、
機械兵は上半身を残して地面に埋没した。
「何なんだ……、一体」
一先ず機械兵の無力化に成功した俺たちは、少年の方に視線を向ける。
どうやら倒壊した建物の瓦礫に挟まれており、身動きが取れないようだ。
俺たちは少年の周りの瓦礫を退かし始めると、一分程で救出に成功する。
「やめろとはどういう事だ?」
俺は取り出した上級治療薬を少年に振り掛けながら、そう問い掛ける。
『あの機械「パティア」は僕の――僕たちの親代わりなんです……』
少年は一頻り礼を言った後、おずおずといった様子でそう答えてくる。
その言葉を聞いた俺たちの視線は、上半身だけとなった機械へと向けられた。
『ガ……ギガガ……キノウ……サツリク……』
どっからどう見ても、壊れた殺戮兵器にしか見えないのだが……
「あれがか……?」
「どう見ても戦闘用機械兵なんだけど……」
そう、問題なのはそこだ。
俺たちも一応、介護用機械という存在は把握している。
只、戦闘用機械を戦場以外で見掛けたことがないから困惑しているのだ。
『それは……、僕たちを守れるようにって……』
少年は蒼玉色の瞳に涙を浮かべると、俯きながらそう言った。
「よく分からんが、此処にいると兵士に見つかる。お前の家に案内しろ」
『駄目です! 家には来ないで……下さい……』
少年は強く拒否の意を示したが、
受けた恩を思い出したのか、最後は掠れるほど小さな声で言葉を紡いだ。
「はあ……。じゃあこの機械兵はどうするんだ?
お前にとっては大事なモノなんじゃないのか?」
『うっ……。――分かりました……。お願いします……』
少年は酷く悩んでいたが、
やがて決心がついたのか、渋々といった様子でそう頼んできた。
「そういう事だ。アイン任せた」
「どういう事だよ……。相変わらず人使いが荒いな」
ブツブツと文句を言いながらも、
アインは機械兵を土の檻で包み込むと、それを思い切り担ぎ上げた。
機械兵の全長は1,7mといった所で、人間とさして変わらない造形をしている。
「重過ぎだろ……。アレフ、交代!!」
「俺の攻撃ステイタスじゃ無理だ。頑張れ」
尚も止まらないアインの愚痴を聞き流しながら、俺たちは居住区へと向かった。
*
貧民街――とまではいかないが、非常に質素な建物群。
その内の一つが少年の住む家だという。
今時珍しい木造建築で、かなりの劣化具合を見せていることからも、
その生活の悲惨さが窺えるというものだ。
俺たちはそんな一軒家の前へと来ていた。
「邪魔するぞ」
「お邪魔しまーす」
一先ず機械を運び込むため、少年に続いて中に入る。
『ベッドの方へは近付かないで貰えますか……?』
すると少年が申し訳なさそうに、そう頼んできた。
恐らく誰かが横になっているのだろう。
「分かった、約束する」
俺は短くそれだけ言うと、近くにあった椅子に腰を下ろす。
部屋の中は思いのほか整えられており、不衛生さは感じられない。
必要最低限の家具や道具も揃えられており、
水道や電気なんかも一応は通っているようだった。
「まずはその機械について教えてくれ」
正面に座った少年の顔を見据えながら問い掛ける。
このままお暇しても良かったのだが、
謎の機械について知っておくべきだと、そう判断した結果だ。
『「パティア」は父と母が残してくれた、僕たちの〝家族〟です』
「両親は死んだのか?」
「おい、アレフ!」
『いえ、良いんです……。――戦場で命を落としたと聞いています』
そこから少年――「レイ」が涙ながらに語ってくれたのは、悲惨な過去だった。
少年の両親は帝国の研究者で、妹も含めた家族四人で暮らしていた。
毎日帝城に通い詰めで、中々遊ぶ時間は取れなかったようだが、
家族関係は良好、収入も安定しており、幸せな日々だったという。
しかし、そんな日常も長くは続かない。
突如少年の両親は、戦場への左遷を命じられたのだ。
当時帝国は東の王国と戦争を起こしており、その最前線へと送り込まれたのだという。
そうして両親は敢え無く戦死。
自分たちの死を悟っていた両親は子供たちの護衛のために、
戦闘用機械兵「パティア」を残したという訳だ。
その後ショックのあまり妹は寝たきりとなり、
極度の栄養不良から免疫力が低下、病に侵されることとなる。
現在は少年が妹の点滴を購入するため、必死に働いている。
俺は一通り話を聞き終えた後、引っ掛かった事を少年に尋ねた。
「研究者なのに戦場に駆り出されたのか?」
当然だが、殆どの研究者に戦闘のノウハウは無い。
故に戦場に左遷されるなんて事は起こり得ないはずだが。
『父も母もそれについては何も言ってくれませんでした……。
ですが正義感の強い父と母のことです、何か衝突があったのかもしれません』
まあ、そんな所だろうな……
ただ一つ疑問なのが、名君として称えられるこの国の皇帝が、
貴重な研究者という存在を、無残無惨と切り捨てるのかという点である。
幾ら不興を買ったのだとしても、飼い殺しにするのが一番効率的なはず。
何か生かしてはおけない理由があったのだろうか。
「最後に一つだけ、その機械は何故暴れていたんだ?」
『分かりません……。一緒に街を歩いていたら、突如暴走し始めて……。
長いことお世話になっているので、寿命が来ただけかもしれませんが……』
少年は寂しそうにそう言うと、床に転がる土の塊を見詰めた。
「そうか……、ならいい。まあ精々頑張れよ」
何か帝国に関する情報が得られると期待したが、ハズレだったようだ。
まあ皇帝に何か裏があると知れたのは、収穫と言えるかもしれないが。
これ以上此処に居ても仕方がないので、席を立って外へ出ようとする。
「なあ……、このまま帰るつもりか?」
「どういう意味だ?」
するとアインが険しい表情で俺を引き留めてきた。
「俺たちだったら妹さんを助けられるんじゃないか?」
「何を言うかと思えば……。
助けて何のメリットがある? 俺たちは慈善家じゃないんだぞ」
そんな事、アインだって理解しているはずだが。
「メリットの話はしていない。こいつらが救われるべきだと、そう思っただけだ。
別にお前が嫌ならいいさ、俺がやるだけだ」
「お前は何か大切な目的のために金を集めているんじゃなかったのか?
それに、見た所病気はかなり進行している。万能治療薬でも完全には治らないだろうな」
部屋の奥に見える少女には、数多の管が繋がれていた。
因みに、万能治療薬とは名ばかりで、病気の類にはそこまで効果がない。
意識を戻すくらいは出来るが、ベッド生活は変わらないだろう。
「意識が戻るなら十分だろ。それに俺の方は予定が少し遅れるだけだ」
「今更、罪滅ぼしにもならない偽善に何の意味があるんだ?」
「理屈じゃないといったはずだが」
「平行線だな。コインで決めるぞ」
「…………ああ、いいさ」
今のアインと話していても埒が明かないので、コインで決めることにする。
表ならアイン、裏なら俺の意見が押し通る。
俺たちの中で定められた制約だ。
俺はアインにコインの表面を見せつけると、それを高々と弾き飛ばした。
コインは勢いよく回転していたが、
やがてその勢いを無くすと、急降下して俺の手の甲へと落ちてくる。
そして抑えるために添えていた右手を、ゆっくりと離していく――
コインに刻まれた五芒星は、俺たちの視界に映し出されていた。
「表だ」
何をやっているのか分からない、そんな様子の少年が此方を覗き込んでいる。
「ちっ……。買ってくるから留守番くらいしておけ」
制約は制約。
俺は木製の朽ちた扉に手を掛けると、教会へ向けて歩き出した。
*
(また甘えちまったな……。まあ今回ばかりは譲る訳にはいかなかったが……)
二人残された家の中、アインはそんな事を考えていた。
というのも、アレフが投げたコインは表しか存在しない詐欺コインなのだ。
(「関係に亀裂が入るのを防ぐために此処は引くが、お前の意見を許容した訳ではない」
そんな意思表示なんだろうな……)
そして同時にアインは、アレフの伝言を正しく理解していた。
万能治療薬:2000万s




