第二十六話「壊れかけの機械兵」
太陽が顔を出す時間。
俺たちはギーメルと最後の密会を行っていた。
――いや、というか此奴、昨日からずっと家に居る。
帰れと言っても「今日くらい良いじゃないですか!」の一点張り。
何故かアインは朝方まで帰ってこないし、二人で夜を明かす事となったのだ。
当然部屋は別々だし、特に何も起きていない訳だが。
嫁入り前の娘が……と嘆きたい所だが、割と今更な気がするのは否めない。
今頃王城の方は、大混乱間違い無しだろう。
「では、お気を付けて」
ギーメルはそう言うと軽く手を振ってくる。
「すぐ戻ってくるから。美味しい料理また食べさせてくれよ!」
「内政をどうにかしておけ。俺たちは既にこの国の住人だからな」
「はい、お任せ下さい!」
そんなギーメルの頼もしい言葉を聞きながら、
俺たちは翠色の光に包まれて王国を後にした。
*
『スフォルツァ帝国』――帝都「スフォルティア」
三大国に数えられるだけあって、その帝都はかなり栄えている。
見事に区画整理された、居住区と商業区。
レヴィアルスの街並みを「造形美」とするなら、
スフォルティアの街並みは「機能美」であると、そう表現するのがしっくりくるだろう。
しかしその中でも一際目を引くのが、王城付近に存在する製造区。
『スフォルツァ帝国』は銃や大砲といった兵器を積極的に開発・製造しており、
王城に収まり切らなかった技師たちを、その付近で飼っているのだ。
銃や大砲といった武器はかなり強力で、戦争においては無類の強さを発揮する。
それならば、何故大陸全体に普及していないのか?
理由は単純、費用が掛かり過ぎるからである。
例えば鉛玉を込めた拳銃で、防御力70の人間を撃ったとする。
するとどうなるか。
弾丸は人間の身体を貫通することなく、軽く減り込んだ時点で停止するのだ。
それ程までに防御力というのは重要なステイタスなのである。
故に銃に込める弾丸として鉛は適さず、
真価を発揮するためにはより高位の金属を用いなければならない。
しかしその加工は鉛の数十倍も難しく、加えて素材の値段も高額なことから、
貧乏人では絶対に手の届かない代物となっているのだ。
そしてそんな高級品を量産している、帝国の裕福さが窺えるというものだろう。
話が長くなったが、俺たちはそんな帝都の中心を練り歩いていた。
「これから戦争しようって雰囲気じゃないな……?」
「そうだな……。住民の避難が済んでいてもおかしくないくらいだが……」
《白金》スキルの発現が本当ならば、今月中には公国が攻めてくるはず。
にも拘わらず、帝都では一切そういった雰囲気が感じられなかった。
(あいつの情報違いか……?)
少し嫌な予感を覚えながらも、一先ず俺たちが向かうのは冒険者ギルド。
今の今まで忘れていたが、竜人依頼の報告が未だであった。
多くの人々が犇めく街路を掻き分けて、目的の場所へと足を運ぶ。
「相変わらずのデカさだな」
アインの呟く通り、冒険者ギルドのサイズは他と比べてもかなり大きい。
シンプルを突き詰めたような外観ながら、何処か清潔感を感じさせる、そんな建物だ。
俺たちはその分厚い扉を開くと、中へと入っていく。
ギルド内部に併設された酒場では何人かの冒険者たちが酒を酌み交わし、
依頼の記載された掲示板の前では、一組のパーティがその頭を悩ませている。
俺たちはそんな彼らの側を通り過ぎると、奥に存在する受付口へと歩を進めた。
『本日はどのような御用件で?』
受付に辿り着くと、一人の受付嬢が出迎えてくる。
亜麻色の髪に緑玉色の瞳、世間一般では美人と、そう称される外見だろう。
「依頼達成の報告だ」
短くそう告げると、俺たちは持っていたギルド証を四角い魔道具の上に翳す。
それだけで俺とアインに関する数多の情報が、ギルド側に伝わるようになっているのだ。
『アレフ様とアイン様ですね。「双頭の竜人」討伐の依頼ご苦労様です。
では、何か証となるモノをご提示下さい』
淡々と紡がれる受付嬢の言葉に応え、俺は懐から幾つかの角を取り出す。
魔物討伐の依頼は、討伐の証拠を提示する事で完了となる。
倒した魔物をそのまま提示してもいいが、
竜人の場合は角を二本渡すだけでOKなので、そうする者が大半である。
他にも尻尾や牙などが主な証拠提示手段となっている。
『合計十一万sになります。ご確認下さい』
角を受け取った受付嬢はそれを数えると、白銀貨と白金貨を一枚ずつ渡してくる。
竜人一体につき一万sなので、八体で八万s。
ボス個体は三倍の三万sとなっているので、占めて十一万sの報酬となる。
決して安い額ではないのだが、賭博場の後に見るとかなり霞んでしまうな。
それはそうと、俺は目下確認しておくべき事を問い掛けた。
「一つ質問なんだが、この国で傭兵の募集は行われていないか?」
『今の所は無いですね……。情報が入り次第お知らせします』
受付嬢は少し怪訝そうな顔をしていたが、冷静にそう受け答える。
傭兵と冒険者を掛け持ちする者が多すぎる所為で、
二つのギルドは殆ど同じモノと化してしまっているのだ。
故に冒険者ギルドで傭兵の仕事を斡旋していたりもする。
「そうか、ならいい」
『またのご利用をお待ちしております』
そう言って頭を下げる受付嬢に見送られながら、俺たちはギルドを後にした。
「どういう事なんだろうな?」
ギルド沿いの道を歩きながら、アインがそう問い掛けてくる。
「やはり何かがおかしい……。
戦争自体が存在しないのか、帝国が公国の動きを把握していないのか……」
そうは言ってみたものの、帝国の情報網からして後者は絶対にあり得ないだろう。
「帝国兵だけで返り討ちにできるって事かもよ?」
「その可能性がない訳じゃないが……」
余程戦力に自信があったとしても、傭兵は雇うべきだ。
何故なら突っ撥ねた傭兵が全て敵国側に付いて、
一気に戦力が増幅するという可能性があるからである。
それに住民が一切避難していないというのも気掛かりだ。
「兎に角もう少し探ってみるぞ。何か分かるかもしれない」
考えていても分からないモノは分からないので、一先ず寝床を確保するべく歩き出す。
商業区に差し掛かったくらいだろうか、
行き交う人々もその数を増し、街路は活気に満ちた喧騒に包まれている。
しかし、そんな光景は一瞬にして崩れ去る事となった。
『きゃあぁぁぁぁぁぁ!?』
突如、女の叫び声が街路に響き渡る。
急な出来事に騒めく人々。
街路の奥からは、悲鳴の正体を目の当たりにしたであろう通行人たちが、
群れを為して此方へと雪崩れ込んできた。
『な、何なんだあいつは!?』
『き、危険だ!! 逃げろ!!』
「行くぞアイン」
「えー……、行くのかよ……」
アインの嫌そうな返事を聞きながら、
俺たちは彼らの元居た方角目掛けて、壁伝いに疾駆する。
別に一緒になって逃げても良かったのだが、
その存在を確認だけでもしておくべきだと判断した結果だ。
少し開けた――いや、何者かによって開かれた空間。
その中心部には、一つの影が屹立していた。
『ギギ……ガガガガガ……セン……メツ……』
その存在は俺たちを視界に捉えると、凄まじい勢いで突貫してくる。
「機械兵! 何故こんな所に!?」
「知るか! 合わせろアイン!!」
街のど真ん中に居るには、あまりにも危険すぎる存在を前にして、
俺たちは奴を排除する事を決意した。
「静沈沼!!」
アインが地面に生成した、特大の沼に機械兵が沈められる。
機械兵は脱出を試みるも、その隙を逃すような失策はしない。
「雷牙撃!!」
俺は右手に魔力を集中させ、機械兵の頭部へと雷の顎を喰らわせんとする。
――刹那――
『やめてーーーーー!!』
一人の少年の声が、俺たちの耳を強く叩いた。
魔大砲はスキル付与武器の一種です。




