第二十三話「バトルロワイヤル」
「探査」の知覚範囲は半径100mです。
「はあ……」
どうしてこうなったのだろうか。
俺は眼前に広がる、広大な戦闘場を眺めながら、
そんな現実逃避にも似た思考を巡らせていた。
『バトルロワイヤル』
①賭け金、及び参加人数は任意。
②最後まで生き残った一人が、賭け金を総取りする。
③戦闘場内に設置された武器以外の使用禁止。
④専用の戦闘服の着用義務。
⑤自分以外の武器が、戦闘服を掠めた時点で失格。
⑥スキルの使用禁止。
⑦〖危機回避〗【未来の預言者】スキル持ちは参加不可。
⑧十分置きに1500mの移動と、敵一人の討伐を課す。
⑨以上の規則が守られない場合、失格又は厳罰に処す。
これが今、俺が参加中の遊戯『バトルロワイヤル』の規則である。
『バトルロワイヤル』は比較的運要素の低い賭博として、
主に傭兵や冒険者などの貧乏層を中心に人気を博している。
賭博場の地下に設営された、全12エリアからなる広大な戦闘場を舞台に、
最後の一人になるまで殺し合うという至ってシンプルな遊戯で、
バカでも理解しやすいというのも魅力の一つである。
賭博場側は手数料だけで採算が取れるのか?
そう疑問に思うかもしれないが、全く以て心配は要らない。
というのも、この試合を観戦しているVIPルームの富裕層連中が、
賭博場主体の勝者予想に莫大な金額を賭けているからだ。
まあ言ってしまえば、俺達は奴らのための見世物といった所だろう。
そんな訳で俺は今突撃銃片手に、乾き切った荒野を疾走していた。
武器の種類は様々だが、遊戯の性質上飛び道具が圧倒的に有利となっているため、
皆死に物狂いで弓や銃といった武装を探すことになる。
まあ何処かの脳筋乙女は剣一本で何度も優勝していたりするのだが……
今はそんな事はどうでもいい。
俺は右前方300m地点に捉えた一人の参加者に照準を合わせると、
その軽い引き金を引く。
『ドンッッッ!!』
勢いよく射出された鋼の弾丸――もとい光の礫は、
明後日の方向に視線を向けている参加者の胴体を貫いていた。
当然だが、この遊戯に実弾などは使用しない。
幻惑系統の魔道具を応用した仮想武器で、
剣なら剣身、銃なら弾丸が不可触の部位となっており、
その部位が対象の戦闘服と重なった時点で失格判定となる。
詳しい理論は知らないが、一遊戯に用いて良い技術でないのは確実だろう。
まあそれは兎も角、一先ず現時点から距離を取る。
今の銃声を聞きつけた周囲の参加者に、囲まれる可能性があるからな。
特に開けた荒野など、狙撃手にとって格好の的だ。
俺は高い敏捷ステイタスを活かして、騒がしくなりそうな荒野を後にした。
*
『おいおい諦めろよいい加減! 惨敗王子は大人しく地面に這い蹲ってやがれ!』
『そうだぜ? 二億sに比べたら今回の賞金なんて安いもんだろ!?』
「ちっ……」
始まりの鐘から四十分ほどが経過しただろうか……
俺は今、迫りくる無数の光線を回避することに専念していた。
敵は二人。
それぞれが短機関銃を携えており、
弾丸が切れ次第交代という、人海戦術でこちらを攻め落とさんとしている。
此方も隙を見て応戦しているが、明らかな火力不足。
他の敵と交戦している間に距離を詰められてしまったようで、
射程距離という此方の利点を、全く活かせていないのが現状であった。
(一度体制を立て直す必要があるな……)
一先ず距離を置くべく住宅街エリアへと奴らを誘導した俺は、建物内へと避難する。
とはいえ奴らの推定敏捷ステイタスは70~80。
さらにスキル禁止といっても「探査」などの常時スキルは機能しているので、
単純な狭所における機動力で差を付けなければ、一向に距離を離すことは出来ない。
そんな事を考えていると、俺の第六感が致命的な危機を感じ取った。
(まさか……?)
俺はその直感に従い、窓を突き破り外へ出る。
するとその直後――
『ドオォォォォン!!』
つい先程まで俺が居た建物が、白く染め上げられていた。
(やはり手榴弾か……)
有用武器を複数引き当てる奴らの豪運に、殆嫌になりながらも、
俺は次の策に思いを馳せる。
――しかし奴らは、それを許してはくれなかった。
『二の矢、三の矢を準備するのが傭兵の基本だろ?』
背後から忍び寄る、一つの影。
奴は俺を射程に捉えると、光線の餌食とするべく引き金に手を掛け――
「雷牙撃!!」
俺は持てる全ての力を両手に集め、奴へ向けて迎撃を試みる。
『くそっ……「堅土盾」!!』
すると奴は迫りくるはずの雷から身を守るため、咄嗟に土の壁を生成した。
――正真正銘のバカである。
「マジで引っ掛かるのかよ……」
正直只の悪足掻きとしてやってみたのだが、まさか本当に成功するとは思わなかった。
『は……? あ!!』
ようやく気付いたのか急いで引き金に手を掛けるも、時既に遅し。
奴の身に纏う戦闘服は、奴自身を縛る鎖へと変貌を遂げていた。
『――――?』
相方は何が起こったのか理解出来ていないようで、呆然としている。
その隙を見逃してやるほど俺は優しくない。
十分な距離を取った俺は、奴の眉間に照準を合わせると――
『ドンドンッッッ!!』
何ともまあ呆気ない幕切れである。
*
「パッとしないが……まあいいか」
二人の傭兵を運良く(?)討伐した俺は、戦闘服に刻まれた数字に視線を向けた。
〝2〟
これは俺以外に生存している参加者が一人しかいないことを示している。
「おい、見てんだろ! 早く出て来い」
「いやー、バレちゃった? まあ兄貴なら分かるか……」
そう言いながら、姿を見せる一人の人物。
全く似合っていない黒の戦闘服に身を包んだ、
長身の痩せ男『ベート・オリゴー』である。
「お前が今更、賭博場如きで俺を誘うとは思えないからな」
「それは僕を買い被り過ぎじゃないかな? 単純に兄貴と遊戯がしたかっただけかもよ?」
「無駄話は好きじゃない。目的は何だ?」
此奴のペースに飲まれる前に、事情を聞いておく必要がある。
「目的は何かと聞かれれば、兄貴と一対一で話す事かな?
じゃあまずは……、本題からいこうか」
そう言うと奴は表情を真剣なモノへと変え、言葉を紡ぎ出した。
『――――――――――』
「「――――!?」」
「これを聞いてどうするかは兄貴次第だよ?
僕にとってはまあ……、どっちでもいいからね」
「それは本当なのか?」
「ああ。〝世界〟に誓って」
そう言う奴は、何かを思い出すような素振りを見せると、
憎悪とも悔恨とも見える、そんな複雑な表情を浮かべていた。
「……そうか。――他にも何かあるんだろ?」
「ああ、ミンキアーテ公国で《白金》スキルが発現したらしい。
実に数百年振りの出来事だよ」
「――――!?」
次から次へと此奴は、爆弾発言を投下しやがる。
「《白金》スキルなんて実在したのか?
古文書における空想の産物だと、そう思っていたが……」
俺の知る限り《白金》スキルが発現したという事例は聞いたことがない。
古文書には、大陸を沈めただの、死人を蘇らせただの、
そんなオカルトチックな記述しかなく、その存在自体が疑われている程だ。
「さあね。でも実際、
ミンキアーテ公国がスフォルツァ帝国に反旗を翻す準備をしているみたいだよ」
「お前がその情報を何処で得たか、聞かない方が良いか?」
「そうしてくれると有難いね」
恐らく特殊な情報網を経て入手した情報だろう。
今はそれが聞けただけでも感謝するべきだな。
「それと兄貴たちも向かった方が良いよ、スフォルツァ帝国へ」
「《白金》スキルと対峙しろってことか? 命を無為に捨てる趣味はないが」
「今の兄貴では奴らには勝てない……、いや忘れてくれ。
兎も角、――を助けたいのなら先に帝国へと足を運ぶべきだよ」
そう言う奴の薄翠色の瞳は、一切の濁りを含んではいなかった。
「帝国となれば報酬も段違いだ。どの道アインが行くと言って聞かないだろう」
「それなら心配要らないな。まあ頑張れよ」
そう言うと奴は俺の方へと歩を進め、肩に手を置こうとしてくる。
俺はその手を素直に受け入れる――
訳もなく、隠し持っていた拳銃を奴にお見舞いした。
「それとこれとは別の話だ」
「兄貴……。やっぱり容赦ないね」
そう言って倒れる奴の右手には、しっかりと短剣が握られていた。




