第十八話「合流」
――アイン視点――
「来ねえ……」
発煙弾を打ち上げてから既に数十分が経過している。
俺は一人薄暗い洞穴で、相棒の帰還を待ち侘びていた。
(これだけ掛かるってことは、計画βってことでいいんだよな……。
まさかあいつがやられたなんて事は無い……はずだ)
俺達は大きく分けて二つの計画を想定していた。
リヴァリエを落とすかオーラヘイムを落とすか。
オーラヘイムを目標にするのはかなりリスクが高いが、その分リターンも大きい。
故に状況次第で、アレフが判断を下すという段取りになっているのだ。
暫く待っていると、洞穴に一人の兵士が入ってくる。
いや、その格好からして兵士長だろうか?
少し機嫌が悪そうだが、敵意のようなモノは感じられなかった。
『お前がアインか?』
「ああ、そうだが?」
『玉座の間まで連れて来いとの御達しだ。同行願おう』
「その前に銀髪の男と会話させてくれないか」
恐らく王国に協力を取り付けたという事だろうが、万が一という事もある。
兵士長はそれを聞くと懐から一つの魔道具を取り出した。
これはスキル『念話』を模倣してつくられた魔道具で、
遠方の相手との対話を可能とする超便利アイテムだ。
スキル同様念じるだけという訳には行かないが、
軽く声を発するだけで意思の疎通が出来る時点で十分過ぎる程である。
但しその製造の難易度から国家でも数えられる程しか保有しておらず、
兵士長クラスでないと所持することは許されないだろう。
俺はそんな貴重な魔道具を受け取ると、それに向けて声を発する。
「おーい! 聞こえるか?」
『そんな馬鹿デカい声を出さなくとも、聞こえている』
「王国との交渉は上手くいったのか?」
『ああそういう事だ、早く来い』
プツッ――
あ、切りやがった。
あいつはどうして、こうもせっかちなのだろうか……
まあそれは兎も角、俺は付き添いの兵士長と共に玉座の間に向かった。
*
「おーいアレフ! 久しぶりだな!!」
「まだ一時間も経っていないが……?」
玉座の間に到着すると、敵意の籠った視線が殺到する。
先程俺に出し抜かれた面子が揃い踏みのようだ。
『貴様……仮死状態というのは本当なんだろうな?』
こいつは別の兵士長だろうか。
恨みがましい視線で俺を見据えている。
「ああ、治してやるからそこを退け」
俺がそう言うと、玉座への道を塞いでいた兵士達が脇へと逸れる。
どうやら国王は、玉座に凭れ掛かったままの状態になっているらしい。
それとついでに、第二、第三王子の仮死体も床に転がされている。
俺は三人の前まで歩を進めると、スキル〖毒牙〗を発動した。
〖毒牙〗は数多く存在するスキルの中でも謎の多い部類に属しており、
帝国や王国の研究者を以てしても、未だにその原理を解明できてはいない。
俺はそんな不思議スキルで解毒薬を生成すると、奴らへと振り撒いた。
しっかしこれはどういう原理なんだろうな……
「毒薬変じて薬となる」という言葉があるから、そういう事なんだろうか。
まあ深く考えるだけ時間の無駄か。
そんなどうでもいい思考に捉われていると、やがて王子様達が目を覚ます。
『ここは……?』
『あれ……? 僕は一体何を?』
『…………? お前はあの時の!?』
三者三様、異なる反応を見せる。
「よお、お目覚めか? 早速で悪いんだがご退場願おう」
するとアレフが後ろから顔を出し、そう言い放った。
馬鹿王子が三人いても、作戦に支障が出るだろうから納得だ。
『おい!! 貴様ら俺を誰だと思っているんだ!! いいから離せ!!』
兵士達は少しの間硬直していたがすぐに動き出すと、
三馬鹿トリオに緩い拘束を施し、玉座の間から退場していく。
きっと彼らは王妃の待つ安全圏へと連れていかれるのだろう。
っとそんなことはどうでもいい。
俺はアレフに視線を合わせると、目下聞いておくべきことを確認した。
「俺はこれからこいつらと帝城に行けばいいんだよな?」
「ああ、潜入に役立ちそうな奴を選んでおけ。俺は死体冷凍庫に行ってくる」
そう言うとアレフは、大臣と複数の兵士を伴って玉座の間を出て行った。
「え……居てくれないのか……」
先程の威圧感は消えているが、未だ俺を見る目は厳しい。
正直アレフには居て欲しかったのだが……
「はじめまして。あなたがアイン様ですね?」
どうしたものか悩んでいると一人の少女が声を掛けてくる。
流れるような金髪と、燃えるような紅眼が目を引くが――
「ん……? もしかしてあの時助けてくれた子か?」
「――どうしてあなた方はお気付きになられるのでしょうか……?
私の変装もまだまだですね……」
彼女はそう言うと少し悔しそうな顔をする。
「あ……いや、何かオーラみたいなのを感じるんだよね。カリスマってやつ?」
そんなフォローなのか何なのか分からない言葉しか出てこないが、
実際そうとしか言いようがないのだから仕方ない。
「ありがとうございます? それは兎も角、此方が兵士の能力一覧です」
彼女はそう言うと、ビッシリと書かれた大量の紙束を渡してきた。
「うえー……多いって」
とんでもない量の紙束だ。
まあ一応ステイタスが高い順に並べられているので、全部を見る必要はない。
ステイタスが低くてもスキルは超優秀なんてことがたまにあるが、
それは仕方ないだろう。
俺は三十分ほど掛けて何とか十人決め切った。
「あー……暫く活字は見たくないな」
「お疲れ様です。こちらの十人でよろしいですか?」
「うん。お願いしまーす」
俺が選んだ十人は機動力重視の構成。
全員が銀以上の隠蔽系スキルを所持し、尚且つ敏捷ステイタスが50以上だ。
中でも二人は金スキル【宵闇の使者】を所持している。
――てかこれ俺いらなくね?
隠蔽銅だし、足遅いし。
足手纏いにしかならない気がするんだけど……
そんなことを考えていると、冷凍庫へと行っていたアレフが帰ってくる。
その手には四つの球体が抱えられていた。
「グロイからこっち見せんなよ……。てか王女様の気持ち考えてみろ?」
「そうだったな……」
流石のアレフも悪いと思ったのか、麻袋を取り出し詰め始めた。
というのも、アレフの持っていた四つの頭部は既にスキル付与済みで、
王族四人の顔が複製されている。
つまり王女様は血が滴る自分の生首と対面してしまった訳だ。
かなりショッキングな状況である。
因みにスキル【瘋癲の詐術師】は使用者も含め、
幻覚を見せる対象を選ぶことは出来ない。
便利スキル故の代償……いや制限といったところだろうか。
まあそれは兎も角、王女様は大丈夫なのだろうか。
そう思い彼女の方に視線を向けると、
何やら思い詰めたような表情で考え事をしている様子だった。
「…………」
「ほらやっぱり……。謝れアレフ、ほら早く」
「配慮が足りなかったな、済まない」
「あ……いえそうではないのです。
死者をこのように利用するのは、何だか申し訳ないような気がして……」
「〖死霊術〗とかいう冒涜の極みみたいなスキルがあるんだから今更だろ。
生者を救いたいなら余計な考えは捨てろ。助けられるものも助けられなくなるぞ」
「そうですね……失礼しました」
彼女はそう言うと表情を引き締め、前を見据えた。
それにしても切り替えが早いな。
彼女の中で様々な感情がミキサーされている、そんな気さえしてくる程だ。
「連れていく兵士は決め終わったのか?」
するとアレフは俺へと視線を戻し、そう問い掛けてきた。
「一応ね。でも見れば見る程、俺いらないと思うんだけど……」
「能力だけ見ればな。だがお前以外の奴に命を預けるつもりはないぞ」
嬉しいことを言ってくれるな……と思いたいところだが、
こいつの場合は、俺がサボるのが気に食わないから
仕事を押し付けているという可能性がある。
「信頼し合っているのですね。羨ましい限りです」
彼女が羨望の眼差しでこちらを見てくるが、それはどうだろうか。
「お前も兵士達から信頼されてるだろ? 後はお前側の問題だと思うが」
アレフが言いたいことを言ってくれた。
……ん? そういえば珍しいな。アレフが他人の事情に口出しするのは。
ははーん……もしかして? もしかするのか!?
それを聞いた彼女はハッとした様子で辺りを見渡すと――
『命に代えてもお守り致します、王女様!!』
『何時ぞやの御恩。必ずお返しさせて頂きます!!』
そんな兵士達からの熱い言葉を受け取っていた。
すると彼女は、嬉しいような申し訳ないような、そんな様子で小さく
「ありがとうございます……」と呟くと、視線をアレフへと戻した。
「周りが視えていなかったようですね……。私も努力します」
「なら俺じゃなくて周りを見て言え……。あ、そうだアイン」
そう言うとアレフは三つの転移結晶を投げつけてくる。
……いやそれ落としたら作動しちゃうんだけど。
右手左手、あと内腿でギリギリキャッチすることが出来たからよかったが。
「投げんなし……。てか、俺達は今から出発すればいいのか?」
因みに転移結晶に人数制限は存在しない。
溢れ出る光の奔流に包まれれば転移自体は出来る。
ただ、その代わり少しでも光からはみ出ると、
その部分を置いていくことになってしまうのだ。
そうなると中々のスプラッタなので、基本的に一~五人で使われることが多い。
「何時でもいいが、早いに越したことはないだろ?」
これからアレフ達は偽装工作に入るのだろう。
そしてそれが終わり次第、兵士達を海へと逃がす手筈だ。
「じゃあ行ってくるわ。死ぬなよアレフ」
「ちょっと待て馬鹿、一番大事なことを忘れているぞ」
そう言うとアレフは、俺たちに向けてスキルを行使する。
これで俺達の見た目は、完全に帝国兵のそれになった。
「お前が上手くやれば俺も死ぬことはない。失敗したら殺すぞ、アイン」
確かにこいつなら俺たちが失敗しても、しれっと生き残りそうではあるが。
そんなことを考えながら、俺と王女様含む十二人は帝城へ向けて転移した。




