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生抜同盟 ―白黒傭兵の冒険手記―  作者: 白崎凪
第一章:王国騒乱篇
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第十六話「不殺という名の理想郷」

『――――――!?』


 静寂に満たされた玉座の間は、一瞬にして喧噪を奏で始めた。


『き……貴様何のつもりだ!?』

「おっと、動くなよ。動いたらお前と――大事な跡取り達の首が飛ぶぞ?」

『なにっ……!?』


 皇帝が視線を向けたその先では――


 同じく首に刃物を突き付けられた、王族たちの姿があった。


『貴様……最初から図っておったのか!?』

「ていうか喋るなっつーの。まあ計画(プラン)の一つではあったがな」


 俺はそれだけ言うと、皇帝の耳部に手を当て――


『パァァン!!』


『ぐあっっっ!?』


 鼓膜ごと耳を吹き飛ばした。


(あ……マズイ……)


 何やら背後から責めるような視線を感じるのは、気のせいだろうか。


「なあ……、治せるんだったら傷付けたことにはならない――そう思わないか?」

『くっ……何の話だ――』


 皇帝はついといった様子で口を開きかけると、慌ててその口を閉じる。


「まあそんな訳でお前の心臓部に爆弾を設置させてもらった。

 解除できるのは俺だけ。その意味が分からない程馬鹿じゃないだろう?」

『…………!?』

「あと念のため言っとくが、俺には【哀切の献身者】のスキルがある。

 最悪の場合帝城ごと吹き飛ばすから覚悟しておけよ」


 俺の放つその言葉によって、玉座の間の空気がまた一段と引き締められた。


 当然だがこれはハッタリである。


 スキル【哀切の献身者】は自身の魂と引き換えに、

 超大爆発を引き起こすという諸刃のスキルで、

 一応は〖爆破〗の互換スキルということになっている。

 

 しかしそのデメリットと威力が桁違いであるため、使わずに終わることの多いスキルだ。

 本来であれば苦し紛れの言い訳だと、そう笑い飛ばされる所だろうが、

 現在は俺達の圧倒的優位な状況。


 ハッタリは此方が有利であればある程、その効果を示すモノである。


『……降参だ』


 皇帝は紫水晶色(アメジスト)の瞳に悔しさを滲ませると、掠れたような声でそう告げた。


「ちょっと待て、もう一度だ」

 

 俺は皇后へと刃を向ける一人の兵士に合図を送る。

 するとその兵士は身に着けていた兜を脱ぎ、此方へゆっくりと歩み始めた。


『な……何故……!?』

「それは、降伏宣言ということでよろしいのですね?」


 兵士改め王女様「ギーメル・ディア・リヴァリエ」は皇帝を真っすぐに見据えると、

 はっきりとした声でそう言い放った。


           *


 時は遡り――ギーメルの私室


「結局お前はどうしたいんだ? さっきのまま考えは変わらないか?」

「いいえ。――私は何も死にたい訳ではありません。

 ですが、誰かが傷付くのも傷付けるのも見たくはないのです。

 故に誰も殺されず、誰も殺さない――

 そんな結末があるのなら、見てみたいとそう強く願っています」


 果てしなく自分勝手で、強欲な願望。

 しかしその言葉には他でもない、彼女自身の〝意思〟が込められているような気がした。


「まあいい、俺に考えがある。お義父様の意思とやら完璧に遂行してやるよ」


 だが彼女はその事に気付いていない。

 恐らくは義父(ちち)の意思を遂行しているつもりなのだろう。

 それに気付くのは、彼女自身であるべきだ。


「後のことは、お任せします」


 俺は懐から食刀(ナイフ)を取り出すと――


『ドシュッッ!!』


 ――()()()()を深く切り裂いた。


 飛び散る鮮血で俺の戦闘服が赤く染まる。


「何をなさっているのですか!?」


 彼女は慌てた様子で、自傷する俺を止めに掛かってくる。


「口で言うより見せる方が早いだろ?」


 腕を掴まんとする彼女の右手を回避した俺は、

 食刀を(シース)に仕舞い、さらにそれを巨大な金塊へと変化させた。


「なっ……!? 幻惑系のスキルでしょうか……?」

「ああ、【瘋癲の詐術師】幻惑系の最上位スキルだ。ちょっと触ってみろ」


 彼女はおずおずと金塊へ手を伸ばす。

 しかしその華奢な手は、実態を捉えることなく空を切った。


『…………?』

「【瘋癲の詐術師】で騙せるのは見た目だけだ、触れれば一発で見抜かれる」

「な……成程……? ですが、それが何か?」

「察しが悪いな。これでお前達王族の頭部を複製(コピー)する」

『――――!?』


 彼女は驚いた様子で固まっていたが、すぐに言葉を紡ぎ出した。


「で、ですが……、見抜かれてしまっては意味がないのでは?

 それに何のためにそんなことを……?」

「王国なら死体を保管しているはずだろ? それを使う。

 後者は答える必要があるのか? 分かってるのに質問するのは質が悪いぞ」


 そう言うと彼女は取次筋斗(しどろもどろ)といった様子で、何を言うべきか考え込んでしまう。


 それから三十秒程が経過しただろうか……

 

 彼女は意を決したような表情で俺を見据えていた。


「本気で死者を出さずに切り抜けるおつもりですか……?」

「お前が言い出したことだろうが……。それとも何か?

 今更自分の傲慢さに気付いたとでも言うつもりか?」

「いえ……そうではありません。

 ――ただそこまで真剣に考えて頂けるとは思っていませんでしたので……」

「別にお前のためじゃないぞ? 王都に馬鹿みたいに金を注ぎ込んでいる王国よりも、

 帝国から巻き上げた方が効率いいと判断したまでだ」

「ば…馬鹿とは何ですか!? 街の景観は世界に誇る財産なんです!!」


 何か王都の景観に特別な思い入れでもあるのだろうか……

 彼女は割と本気でご立腹な様子だ。

 右手に作った握り拳がわなわなと震えている。


「お義父様の思いが込められた素晴らしい街です……」


 どうやら違ったようだ。

 これではただの義父依存(ファザコン)である。


「何かズレてるな……。

 まあいい、そういう訳だからお前も協力しろ。聖女様の御言葉が必要になる」


 聖女様の兵士や民衆からの人気はすこぶる高い。

 まあ、定期的に傷を癒していたというのだから当然と言えば当然だろう。


「ですが、お義兄様方は納得なさるでしょうか?

 帝国に正面から勝てると、本気で息巻いていたくらいですし……」

「それについては心配要らない。俺の相棒が既に黙らせてある」


 アインが最低でも国王を仕留めているのは、窓から見える発煙弾で既に把握している。


「――殺してしまったのですか?」

「安心しろ、仮死状態だ。奴らには人質としての使い道がある」

「そうですか……。――あっ……!? 何故放置しているのですか!?」


 思い出されると面倒なので、切った左腕は隠しておいたのだが……

 どうやら、気付かれてしまったようだ。


「ん……? ああ、服を染めるのに丁度良かったからな」

「傷付くところは見たくないと……そう言いましたのに」


 彼女は少し悲しそうな声でそう言った。


「俺は王国の人間でも帝国の人間でもない。なら大丈夫だろ?」

「そういう問題ではないのですが……」

「ならお前が治してくれ」

「勿論です。――――〝解放(アンゴール・リベラティオ)〟」


 温かな光の奔流が俺の左腕優しく包み込む――

 すると深々と刻まれていた裂傷は、跡形もなく消え去っていた。


「もう少しご自身を大切になさって下さい……」

「お前だけには言われたくないんだがな……。まあいい、行くぞ」

「分かりました」


 すると彼女はその華奢な身体を、俺の胸へと預けてくる。


「――何故密着する必要がある……?」

「一先ずは人質になさるのですよね? それならこちらの方がご都合がよろしいかと」

「まあ……そうだが」


 いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべる彼女を視界に捉えながら、

 俺達は玉座の間に向けて歩き始めた。



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