卓球部の俺がハットトリックを決められるはずがない。
高3の球技大会。
健一は午後の出番まで暇を潰そうと、フェンスの外からサッカーの試合を見ていた。
「あんたもサッカー選んでたらモテてたかもね~。」
隣を見ると、幼馴染の真弓がグラウンドを駆け回る選手たちを眺めていた。
「うっさいなぁ。」
健一が出場するのは、卓球だった。しかし花形のサッカーやバレーボールと比べると、卓球は試合も地味なせいか、観客も少なく、決して盛り上がる競技とは言えなかった。健一は中学時代に卓球部に所属していたという理由から、否応なく出場を強いられたのだ。
「卓球にも”ハットトリック”みたいな、かっこいい用語があればいいのにな。」
健一が口を尖らすと、真弓はケラケラと笑った。
「ハットトリックってずるいよね。もう響きからしてキラキラしてるもん。」
「卓球でも、なんか、かっこいい横文字があれば、脚光を浴びて俺でもモテると思うんだが。例えばラブゲームとか?」
「むりむり!知られてないし!」
相手を0点に抑えることをラブゲームというが、知名度はハットトリックと比べたらまだまだだろう。それに、ラブゲームは相手に失礼だという理由から、やってはいけないのが暗黙のルールだ。
「まあ、諦めなって。いくらオリンピックで金メダルとってても、高校生の球技大会レベルじゃ日の目を見ないよ~。」
そんなに言わなくてもいいじゃないかと健一は思いながらも、確かに自分の実力じゃ、観客を沸かせることは到底無理だなと、素直に諦めた。
丁度、学年一のイケメンが、3点目のシュートを決めて、女子がキャーキャー盛り上がっているところだった。
卓球場に向かっていると、後ろから真弓が追いかけてきた。
「私はかっこいいと思うよ。」
「なにが?」
「は?!だから…」
真弓はうつむいて、ぶつぶつと何か言いながら気まずそうに歩いている。
「どうせサッカー部だろ?結局みんな、ああいうやつが好きなんだよな。」
「…ちがっ!」
真弓が突然立ち止まって言った。
驚いて後ろを振り向くと、真弓は何か言いたげに、両手のこぶしを握り締めている。
「な…なんだよ。」
「わ、私は…!おんなじ奴が3回シュート決めるより、1回…あんたが卓球やってるところ…の方が、見たいって思う…。あんたが卓球してるところ…私は嫌いじゃない…。」
2人とも顔が赤かったのは、夕日のせいだったのだろうか。
その日の試合は1-11と散々だったが、健一は人生で初めて思った。
―卓球部も悪くないか。
青春いいなぁぁぁぁ。甘酸っぱい恋愛もいいですね(温かい目)