隣の席の顔デカ地味女に国民的アイドルに似ていると冗談を言ったら激しく動揺していたけど体型的にありえないから面白くなって似ている部分を上げていったら、『内緒にしてくれるなら…』と彼女は制服を脱ぎ始め…。
笑ってもらえたら嬉しいです!
先生の手伝いをさせられることになった俺、日野正幸と隣の席の社本梅子は、部活の生徒が下校した後だというのにまだ学校の印刷室に残っていた。
しかも先生は俺に学校の鍵を預けると、
『ずまん!彼女を待たせているんだ!鍵の掛け方はわかるよな?あとは頼んだぞ日野!』
なんて無責任なことを言って俺と社本を置き去りにして帰ってしまった。
男女だけで夜の学校に残していくとか、教育者としてどうなんですかね?
とはいえ、社本は俺と同じ高1でありながら女性らしさを一切感じない地味女だ。
しかも顔がでかく、将来芸人になったらいいかと思うような面白い顔の造りをしている。
平たく言うと○スなんだが、決して彼女の事が嫌いなわけではない。
異性としての好意を持てないだけだ。
もくもくと先生に言われた作業にいそしむ俺たち。
そのうちこの狭い空間に沈黙が続くのに耐えられなくなった俺は、社本に声をかけることにした。
「社本ってさ、胡桃沢さくらに似てるよな?」
「ひゃいっ?!」
「えっ?」
想定してなかった可愛らしい声色に驚く俺。
いつものハスキーボイスはどこにいったんだよ?
「あ、あの…私なんかのどこが胡桃沢さくらって言うの?」
声色は元に戻ったがすごく動揺している社本。
まるで『秘密がバレた!』みたいに見える。
しかしっ!小説ならともかく『本当は私は胡桃沢さくらでしたっ!見抜いたあなたはすごいね!恋人になってあげるね!ううん、むしろ抱いて!』なんてアホな展開になるわけがない。
何しろ、胡桃沢さくらと社本梅子は名前だけではなく物理的に体型が違いすぎるからだ。
身長154センチと小柄な胡桃沢さくらに対して、身長170センチ近くありそうな社本。
さらに胡桃沢さくらは8頭身美少女なのに、社本は3頭身かと思うほどに頭がでかい。
どう考えても同一人物なわけがない。
共通点と言えば女性であることと高1であることくらいか。
「いや、似ているなって思ったから言っただけだから」
「どどどど、どこが似ているのよ?言ってみて」
何でそんなに動揺する?
どう考えても別人だろ?
まさか魔法で変身しているとか言わないよな?
それこそ小説でもありえないぞ。
そこで俺は2つの可能性に行きついた。
1つ目は、胡桃沢さくらに似ていると言われた社本は有頂天になって、自分のどこが似ているのか聞きたくなったということ。
2つ目は、社本が『自分は胡桃沢さくらだ』と誤認している痛い子だということだ。
『実は私は王女様なのよ』みたいな中二病チックな思い込みをしているのではないだろうか?
俺は面白くなって、その話に乗ることにした。
「前から思っていたんだけどさ、社本さんの歩き方って胡桃沢さくらに似ているよな」
「えっ?そうなの?全然そんな気がしないけど?」
「歩き方というか、重心の掛け方かな。だから一見違う歩き方だけど、同一人物っぽいと思えたんだ」
「そんな…」
驚いた表情をする社本。
「あとは仕草とかかな。胡桃沢さくらって集中すると髪の毛をクルクルするクセがあるって知ってる?」
「聞いたことはあるけど」
「社本も集中すると耳をいじるだろ」
「それじゃあ全然違うじゃないの」
「同じなのは触る場所じゃなくて、指の動かし方だよ」
「へっ?」
「その動かし方で髪を触ったら瓜二つじゃないかな?」
さっきから社本が作業をしながら指を耳元でクルクルしていたから思いついた冗談だ。
胡桃沢さくらファンの俺としては、社本のその仕草が愛らしいさくらたんの仕草と同一とかありえない。
でも、他にも共通点をこじつけてどんどん上げてみる。
「さっきから驚いたときの声質がさくらたんみたいだよね」
「さくらたんって…まさか胡桃沢さくらのファンなの?」
「あっ、う、うん。そうだよ」
今度は俺が慌てる番だった。
『さくらたん』なんて呼ぶのは胡桃沢さくらの大ファンだけだ。
それが社本に知られてしまうなんて!
「そっか、日野君はわた…胡桃沢さくらの大ファンなんだね」
今『わたし』って言いかけた?!
すごい!これは本物だ!
この女、自分があの純真可憐な胡桃沢さくらだと思い込んでやがる!
痛い!痛すぎるぜ!社本!
いっそ、社本のことも『うめたん』って呼んでやろうか(笑)。
「あとは…よく見ると瞳がさくらたんと瓜二つだよな」
「瞳?」
「ああ。俺の部屋に等身大ポスター張ってあるからな。毎日見てるから胡桃沢さくらの瞳も良くわかるんだ」
なんて冗談だよ。
いくら大ファンでも、瞳なんてそんなに個人差無いよね。
黒目の大きさだって全然違うし。
「私、彼女みたいに大きな瞳をしてないわよ」
「うーん、見た目というよりは雰囲気かな?瞳の奥にある気配と言うか?そういうのがさくらたんとそっくりだなって」
「そんな所まで見てくれていたの?!」
驚いた様子の社本。
そしてもじもじとした仕草をし始める。
あれ?もしかして俺が社本の事をすごく見ているみたいに取られたのか?
そんなはず無いからな!
俺はお前にまったく興味なんて無いから!
その顔で芸人デビューできるかもっていう期待はしてるけどな!
「そっか、そうだったんだ」
何か一人で納得している社本。
「それだけ私の事をわかっている人ならいいかな」
そう言うと、いきなり社本は制服を脱ぎ始めた!
印刷室に窓は無いから外から見られることは無いけど、どうして急に?!
「おいっ!やめろよ!何してるんだっ!」
「あなたが私の正体を知っているのなら、いっそ私の事を全部知ってもらおうと思って」
止める間もなくスカートが床に落ち、シャツを脱ぎ、下着姿になる。
俺は思わず目を背けるが…
「ちゃんと見て!」
そう言われても、さくらたんならともかく、いやいや、普通の女子高生ならともかく、ちょっと見た目に問題ありの社本だよ?
頼まれても見たくないんだけど…と思いつつも俺の本能は彼女の下着姿にくぎ付けになっている。
ああ、恋人が居ない歴=年齢の俺では抗うのが無理なのか…。
しかし少しドキドキしていた気分は彼女を見ると飛んで行ってしまった。
なぜなら彼女の胸は身長の割に申し訳程度にしか膨らんでおらず、腹回りが太くてたるんでおり、色っぽさの欠片も無かったからだ。
「なあ、社本。風邪ひくからやめろよな」
思わずそう冷静に言えてしまうほどである。
「正体を知られたからには全てをさらすしかないんです。だから…」
そういうと彼女はパンティに手をかけ、一気に下ろした!
ズリズリズリズリッ!
え?何の音?
何でそんなすごい音がするの?
女性の下着ってそういうものなの?
とか思いつつ見ると、下着を下ろしたはずなのにスパッツを履いている。
何の手品だ?と思ったが良く見るとおかしすぎる。
彼女の足が細くなっているんだ。
「よーいしょっと!」
さらにブラを…じゃなくて、彼女は上半身を脱ぎ捨てた!
どさっ!
「ええええええええっ?!」
俺は驚きの声を上げるしかなかった。
「胡桃沢さくら?!さくらたん?!どうして?!」
そう、社本の中から出てきたのは胡桃沢さくらだったのだ!
「まさか着ぐるみなのか?」
「そうよ。だから誰にも気づかれなかったのに」
この耳触りの良い可愛らしい声は間違いない!さくらたんだ!
「まさか仕草や雰囲気で察せられるとは思わなかったわ」
「あわわわわ…」
俺は何と言っていいかわからなかった。
ただ単に社本をからかっていただけなのに。
さくらたんに似ているところがあるとこじつけて言っただけなのに。
「でも私の本質を見てくれる男性に出会えたなんて奇跡よね!ねえ、日野くん!」
「はい?」
「私の恋人になってくれない?」
「ええええっ?!」
「私のファンなのよね?私の事大好きなんでしょ?」
「好きだけど、大好きだけど…」
「ポスターにキスとかしてたんじゃないの?」
「………してません」
「ふーん、してたんだあ」
「うぐっ」
「でもでもでもね。これからは本当の私とキスもできちゃうんだよっ!」
何だって?!
そんなことになったら
俺は…
俺は…
俺はっ!
「だが断る」
「ええええええええええええええっ?!」
眼を見開いて大声を出して驚くさくらたん。
バラエティ番組でも見たことが無い表情だな。
「ちょっと待って。私の事好きよね?」
「うん」
「大好きよね?」
「うん」
「恋人になってもいいわよね?」
「それは断る」
「どうして?!」
どうしてと言われてもだな…。
「俺、好きな人が居るんだ」
「それって私よね?」
「芸能人のことを好きって言うのと、現実に居る好きな人とは別だよ」
「えーーーっ?!じゃあ、誰?このクラスの誰か?」
「内緒」
「佐藤未希ちゃんとか?」
「うっ」
なぜわかる?!
社本に匹敵する地味な女の子だぞ?!
「ふうーん。でも彼女は無理ね」
「どうしてだ?わからないじゃないか!」
「例えこの学校一のイケメン優等生が告白としたとしてもフラれるわ」
「なんでだよ?!」
「だって、彼女は私とユニット組んでいる雪柳みぞれなんだもの」
「は?」
「ええええええええええええええええええっ?!」
実は佐藤未希の正体も着ぐるみで、その中身は胡桃沢さくらとユニットを組んでいる国民的アイドルの雪柳みぞれだったらしい。
うちのクラスどうなってるんだよ?!
「だから告白しても無理だから、ね」
「それなら改めて告白してみる」
「どうして?!彼女がみぞれってわかったから?」
「違う。俺は彼女の優しさに惹かれていたんだ。だから…秘密を知ったことを謝った上で、彼女に告白する」
「日野くん…わかった。でも、もしフラれたら私と付き合ってね」
「そんな不義理なことはできないよ」
大好きなさくらたんだからこそ、『誰かの代わり』なんかにしたくないからさ。
ともあれ、翌日の放課後に俺は屋上に佐藤美紀を呼び出すと、秘密を知ってしまったことを謝った上で告白した。
「そう、知ってしまったの。それでも、私の正体を知らないで好きになってくれたなんて嬉しいな。じゃあ、いいよ」
「いいって?」
「だから、付き合ってもいいよ」
「本当?!」
「だって、私の外見に惑わされないあなたとなら、きっと素敵な恋人同士になれそうだもの」
そして俺と佐藤は恋人同士になった。
それからというもの、社本は俺に話しかけて来なくなった。
そして俺は日々佐藤と一緒に下校した。
しかしいつまでたっても中身である雪柳みぞれちゃんとは会わせてもらえなかった。
それでも佐藤と話しているだけで俺は楽しかった。
そんなある日のこと。
「ねえ、今日はあなたの家に行っていい?」
「え?知ってると思うけど、今日は俺一人だよ」
「だからよ。私の本当の姿、見せようと思って」
「そっか。わかった」
いよいよ雪柳みぞれちゃんに会えるのか。
さくらたんほどのファンじゃないけど、みぞれちゃんは美人だし、それで佐藤の優しい性格なわけだから文句ないよな。
二人っきりになって、部屋の明かりを消された。
「え?どうして?」
「だって、恥ずかしいから」
そして佐藤の顔が近づき、その口がありえないほどに大きく開いていく。
「私が佐藤で居る時にまずキスしてほしいの」
そう言って開いた口の奥には可愛らしい唇があった。
口の中に口とか、どこのプレ○ターだと言いたいところだけど、こんな愛らしい唇を見たらそんなアホな気持ちはどこかに飛んで行ってしまう。
ちゅっ
「んっ…ふふふっ」
「ん?どうしたんだ佐藤…じゃない?」
「そうよ!私は!」
ばばばっと着ぐるみが脱ぎ捨てられていく。
まさか中に彼女が入っていたなんて!
「驚いたようね」
そりゃあ驚くよ。
てっきり中に居るのがさくらたんと思っていたら、全然違う女性だったから。
「私はさくらとみぞれとひまりのユニット『3U』のマネージャーをしている神坂ほまれよ!」
「いや、そこは『3Uの最後の1人である赤坂ひまりだ』って言うところじゃないの?!なんでマネージャーがこんなことを?!」
「実は3Uがあなたを共有しようって話になってるのよ」
「ふーん…ってなんだって?!どうしてひまりちゃんまで?!」
「あなたのことをさくらとみぞれから聞いて好きになったらしいのよ。それで仲良し3人組が出した結論は『彼氏の共有』だったのよね」
「それでなんであなたが俺とキスするんだ?!」
「だって、私も3Uにデビュー当時から尽くしてきたのよ?あの3人をずっと見守ってきたのに私だけのけものなんて!だからこっそり入れ替わって、既成事実を作りに来たのよ!」
「何てことしてるんですかっ!」
「別にいいじゃない。減るものでもなし」
「そうじゃなくてあなたは…」
「副担任の村枝先生じゃないですかっ!」
アラサー行き遅れの村枝先生。
美人だけどすぐに休んで担任に迷惑をかけまくってるから、行き遅れの理由はそのずぼらなところだと思っていたけど…。
3Uのマネージャーなら忙しくて当然だよな。
「さあ、観念して私と3Uの共同所有物になるのよ!」
「4人と同時に付き合うとか無理です!」
「それなら…カモン!ひまりちゃん!」
「はーい!」
ふいに現れたのは3Uの中で一番大人っぽい美少女。
スタイル抜群の赤坂ひまりだった。
「あたしもキスして、既成事実を作るからっ!」
「やめろっ!」
「逃がさないわよ!観念なさい!」
「ああっ、先生っ?!」
先生はすごい力で俺を羽交い絞めにしてくる。
そして俺の前にひまりちゃんの美しい顔が近づき…
ずりゅっ
「え?」
その顔が口から裂けて、中から幼い女の子の顔が出て来た?!
「んちゅーーーーっ!」
「んんーーーーっ?!」
俺は必死に抵抗した。
抵抗しなければならなかった。
あいてが小学生だったから?
それもある。
でも一番の理由は…
「なんで珠美が?!」
そう、彼女は珠美。
日野珠美。
俺と血のつながった妹だ!
「んふふ。これでお兄ちゃんは珠美のものだねっ!」
「うわああああああっ!」
俺は慌てて家を飛び出した。
しばらく走ると親友である寺門雄介と出くわした。
「どうしたんだ?血相変えて?」
「雄介?!実はな…」
それを言いかけた時に俺は気づいた。
雄介の首の後ろにチャックみたいなものがある?!
今まで気にならなかったくらい僅かな『線』だったけど、何人ものリアルな着ぐるみを見たせいで判別ができるようになっていた。
「じゃあ俺の家で話を聞こうか?」
「え、遠慮するよ」
「何言ってるんだ?おかしな奴だな?あっ、もしかして」
「私が変なことするとか思ってるのかしら?」
と、雄介の開いた口の奥に見える赤い唇がそう言った。
「ぎゃああああああああああああああっ!」
俺は逃げた。
必死に逃げた。
そして警察に飛び込んだ。
…警官も全員着ぐるみだと?!
俺は逃げた。
逃げまくった。
気が付いたら豊洲市場に迷い込んでいた。
「こんな時間にマグロがあるだと?」
夜なのに50体近く並んでいるマグロ。
その背中部分には一様に線が入っており…
「ま、まさか?!」
その中から出てきたのはMGR49のアイドルたちだった!
「ひえええええええっ!」
俺は這う這うの体で逃げ出し、マンガ喫茶の個室に逃げ込んだ!
「ここなら一人っきりになれるぞ。ふう、汗をかいたからシャワーを浴びるか」
俺はその時気づいた。
いや、どうして今まで気づかなかったのだろうか?
俺の背中に、線が入っているということに。
俺は俺ジャナイ?
俺はダレ?
すると触れても居ないのに俺の背中のチャックが降りていき、中から出てきたのは…
パンプキンパイっ!
「…という夢を見たんだ」
「オチがひどい上に重ねて夢オチとか死んだらどうかしら?」
そう言って俺を罵倒するのは一緒に作業をしている社本さんだ。
「だいたいいくら私の顔が大きいからって、着ぐるみなわけないわよ」
「ですよねー」
「あんまり気持ちよさそうに寝ていて、そのうちうなされ始めるから起こしたけど、なんてとんでもない夢を見てるのかしら?」
「面目ない」
「それで、佐藤さんに告白するの?」
「いや、それは夢の中の話で、俺が本当に好きな子は違うから」
「さくらたん?」
「じゃなくて、君だから」
「え?」
「俺は君の事、前から好きだったんだ。だからその…付き合ってください!」
「本当に?」
「本当だよ!」
「私が着ぐるみでも?」
「はははは。そんなはずないじゃないか。…ないよね?」
思わず社本の首の後ろを見てしまう。
線は見当たらない。
「私の中身が誰でも好きでいてくれる?」
「もちろん!」
「中身が80歳のおばあちゃんでも?」
「…か、考えさせてください」
それはさすがにきついです!
告白した相手が実は男性だったというくらいにつらいです!
「冗談よ。中身なんてあるはずないわ。私は私だもの」
いつになく饒舌な社本。
これが彼女の本来の姿なのだろうか?
「じゃあ、目を閉じて」
「え?」
「キスしてあげるから」
「い、いきなり?!」
「ほっぺよ。ほら」
ちゅっ
ちゅっ
じゅりゅっ
「へ?」
今、何かが脱げたような音が?
「えへへへ」
「お、お前はっ?!」
うちの飼い猫のミケっ?!
「という夢を見たのにゃ」
「ミケがしゃべったあああああああっ!」
拙作を最後までお読みいただきありがとうございました!