壊れた少女(2)
「次? まさか……秘奥義を連発できるのか?」
「私はね。特別なの。1日に2回使えるの──今度こそ終わりよ。白兵の──」
この一撃を食らえば死ぬ──。そうしたら──この2年のことを全て忘れてしまう!
「秘奥義──」
ユウトは立ち上がり、手を前に向けた。
「一閃!」
白く光る刃。
「咲き乱れる白扇の薔薇『ヘブンズ-ウォール』!」
ユウトの手の先が光る。そこから現れる無数の蔓。それらは5つの方向に扇情に広がり、次の瞬間には光の花弁となる。
光の盾に振り下ろされた白兵の一閃は、力を失い、トモエは大きく弾き飛ばされた。
「ぅ……」
地面に叩きつけられて、僅かに減少するトモエのHP。
咲き乱れる白扇の薔薇。ユウトの3種の秘奥義のうちの1つだ。
この秘奥義は、もうひとつの秘奥義とセットになっていて、どちらかを1日に1回だけ使える。
多くの秘奥義『1日に1回』という条件をもっていることから察するに、これがユウトの本来の秘奥義なのだろう。
「──最初から秘奥義を覚えていただけじゃなく、複数の秘奥義を持っているのね」
トモエは立ち上がって、再び剣を構えた。
剣の耐久値は毎日武器屋で回復していたので、まさか折れるなどと思ってはいなかった。故に替えなど用意していない。
一応弓ならあるが、弓の耐久値など知れている。まして彼女は一撃必殺のパワータイプ。数発持てば良いほうだろう。
「それでも。武器も無く秘奥義も使用済み。もう勝ち目は無いでしょ? 私もあなたを殺したくは無い。お願いだから、D.Cして」
DC。『データクリア』の略で、プレーヤーによっては、D.C──ダ・カーポと呼んでいる。自身をミラージュワールドから消去する。自殺コマンドだ。
「そんな……こと……」
ユウトは弓を取り出して、構えた。
もし、DCしたら、ミラージュワールドに関する記憶を失ってしまう。
先輩と過ごした半年が無かったことになる。
そんなこと……
「できるかぁ!」
弓が青白く光る。
そうだ。まだできることはある。
「新星の射手(レディアント-アーチャー)──!」
徐々に減っていくHPゲージ。命を光に変換して──放たれた矢はまっすぐトモエに中り、彼女を吹き飛ばした。
トモエの体は建物の壁に打ち付けられ、そのHPゲージは4割強減少した。
HPゲージを一気に消耗したせいか、脱力感に襲われる。
なんとか持ち直し、トモエの方を見ると──。
彼女の眼には涙が浮かんでいた。