4.壊れた少女
「こ、殺すって……」
「ミラーワールドで死ぬと、プレーヤーの資格を奪われ、ミラージュワールドに関する記憶を全て失う」
「先輩との思い出も忘れるでしょ? 人殺しの私も忘れてくれる。……全部上手くいく」
リビングの出口に向かう三矢さん。
「じゃぁね。優斗くん」
そう言って彼女は2階へと上がっていった。
…
夜。
いつものように、優斗はランニングを装って家を出た。だが、ログインするべきかどうか迷った。
本気……だとは考えたくないが、三矢が襲ってくるかもしれないからだ。
迷った結果、先輩に電話をしたのだが、ログイン済みなのか、繋がらなかった。
「行くしかないか……」
もし先輩と三矢が出会ったりしたら、先輩が危ない。
先輩は戦闘能力に長けるといっても、それはあくまで、魔術師としてはのレベルだ。
同レベルかそれ以上の剣士相手に個人戦では話にならない。まして『閃光』の異名を持つ三矢を相手にさせるわけには行かなかった。
「ログイン。プレーヤーネームユウト」
…
ログインしてすぐ、メニューを開き、転移を選択する。
「転移、スクエア」
次の瞬間にはスクエアの転移ポイントに姿を現す。
いつも待ち合わせをしているアイテムショップに向かう。
だが、そこには先輩の姿は無かった。今日は待ち合わせをしていないので当然だろう。
ユウトはアイテムメニューを開いて、ボイスメールを使用した。
「先輩。閃光ジャックが先輩を狙うかもしれないので、これを聞いたら変身をください」
録音完了ボタンを押し、送信する。メニューに送信完了のアイコンが表示された。
ユウトがメニューを閉じたとき、突然後方から声がした。
「こんばんは。ユウトくん」
両手剣を片手で構えるトモエ。
「ミツヤさん……」
「ユウトくん。痛いかもしれないけど、ゲームオーバーになれば、痛かったって記憶も無くなるから安心してね」
トモエは、そういいながら僅かに剣と右足を後ろに引いた。
「ミツヤさん!」
トモエは走り出した。一直線に向かってくる。
「武装、クレイモア」
振り上げられた両手剣を咄嗟にクレイモアで受け止めた。剣と剣がぶつかり、鈍い音をあげる。
ユウトの剣は、名前こそ両手剣の名前だが、両手剣ではない。すこし大き目の片手剣だ。
片手剣と両手剣がぶつかり合えば、力では勝ち目が無い。
だからと言って、反撃するわけにも行かない。となれば取るべき行動は一つだけだ。
ユウトは両手剣を懇親の力で弾き、そのままの勢いで走り出した。目標は百メートルほど離れた場所にあるセーブポイント。
ユウトの目的を察したトモエは、すぐさまユウトをを追撃した。
「ミツヤさん、やめて!」
そう叫ぶが、剣は止まらない。
「秘奥義──」
と、次の瞬間そんな単語が聞こえた。
「──白兵の一閃『ハンド-トウ-ハンド-ストライク』!」
トモエの剣が白く光る。
振り下ろされた剣を、ユウトは咄嗟にクレイモアで防いだ。
だが、次の瞬間。
白兵の剣は、高地人剣を砕き、そのままトモエの体に降り落ちた。
「あぁ!!!!」
大きく弾き飛ばされ、ユウトのHPゲージは3割以下になった。
「な……なんだよ今の……」
「武器と装備の耐久値分HPが残っちゃったか──」
「ミツヤ──お前──」
ミツヤは剣を降ろし、地面に倒れこんでいるユウトを見下げた。
「私はね。これ以外のスキル一つも覚えてないんだ。ある一つだけに特化した剣士。相手を一撃で殺すことだけに特化した戦士なの」
「一撃──で?」
「そう。剣で防がれなかったら今頃ユウトくんは死んでいたはずよ。──ああ。私なんで奇襲を仕掛けなかったんだろ。そうすれば全て片が付いていたのに」
トモエはもう一度剣を構えた。