3.巴の告白
「ユウト……くん」
トモエは鎌の刃を地面に下ろし、ユウトを呆然と見つめた。
足元には、装備品一式と結晶。
この状況──床に装備品と所持アイテムが転がる現象は、プレーヤーが死んだ場合に起こる。
「まさかミツヤさんが閃光ジャック?」
「……」
目を反らすトモエ。しばらくの沈黙。そしてその目が再びユウトに向けられる。
「ええ、そうよ」
「な……」
「驚いた?」
無表情のままそういうトモエ。
「そんな……だって、ミツヤさんがプレーヤーだなんて……」
「半年前。突然この世界に来た。そして説明書を読み、この世界のシステムを知った」
「……ねぇユウトくん。正直に答えて。私は悪いことをしてると思う?」
「本当にミツヤさんがPKをしてるの? なんかの間違」
「間違いじゃないわ。もう何人も殺してる」
「……」
「ねぇ、PKって駄目なこと? 何か悪い? だって、別にここで死んでも、死ぬわけじゃないのよ?」
「だけど……」
「MMORPGって本来そういうものでしょ? 一定のアイテムをプレーヤー同士で奪い合い、時には殺しあう。それは普通のことでしょ?」
「でも、なんのために」
「お金のために決まってるじゃない」
「……お金?」
「そうよ。いい? モンスターから稼げるお金なんて限られてる。モンスターが再出現するには時間が掛かるから。だからプレーヤーを襲い、アイテムとディルを全て奪う。そうすればモンスターを倒すのなんかとは桁違いの利益をえられる。アルバイトするよりもずっと効率がいい。毎日2時間働くだけで1万円以上が手に入るのよ? 自給5000円よ?」
反論することが出来ないユウト。PK行為が正しくないこととは言い切れないという理由もあったが、一番の理由は相手がトモエだということだった。
「でも……この世界でも、殺されれば痛いんだ……」
「……そうね。でも私だって痛かったのよ!」
突然、目に涙を浮かべるトモエ。
「ミツヤ……さん?」
「他人に無理されるのってすごい痛いんだよ!? 口やあそこに汚いものを吐き出されるの! 血だって出た。痛かったのよ!!」
「ミツヤさん、まさか……」
「お父さん借金まみれだったの。それでね、ホテルに連れて行かれた。そこには中年の男が居たの。いつのまにかお父さんは居なかった。その後どうなったかは分かるでしょ? 信じられる!? お父さんは私の体を売ってお金にしたのよ!?」
ぽたぽたと地面に落ちる涙。
「痛いの! 痛かったのよ! 痛かったの! 痛かったのよ!」
泣き崩れるトモエ。
ユウトには何もかもが信じられなかった。
…
ユウトは、トモエを近くのセーブポイントまで送り、ログアウトした。
当然眠れるはずも無かった。
いつも笑顔で、優しい三矢さんにそんなことがあったなんて信じられなかった。