プレーヤーキラー(2)
昼休みの放送室には、砂糖の甘い香りが漂っていた。
「うわぁ……本格的……」
「でしょでしょ? 食べて食べて」
優斗は、巴からフォークを手渡される。
「……うわ、これおいしい」
「ホント? 良かったー」
巴の喜びの言葉に、優斗も自然と笑みがこぼれる。
「三矢さんさすが」
「へへ……」
優斗は一切れ目を食べ終わり、二切れ目に手を出した。。
「……ねぇ、優斗君」
「ん?」
「優斗君ってさ、仲いい先輩がいたじゃない」
「先輩? ああ、中北先輩のこと?」
「そう。中北先輩って、弓道部、ってわけじゃないよね?」
「うん。実は同じネットゲームやってて、そこで知り合ったんだ」
ほとんど本当のことだ。嘘なのは『ネット』という部分だけ。
「そっか」
巴はしばらく黙り込んだ。
そして、ふと「あ」と言って、優斗の顔に指を伸ばした。その指は唇の横をなぞる。
「付いてたよ?」
どうやら、口元に付いたパイの欠片を取ってくれたらしいが……
「……あ、その……ありがとう」
その行動に恥ずかしさを隠せない優斗。
「優斗君可愛い」
「いや、その……」
優斗のは顔は、モモを通り越してリンゴになっていた。
…
数日後。
いつものようにミラージュワールドにログインする。
ギルドリーダー、ハルカの兄ソウヤから出された指令は、C地区の見回り。といってもギルドメンバーはユウトとハルカの2人しかいないので、見回れる範囲は限られているが。
発生しているモンスターを倒しつつ、街を歩いていく。
スクエア以外の通常フィールドはには、普段からほとんど人が居ないが、最近は『ほとんど』ではなく『まったく』人がいない。
「なんか……寂しいかかも」
これは決して他のプレーヤーがいないことに、ではなく、一人フィールドを歩いていることに対してだ。
ここ半年、常にハルカとパーティを組んでいたため、ソロ行動は久しぶりだ。
ただ、この寂しさも悪くはない。適度な孤独も人間には必要だ。
そんなことを考えていると、突然。
「うわぁ!!!!!!!」
突然の叫び声。
「なんだ!?」
ユウトは音の下方向に向かって駆け出した。
「武装、クレイモア」
瞬時に手に剣が握られる。
角を曲がると、人影が見えた。
大きな鎌に、黒いコート。間違いない。数日前にハルカを襲ったプレーヤーキラーだ。
だが、昨日とは違う点が一つだけある。
今日はフードをしていなかった。
プレーヤーキラーが振り返る。
人影──いや彼女の顔には見覚えがあった。
「……ミツヤさん!?」
その顔は間違いなく、トモエのものだった。